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第7章 悪役令嬢は目覚めたくない
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アリアナはもう片方の手でリリーの髪を優しく撫でると、トラヴィスの方へ顔を向けた。
「これ以上は聞かなくても大丈夫ですわ。リリーは今回の件には関係していません」
「しかし・・・」
「殿下、自分の気持ちがままならない事はありましてよ。それがどういう時か、過去のあなたになら理解出来るはずですわ。・・・あの子には分からないでしょうけどね」
(は?なんで?)
私には分からない?。何の事?
トラヴィスは眉を寄せたが、何か思い至ったようだった。そして彼らしくない渋い顔を見せると(あの顔はねーさんの顔だ)頭を掻いて溜息をついた。
「あー、そういう事・・・?」
(え?どういう事!?)
アリアナとトラヴィスの二人で、何を納得してんの!?
他の皆も全く理解出来ていないようで、戸惑った様子でこっちを見ている。だけど、二人はそれ以上説明する気は無いようだった。
「了解した。リリー嬢の事は私が預かる。パーシヴァル、ここまでにしよう。ありがとう、お前のおかげで疑問の幾つかは解決した」
(疑問っていうか・・・パーシヴァル以外は気づいて無かった細かい事でしょ?)
それに幾つかっていう事は、まだ解決していない何かがあるのだろうか?
皆もトラヴィスの言葉に困惑した表情を見せたが、リリーの辛そうな様子にこれ以上追求する気は無さそうだ。
私もモヤモヤした気分を抱えていたが、リリーがこれ以上責められる事は無さそうで、それだけはホッとした。
トラヴィスはアリアナに目を向けると、座る様に促した。
そして、リリーの所に居たアリアナが席に戻ろうとした途端、アリアナの視界であるスクリーンがぐらりと傾いた。
「アリアナ!」
「アリアナ様!」
クラークとミリアの声が響く。
(アリアナ!どうした!?)
ほどなくアリアナの視点が安定し、スクリーンには心配そうなリリーやミリア達の顔が見えた。どうやらアリアナはクラークに支えられているようだ。
「・・・大丈夫ですわ。でも、そろそろ・・・」
アリアナの息が苦し気に乱れている。クラークに流して貰った魔力が切れたって事?。だとしたら、思ってた以上に消費するのが早い。
「今日はここまでにしよう。・・・クラーク、アリアナに魔力を供給するのは誰であっても大丈夫か?」
トラヴィスの問いに、
「試した事はありませんが、恐らく大丈夫かと・・・。ただし、供給側もかなり消耗します。しばらく魔術が使えなくなるほどですので・・・」
「それは、供給量を調整するしかないだろうな・・・。幸いここには魔力量の多い者が揃っているが・・・」
トラヴィスはぐるりと視線を動かし、
「皆、アリアナ嬢の為に協力してくれるだろうか?」
「もちろんですわ!」
ミリアが真っ先にそう言った。
「わ、私も・・・」
「リリー嬢には聖魔術を施して貰わなくてはいけない。魔力の供給は他の者に頼もう」
リリーの眉尻が気落ちした様に下がったが、納得したのか強く頷いた。
「では、俺がまずやります」
クリフが前に進み出た。アリアナはクリフに顔を向けると、
「今日はもう、お兄様に流して貰いましたから・・・」
そう言って断ろうとしたが、
「辛いんだろう?。遠慮はいらない・・・」
クリフはアリアナの返事を待たず手を取った。すると、
(う、うわっ)
さっき目が覚めた時と同じような、弱い電流を流したような感覚。でも、決して不快では無かった。それどころか、
(もしかして、あいつ、嫌がってる・・・?)
黒い影は、明らかにクリフの魔力を厭ってるようだった。
(供給された魔力はアリアナを通して、私にも流れて来ているんだな。でもって、私に力が入るとあの影は困るんだ)
きっとクラークがアリアナに魔力を流さなかったら、私も眠ったままだったのでは無いだろうか?。私はきっとあの時まで、意識ごとあの黒い影に囚われていたのだろう。
クリフの魔力が流れるにつれて、手足に付けられた鎖が少し細くなった気がした。
(温かい・・・)
クリフの魔力は温かくて、上手く言えないけどなんだか深い・・・。自分の手を見ると、薄く柔らかい紫色の光に包まれているように見えた。
(クリフの瞳の色だ)
綺麗だなと素直に思った。
そしてその紫の光は、クリフが魔力の供給を止めると同時に消えた。
「少しは楽になったか?」
クリフの声が優しい。
「ええ・・・ありがとうございます」
彼は小さく頷くと、
「・・・さっきは悪かった」
とアリアナの顔を見ないままそう言った。
アリアナはその後、寝室に戻った。
多分眠っているのだろう、アリアナが見た視界を映すスクリーンは、今は真っ暗になっている。クリフに魔力を供給して貰っても、基本的にアリアナの精神だと肉体は疲れやすくなっているようだ。
(う~ん、退屈かも)
私は半分縛られている様な状態だし、アリアナが起きていないと外がどうなっているのかも分からない。
あの後、皆はスティーブンが作った昼食を食べてから帰ったようだ。トラヴィスだけは用があるからと、先に部屋を出たみたいだったけど・・・。
仕方ないので私も寝ようかとソファに横になったが、色々と気になって眠れない。
(リリーは大丈夫だろうか?)
何が彼女をあんなに苦しめたんだろう?。私は彼女に何をしてしまったのだろうか?。それと、
(ジョーの言ってた、もう一人の光の魔力の持ち主って誰なんだろう?)
誰であろうとその人物は、この物語のキーパーソンになるに違いないのだ。それから、
(ノエルは何処に行った?)
アリアナが寝室に戻る時、ミリアとトラヴィスが話していた。彼はアリアナが目覚める前まで、寝室に居たらしい。でもリビングにも何処にも彼の姿は見られなかった。
そして、驚いた事にトラヴィスはノエルに見張りを付けていると話していた。ノエルは一度精神魔術に操られている。もしかしたら、またその支配下に置かれているのかもしれないからと・・・。
そして一番私が気になったのは、
(アリアナは、彼に一度も話しかけなかった・・・)
私達が目覚めてから、アリアナはディーンと一言も話をする事が無く、視線を合わす事すらしなかった。
(アリアナ・・・)
眠っているアリアナからは、全く感情が伝わっては来ない。私は溜息をついてソファの上で寝がえりをうった。そして何気にこの意識の中の部屋の隅に目をやった。それは、黒い影とは真反対にある場所。
(ん?)
そこに何か、ぼんやりと光の様な物が見えた。
(え?何?)
慌てて体を起こし、目を凝らす。意識を集中させるとその光は少しずつ形を作っていった。
そして、
(う、うわっ!。えっ!だ、誰なの?)
薄い光は一人の女性の形になり、彼女は無表情に私を見つめていた。
「これ以上は聞かなくても大丈夫ですわ。リリーは今回の件には関係していません」
「しかし・・・」
「殿下、自分の気持ちがままならない事はありましてよ。それがどういう時か、過去のあなたになら理解出来るはずですわ。・・・あの子には分からないでしょうけどね」
(は?なんで?)
私には分からない?。何の事?
トラヴィスは眉を寄せたが、何か思い至ったようだった。そして彼らしくない渋い顔を見せると(あの顔はねーさんの顔だ)頭を掻いて溜息をついた。
「あー、そういう事・・・?」
(え?どういう事!?)
アリアナとトラヴィスの二人で、何を納得してんの!?
他の皆も全く理解出来ていないようで、戸惑った様子でこっちを見ている。だけど、二人はそれ以上説明する気は無いようだった。
「了解した。リリー嬢の事は私が預かる。パーシヴァル、ここまでにしよう。ありがとう、お前のおかげで疑問の幾つかは解決した」
(疑問っていうか・・・パーシヴァル以外は気づいて無かった細かい事でしょ?)
それに幾つかっていう事は、まだ解決していない何かがあるのだろうか?
皆もトラヴィスの言葉に困惑した表情を見せたが、リリーの辛そうな様子にこれ以上追求する気は無さそうだ。
私もモヤモヤした気分を抱えていたが、リリーがこれ以上責められる事は無さそうで、それだけはホッとした。
トラヴィスはアリアナに目を向けると、座る様に促した。
そして、リリーの所に居たアリアナが席に戻ろうとした途端、アリアナの視界であるスクリーンがぐらりと傾いた。
「アリアナ!」
「アリアナ様!」
クラークとミリアの声が響く。
(アリアナ!どうした!?)
ほどなくアリアナの視点が安定し、スクリーンには心配そうなリリーやミリア達の顔が見えた。どうやらアリアナはクラークに支えられているようだ。
「・・・大丈夫ですわ。でも、そろそろ・・・」
アリアナの息が苦し気に乱れている。クラークに流して貰った魔力が切れたって事?。だとしたら、思ってた以上に消費するのが早い。
「今日はここまでにしよう。・・・クラーク、アリアナに魔力を供給するのは誰であっても大丈夫か?」
トラヴィスの問いに、
「試した事はありませんが、恐らく大丈夫かと・・・。ただし、供給側もかなり消耗します。しばらく魔術が使えなくなるほどですので・・・」
「それは、供給量を調整するしかないだろうな・・・。幸いここには魔力量の多い者が揃っているが・・・」
トラヴィスはぐるりと視線を動かし、
「皆、アリアナ嬢の為に協力してくれるだろうか?」
「もちろんですわ!」
ミリアが真っ先にそう言った。
「わ、私も・・・」
「リリー嬢には聖魔術を施して貰わなくてはいけない。魔力の供給は他の者に頼もう」
リリーの眉尻が気落ちした様に下がったが、納得したのか強く頷いた。
「では、俺がまずやります」
クリフが前に進み出た。アリアナはクリフに顔を向けると、
「今日はもう、お兄様に流して貰いましたから・・・」
そう言って断ろうとしたが、
「辛いんだろう?。遠慮はいらない・・・」
クリフはアリアナの返事を待たず手を取った。すると、
(う、うわっ)
さっき目が覚めた時と同じような、弱い電流を流したような感覚。でも、決して不快では無かった。それどころか、
(もしかして、あいつ、嫌がってる・・・?)
黒い影は、明らかにクリフの魔力を厭ってるようだった。
(供給された魔力はアリアナを通して、私にも流れて来ているんだな。でもって、私に力が入るとあの影は困るんだ)
きっとクラークがアリアナに魔力を流さなかったら、私も眠ったままだったのでは無いだろうか?。私はきっとあの時まで、意識ごとあの黒い影に囚われていたのだろう。
クリフの魔力が流れるにつれて、手足に付けられた鎖が少し細くなった気がした。
(温かい・・・)
クリフの魔力は温かくて、上手く言えないけどなんだか深い・・・。自分の手を見ると、薄く柔らかい紫色の光に包まれているように見えた。
(クリフの瞳の色だ)
綺麗だなと素直に思った。
そしてその紫の光は、クリフが魔力の供給を止めると同時に消えた。
「少しは楽になったか?」
クリフの声が優しい。
「ええ・・・ありがとうございます」
彼は小さく頷くと、
「・・・さっきは悪かった」
とアリアナの顔を見ないままそう言った。
アリアナはその後、寝室に戻った。
多分眠っているのだろう、アリアナが見た視界を映すスクリーンは、今は真っ暗になっている。クリフに魔力を供給して貰っても、基本的にアリアナの精神だと肉体は疲れやすくなっているようだ。
(う~ん、退屈かも)
私は半分縛られている様な状態だし、アリアナが起きていないと外がどうなっているのかも分からない。
あの後、皆はスティーブンが作った昼食を食べてから帰ったようだ。トラヴィスだけは用があるからと、先に部屋を出たみたいだったけど・・・。
仕方ないので私も寝ようかとソファに横になったが、色々と気になって眠れない。
(リリーは大丈夫だろうか?)
何が彼女をあんなに苦しめたんだろう?。私は彼女に何をしてしまったのだろうか?。それと、
(ジョーの言ってた、もう一人の光の魔力の持ち主って誰なんだろう?)
誰であろうとその人物は、この物語のキーパーソンになるに違いないのだ。それから、
(ノエルは何処に行った?)
アリアナが寝室に戻る時、ミリアとトラヴィスが話していた。彼はアリアナが目覚める前まで、寝室に居たらしい。でもリビングにも何処にも彼の姿は見られなかった。
そして、驚いた事にトラヴィスはノエルに見張りを付けていると話していた。ノエルは一度精神魔術に操られている。もしかしたら、またその支配下に置かれているのかもしれないからと・・・。
そして一番私が気になったのは、
(アリアナは、彼に一度も話しかけなかった・・・)
私達が目覚めてから、アリアナはディーンと一言も話をする事が無く、視線を合わす事すらしなかった。
(アリアナ・・・)
眠っているアリアナからは、全く感情が伝わっては来ない。私は溜息をついてソファの上で寝がえりをうった。そして何気にこの意識の中の部屋の隅に目をやった。それは、黒い影とは真反対にある場所。
(ん?)
そこに何か、ぼんやりと光の様な物が見えた。
(え?何?)
慌てて体を起こし、目を凝らす。意識を集中させるとその光は少しずつ形を作っていった。
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