モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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第7章 悪役令嬢は目覚めたくない

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トラヴィスはマリオットに対し隙の無い笑みを浮かべた。

「私達も今回の件は公にしたくないので、先生の事を言いふらすつもりはありませんよ。では早速ですが、お願いしても・・・」

トラヴィスが言いかけた時、アリアナが声を上げた。

「申し訳ありません、殿下。その前に少しだけ宜しいですか?。解術の前に魔力を供給して頂きたいのです」

「え?ああ、ではディーンに・・・」

だが、アリアナは顔を横に振った。

「ミリアかグローシアにお願いしたいですわ。女の子から魔力を貰った事が無いのですもの」

いたずらっぽくそう言って、二人の方に顔を向ける。

「頼めますか?」

「承知いたしました!」

とグローシアが勇んで前に進み出る。だけどそれをミリアが止めた。

「グローシアは心配であまり寝てないって聞いたわよ。今回は私がさせて頂くわ」

「いえ、わたくしが!」

「駄目よ、私だってば!」

ささやかな押し問答の末、結局アリアナの魔力の補充はミリアが行った。

ミリアの魔力の光は暖かみのある栗色だった。アリアナの手に赤みが増したようだ。

「まだ、大丈夫なのですが、解術の時に万全にしておきたかったのですわ」

ミリアに礼を言いながら、アリアナはそう説明した。

「それから解術前に、わたくし皆様にお話ししたい事がございますの」

アリアナは椅子に座り直すと、拝む様に両手のひらを合わせた。

「お時間を頂いて申し訳無いですけど、わたくしが皆様と直接お話しできるのは、これが最後かもしれませんから・・・」

「アリアナ!」

隣に座っているクラークがアリアナの方を向いて首を振ったが、アリアナはクラークを宥める様に片手を彼の腕に添えた。そして、座り直す様に背筋を伸ばして顔を真っすぐ上げると、


「短い間でしたが、ありがとうございました」


そう言って頭を下げた。

その場に、何か硬いものを飲み込んだような、重苦しい空気が流れた。

「精神魔術の解術が成功すれば、わたくしは今後、皆様とお会いする事は無くなるでしょう。なので今のうちにお礼を言わせて頂きたいのです。・・・ミリー」

「え!?は、はい」

突然名を呼ばれてミリアが驚いた表情を向ける。

「魔力をありがとう。あなたは優秀だし、勇敢な方よ。あの子もとても頼りにしてるの。あなたは望み通り、きっとこの国の官吏になれると思うわ。だから頑張って。・・・それから、レティ」

「は、はい」

「あなたの絵はとても素敵よ。わたくしを綺麗に描いてくれてありがとう。自分に才能があるって事を疑わないでね。これからもわたくしの絵を描いて欲しいわ」

「はい・・・」

レティがハンカチを目に押し当てた。

「ジョー」

アリアナはジョーの名を呼んだ。

「うん」

「マリオット先生を連れて来てくれてありがとう。あの子もきっと感謝していてよ」

「・・・うん」

「あなたは周りに見せているよりもずっと情熱的な人。だけど気を付けて・・・過度な想いは自分を見失う事になりかねないわ。わたくしのように・・・」

ジョーの目が大きく見開かれた。

「お互い、自分の事もちゃんと見える様になりましょう?」

「・・・分かった」

アリアナはグローシアに目を向けた。

「グローシア、いつもわたくし達とお兄様を守ってくれてありがとう。あなたはもう立派な騎士よ。だから、今度はわたくし達のお姉様になってくれると嬉しいわ」

それを聞いたグローシアは、顔を耳まで真っ赤に染めて、

「は、う、あ・・」

と動揺して声が出せなくなった。何だか目も回っているようだ。

「ア、アリアナ!?」

クラークの慌てた声も聞こえ、アリアナがふふっと笑った。


そしてアリアナの目がクリフと合う。

「クリフ様。あの子はあなたをとても信頼していますわ」

「ああ」

「これからもずっと、あの子の力になってあげてくれます?」

「もちろんだ」

「あの子が自分のものにならなくても?」

クリフが一瞬止まった。だけど、

「そんな事関係ない」

クリフの声に迷いは無かった。

「ありがとうございます」

アリアナの声から安堵が感じられた。


「リリー」

「はい・・・」

リリーが言葉を詰まらせる。目には涙が溜まっていた。

「前にも言いましたが、わたくし貴女の気持ちがとても良く分かりますの」

「・・・・」

「でも、貴女が思っている以上にあの子は貴女が大好きなのよ。だから心配しなくても大丈夫よ」

リリーは手を口に当てながら、何度も頷いた。

「それに、あの子が『彼』に恋する事は無いわ。わたくし確信していますの」

アリアナがそう言うと、リリーはハッと顔を上げた。

「安心なさいと言うのもおかしい事だけど・・・出来れば貴女には『彼』以外の方を追って欲しい。・・・でもそれは無理なのでしょうね」

リリーは黙ったまま俯き、微かに頷いたように見えた。頬には涙の筋が光っている。


アリアナはトラヴィスの方を向いた。

「皇太子殿下、あの子は殿下を慕ってますわ。だけどそれは・・・」

「ああ、単なる仲間意識だ。だけど、これからは分からないだろ?」

トラヴィスはそう言って不敵に笑った。

「ええ、そうですわね」

アリアナの口調にも笑みが混じる。

「彼女の事は任せてくれ。君ごと守ってみせるから」

「ええ。・・・宜しくお願い致します」

丁寧に頭を下げると、アリアナの目がパーシヴァルに向いた。

「皇子殿下には、申し訳ない事をしてきましたわ」

「・・・いいよもう。別に」

「わたくしも殿下と同じ気持ちを抱えているのです」

「うん・・・」

「だけどもう、今日で終わりにしようと思いますの」

そう言うと、アリアナは目が覚めてから初めて、真っすぐにディーンに視線を向けた。
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