203 / 284
第7章 悪役令嬢は目覚めたくない
27
しおりを挟む
女性は前に見た時よりも存在が濃く、真っすぐ伸びたブロンドの髪が揺れている。
(誰なの?・・・あなたは誰なんです?)
彼女は私の問いには答えず、右手を上げ真っすぐ私の方を指さした。
(へ?)
私は戸惑いながらもハッと思い、慌てて後ろを振り返る。すると、黒いフードの人物の顔から面が落ちるところだった。
(あっ!)
その顔はフードに隠れて、やはり見えなかった。だけど何故か見覚えがあると私は確信していた。
(誰?・・・ううう、思い出せない)
黒い人物の表情は分からない。だけど、こいつがずっと笑っているのが分かる。この笑い方・・・。
黄金の光の輝きが私から消える。トラヴィスの魔力の供給が終わったようだ。私は黒い人物から後ずさって離れ、ソファに戻った。女性の姿は既に無かった。
(ふう・・・)
自分の意識世界だというのに、
(どう解釈すれば良いのやら)
私は額を両手で押さえて頭を振った。目の端に茶色がかった黒髪が揺れる。そうだ、前の世界の私の髪の色はこの色だった。すっかり忘れていたのに・・・。
頭を上げるとトラヴィスがアリアナを見ていた。
「どうだ?」
トラヴィスの問いに、
「・・・ありがとうございます。楽になりましたわ」
アリアナが立ち上がって礼を言った。
(良かった。でも、ごめん。ちょっと力を使っちゃった)
私は独り言のようにそう呟いた。
(でも、おかげで色々分かった事があるよ)
黒い人物を見る限り、男か女かは分からないけどそこそこ背は高い。きっと大人だ。それに左手には白い玉・・・トラヴィスの言う魔力増幅の宝珠だな・・・を持ち、右手に二つの指輪。そのデザインも確認出来るようになった。実物を見ればきっと分かるだろう。
(残念な事に詳細を伝えられないのがねぇ・・・)
やはり、魔術の解術を待つしか無いのかもしれない。
黒い人物の正体を探るのに、トラヴィスに貰った魔力を半分くらい使ってしまった。アリアナはまた直ぐに魔力供給が必要になるだろう。私はアリアナに申し訳ない気分になる。
(うう、ほんと、ごめん・・・)
辛い思いをするのはアリアナなのだ。
(次の魔力供給で、アリアナはディーンの魔力を貰うだろうか・・・それともまた拒むかなぁ・・・)
今日もアリアナの視界にディーンはあまり映らない。きっと彼の方を見ないようにしているのだ。
同じ身体に居ると言うのに、アリアナの気持ちが分からない。
何となく情けない気持ちでスクリーンを見つめた。
トラヴィスはアリアナを座らせると、
「彼女とのコンタクトは、少し控えた方が良さそうだ。アリアナ嬢を疲れさせてしまうようだからね」
労わる様にそう言った。
(そうだよ、ねーさん。こっちだって相当疲れるんだから!)
私は右手を振り上げた。弱気な気持ちを追い払いたくて、八つ当たりの様に言ってみる。
「こちらの声を聞いてもらう分には大丈夫のようだから、伝えておこう。今日ジョーが、例の光の魔力の持ち主を連れて来るそうだ」
(え!?)
それは思ってたよりも展開が早い。
「リリーはノエルや女生徒達の解術で疲れているから、夕方に集まる事にした。それまで待っててくれ給え」
(う、うん。分かった)
いよいよもう一人の光の魔力の保有者が分かるわけだ。ちょっとドキドキしてくる。
「だが、私はあまり楽観視はしていない。この精神魔術が強力なのが分かっているからな。もう一人が相当の魔力の持ち主で無ければ解術は難しいだろうから」
(あ、そうだよね。もし、マーリン程度の魔力だったら無理って事だもんね)
だけど、私は不思議な予感を感じていた。前にも思ったけど、やっぱりその人物はこの世界のキーパーソンになるだろうって。
そして同時に不安な気持ちが胸に広がる。
(きっと、この闇魔術は解術されてしまう・・・でも、アリアナ!・・・本当に良いの?)
自分の解術よりも、アリアナの事が気になっていた。だけどアリアナはトラヴィスの言葉に頷いて、
「返事はありませんが、殿下の声は伝わっていると思います。・・・今日の夕方、わたくしもあの子と共に皆様をお待ちしていますわ」
そう言った口調はとても落ち着いたものだった。
(誰なの?・・・あなたは誰なんです?)
彼女は私の問いには答えず、右手を上げ真っすぐ私の方を指さした。
(へ?)
私は戸惑いながらもハッと思い、慌てて後ろを振り返る。すると、黒いフードの人物の顔から面が落ちるところだった。
(あっ!)
その顔はフードに隠れて、やはり見えなかった。だけど何故か見覚えがあると私は確信していた。
(誰?・・・ううう、思い出せない)
黒い人物の表情は分からない。だけど、こいつがずっと笑っているのが分かる。この笑い方・・・。
黄金の光の輝きが私から消える。トラヴィスの魔力の供給が終わったようだ。私は黒い人物から後ずさって離れ、ソファに戻った。女性の姿は既に無かった。
(ふう・・・)
自分の意識世界だというのに、
(どう解釈すれば良いのやら)
私は額を両手で押さえて頭を振った。目の端に茶色がかった黒髪が揺れる。そうだ、前の世界の私の髪の色はこの色だった。すっかり忘れていたのに・・・。
頭を上げるとトラヴィスがアリアナを見ていた。
「どうだ?」
トラヴィスの問いに、
「・・・ありがとうございます。楽になりましたわ」
アリアナが立ち上がって礼を言った。
(良かった。でも、ごめん。ちょっと力を使っちゃった)
私は独り言のようにそう呟いた。
(でも、おかげで色々分かった事があるよ)
黒い人物を見る限り、男か女かは分からないけどそこそこ背は高い。きっと大人だ。それに左手には白い玉・・・トラヴィスの言う魔力増幅の宝珠だな・・・を持ち、右手に二つの指輪。そのデザインも確認出来るようになった。実物を見ればきっと分かるだろう。
(残念な事に詳細を伝えられないのがねぇ・・・)
やはり、魔術の解術を待つしか無いのかもしれない。
黒い人物の正体を探るのに、トラヴィスに貰った魔力を半分くらい使ってしまった。アリアナはまた直ぐに魔力供給が必要になるだろう。私はアリアナに申し訳ない気分になる。
(うう、ほんと、ごめん・・・)
辛い思いをするのはアリアナなのだ。
(次の魔力供給で、アリアナはディーンの魔力を貰うだろうか・・・それともまた拒むかなぁ・・・)
今日もアリアナの視界にディーンはあまり映らない。きっと彼の方を見ないようにしているのだ。
同じ身体に居ると言うのに、アリアナの気持ちが分からない。
何となく情けない気持ちでスクリーンを見つめた。
トラヴィスはアリアナを座らせると、
「彼女とのコンタクトは、少し控えた方が良さそうだ。アリアナ嬢を疲れさせてしまうようだからね」
労わる様にそう言った。
(そうだよ、ねーさん。こっちだって相当疲れるんだから!)
私は右手を振り上げた。弱気な気持ちを追い払いたくて、八つ当たりの様に言ってみる。
「こちらの声を聞いてもらう分には大丈夫のようだから、伝えておこう。今日ジョーが、例の光の魔力の持ち主を連れて来るそうだ」
(え!?)
それは思ってたよりも展開が早い。
「リリーはノエルや女生徒達の解術で疲れているから、夕方に集まる事にした。それまで待っててくれ給え」
(う、うん。分かった)
いよいよもう一人の光の魔力の保有者が分かるわけだ。ちょっとドキドキしてくる。
「だが、私はあまり楽観視はしていない。この精神魔術が強力なのが分かっているからな。もう一人が相当の魔力の持ち主で無ければ解術は難しいだろうから」
(あ、そうだよね。もし、マーリン程度の魔力だったら無理って事だもんね)
だけど、私は不思議な予感を感じていた。前にも思ったけど、やっぱりその人物はこの世界のキーパーソンになるだろうって。
そして同時に不安な気持ちが胸に広がる。
(きっと、この闇魔術は解術されてしまう・・・でも、アリアナ!・・・本当に良いの?)
自分の解術よりも、アリアナの事が気になっていた。だけどアリアナはトラヴィスの言葉に頷いて、
「返事はありませんが、殿下の声は伝わっていると思います。・・・今日の夕方、わたくしもあの子と共に皆様をお待ちしていますわ」
そう言った口調はとても落ち着いたものだった。
23
お気に入りに追加
424
あなたにおすすめの小説

【完結】転生したら脳筋一家の令嬢でしたが、インテリ公爵令息と結ばれたので万事OKです。
櫻野くるみ
恋愛
ある日前世の記憶が戻ったら、この世界が乙女ゲームの舞台だと思い至った侯爵令嬢のルイーザ。
兄のテオドールが攻略対象になっていたことを思い出すと共に、大変なことに気付いてしまった。
ゲーム内でテオドールは「脳筋枠」キャラであり、家族もまとめて「脳筋一家」だったのである。
私も脳筋ってこと!?
それはイヤ!!
前世でリケジョだったルイーザが、脳筋令嬢からの脱却を目指し奮闘したら、推しの攻略対象のインテリ公爵令息と恋に落ちたお話です。
ゆるく軽いラブコメ目指しています。
最終話が長くなってしまいましたが、完結しました。
小説家になろう様でも投稿を始めました。少し修正したところがあります。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。

やり直し令嬢の備忘録
西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。
これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい……
王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。
また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる