モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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第7章 悪役令嬢は目覚めたくない

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それに私はリリーの事も気になっていた。

何故なら彼女の方が、私と目を合わさないようにしているのが分かったから。きっと、さっきの事を気にしてるんだろう。

(やっぱりあれかな?・・・私の事を憎んでたとかいう・・・)

そう思った途端、

「うっ」

私は胸を押さえた。

「アリアナ!どうしたんだい!?まだ具合が・・・」

「いえ、だ、大丈夫です」

心配したクラークを笑ってごまかす。

(自分で勝手に思い出して、ダメージを受けてしまった・・・。)

私はいったいリリーに何をしてしまったのだろう?

理由を教えてくれたら全力で謝るのに・・・いや、教えてくれなくても謝る!

だけどあの時のリリーを思い出すと、この話を蒸し返すのは躊躇われた。きっと彼女も望まないと思ったから。

(リリーが話す気になったら、何時でも言って欲しい)

私は憎まれていたとしても、リリーが大好きなのだから・・・。



「アリアナ様、それでは失礼致しますわ」

ミリアが明るい顔を私に向けた。レティシアやジョーも、

「また明日学校で、アリアナ様」

「じゃーね、アリアナ様」

と笑みを浮かべた。

「とにかく、解決して良かったよ。アリアナ嬢、では」

とクリフも少し恥ずかしそうに笑いながらそう言った。

私はその時、なんとも言えないひっかかりを感じて思わず皆を引き留めてしまった。

「ま、待ってくださいっ、皆さん!」

玄関に向かっていた皆は驚いて、怪訝そうに私を振り返る。

「あ、あの・・・私は・・・」

(どう言ったら・・・?)

少し迷ったけど、思い切って言葉を出した。

「私の事、敬称無しで呼んで貰えませんか?。私は前の世界では普通の庶民なのです。それに公爵令嬢の肩書はやっぱり本当のアリアナのものだと思うのです。だから・・・」

言葉に詰まってしまった。

(実は、線を引かれてるみたいで寂しいなんて、恥ずかしくて言えないし・・・)

私の中でアリアナが「馬鹿ね」と笑った気がした。

「なるほど、それは良いかもしれないな」

タイミング良くトラヴィスが口を挟んだ。

「もう一人のアリアナ嬢と区別する事ができる。では、これからは君の事はアリアナと呼ばせて貰おう」

そう言ってこっそり私にウィンクした。私の為に気をまわしてくれたのだ。

(あ、ありがと、ねーさん)

トラヴィスの配慮に心の中で礼を言う。

「で、でもそんな・・・」「ええ?、どうしましょう」「なんだか恐れ多いです」とミリアにレティシアとグローシアは少し渋っていたけど、私は手を合わせ、

「ほ、本物のアリアナの為にもお願いします!」

そう押し切った。

すると、

「分かったわ!アリアナ。うん、こっちの方が良いね」

真っ先にジョーがそう言った。そして、

「ではアリアナ、俺の事もクリフと呼んでくれ」

とクリフも嬉しそうにしている。

パーシヴァルは興味無さそうに「りょーかい」と手をひらひら振る、リリーは何も言わなかったけど、頷いてくれた。

そんな様子を見て、ミリア達も「では、そうしましょうか・・・」と戸惑いながらも納得してくれたようだ。

「あ、ありがとうございます!」

私はなんとなく背負ってた重荷から解放された気分になった。

(やった、やった。やっぱり『アリアナ様』とか『アリアナ嬢』って私の柄じゃ無いもんなぁ)

それに皆とは対等な関係でいたい。小さな違いかもしれないけど、私にとっては大事な事だったのだ。



だけど、帰り際にそんな浮かれた気持ちがすっ飛ぶような事が起こった。

多分、向こうにとっては取るに足らない事なのだろうが・・・。



皆が玄関を出て行った時、一番最後はディーンだった。ディーンは一度別れの挨拶をし歩き出したのだが、急に振り返ると、私がドアを閉めようとするのを止めた。

「え?あの?」

折角ずっと目を合わさない様にしていたと言うのに、至近距離で見下ろされてドギマギしてしまう。

「ど、ど、どうしました・・・?」

「名前を聞いても良い?」

「え?」

「君の本当の名前」

一瞬息を飲んでしまった。もう誰も呼ばなくなった・・・そしてこれからも呼ばれる事の無い私の名前・・・。どうして今、彼がそれを聞くのだろう?

「あ、あ、あの・・・?」

「教えてくれないか?」

たっぷり10秒ほど迷って、私はポツリと呟いた。

「・・・りな・・です」

「リナ?・・・少し似てるね」

(アリアナに?・・・確かにそうかも?)

ディーンは私を見下ろしたまま、感情の読めない顔で、

「私はずっと君の事をアリアナって呼んでいたから、これからはその名で呼んで良い?」

「へ?は?・・は・・・い?」

その時の私はきっと凄くまぬけな顔をしていたのだろう。

ディーンはクスっと笑うと、

「おやすみ、リナ」

そう言って今度は振り返りもせず、廊下を歩いて行ってしまった。


(・・・へ?)


私はクラークに呼ばれるまでドアを開けたまま、ポカンと玄関でたたずんでいた・・・。



第7章 終
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