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第7章 悪役令嬢は目覚めたくない
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「友人を疑うのは嫌な事だけど、アリアナ嬢がこうなっている以上、気を抜く訳にはいかないからね。犯人は顔見知りかもしれないし、もしかしたら誰かが手引きした可能性だってある。精神魔術に支配されている場合もあるし、知らずに騙されている事もあるよね?」
悪びれる事の無い態度はいっそ清々しいぐらいだ。
「で、ちょっと皆にいくつか質問をしたいんだけどさ・・・」
うーんと考える素振りでパーシヴァルは目線を動かすと、ぴたっと一人の前で止めた。
「まずはレティシア嬢!」
「え!?」
レティシアは見事な程に狼狽えた。
「な、な、なんでしょう・・・わ、私は特に・・・」
パーシヴァルはにこにこ笑いながら手を振った。
「そんな緊張しないで。大した事じゃないから」
「は、はい・・・」
「でもさ、君、どうしてアリアナ嬢にやましい気持ちを持ってるの?」
レティシアの喉がヒュッと鳴った。
「やましい?それとも後ろめたいかな?。どっちの表現がピッタリくる?」
笑みを崩さないパーシヴァルに畳み掛けられるように問われて、レティシアは青い顔で震えだした。
「レティ、あなた!」
不審に思ったミリアが真剣な顔で詰め寄る。
「ご、ごめんなさい!私・・・」
レティシアはとうとう顔を両手で覆って泣き始めた。
(え、えええ!?レティ、どうしちゃったのよ!?)
ま、まさかレティが、犯人と繋がってるなんて事・・・。
レティシアは嗚咽に肩を震わせながら、切れ切れに話し出す。
「わ、私の絵のファンだからって言われて・・・、と、特にア、アリアナ様の絵が素晴らしいって言われたから・・・うう・・・私・・・『裏の肖像画』を通さないで直接売ってたんです・・・ごめんなさいっ!」
(は?)
何の話?
皆もそう思ったのだろう。スクリーンの中には、きょとんとした顔が並んでいる。
(え、え~と『裏の肖像画』って、それこそトラヴィスが裏でやってる商売のあれだよね?)
『裏の肖像画』は生徒が描いたイケメンや可愛い女子の絵を売買するシステムだ。
描き手は自分の描いた絵でお小遣い稼ぎができるし、買う方は手ごろな値段で憧れの人の絵が買える。
こういう楽しみも必要だろうと生徒会や先生方が黙認しているが、その実この商売を牛耳っているのは、前世の趣味丸出しのトラヴィスだ。
私はトラヴィスのプライベート秘書と言う名目で、その商売を手伝っていたのだが、レティシアそれを使わないで絵を売ってたってことかな?
(でもそれが今回の事と何の関係が?)
トラヴィスが小さく咳払いをした。
「ん・・ああ、レティシア嬢?。何の話をしているのか・・・もう少し落ち着いて話してくれたまえ」
レティシアはぐすぐすと鼻をすすり上げながら、
「さ、最近、画材にもお金がかかるし・・・私の家はそこまで裕福では無いから・・・だって、通常の3倍のお金で買うって言ってくれたから・・・」
トラヴィスは額に右手を当てると、もう片方の手を上げ、
「レティシア嬢、ちょっと待って・・・」
堪り兼ねてレティシアを止めた。
「こっちから質問する。まず、君は何を売ったんだい!?」
「ア、アリアナ様の絵ですわ。私の描いた・・・」
アリアナの目線がレティシアにフォーカスした。
(おっと、アリアナ。これはもしかして怒ってる・・・のかな?)
トラヴィスは質問を続けた。
「分かった。それで売った相手は?」
レティシアの答えた名前は、とても意外な人物だった。
「リュ、リューセック先生です・・・」
(ええ!?)
リューセック先生って、まさかあの!?なんであの先生が?
混乱する私の目の前で、ミリアが声をあげた。
「リューセックって・・・確か、アリアナ様の先生でしょ?魔力が無い人のクラスの」
(そそそ、そうっ!。魔力ゼロクラスの先生!。どうしてあの人がアリアナの絵を買うのさ?)
レティシアの声が段々と小さくなる。
「は、始めはただ、私の描いた絵を褒めてくれて・・・。『裏の肖像画』で買ったって言って、アリアナ様と男装したジョーの絵を持ってて・・・」
(ああ!あの、別荘で描いてたバックハグの!?)
男装したジョーと私の、なんとも倒錯的な絵だ。
頭がクラクラしてきた。
「私の絵のファンだって言われて、凄く嬉しくなってしまって・・・。先生は『裏の肖像画』を通すよりも高く買うから直接売ってくれって私に言ってきたんです。だから私、画材代も賄えるし、人を喜ばせる事も出来るから・・・」
「先生に直接絵を売ってたわけだ」
トラヴィスが溜息をついた。きっと内心歯噛みをしているだろう。
(『裏の肖像画』は絵が高騰して一部の裕福層にだけ出回るのを防ぐ理由もあったんだもんね)
大半は趣味の為だったけど・・・。
レティシアは青ざめた顔で泣きながら返事した。
「はい・・・すみません」
「だけど、リューセック先生が欲しがったのは『アリアナ嬢の絵』だけだったのだね?」
(え!?)
トラヴィスの問いにレティシアの身体が震えた。
「・・・先生は他の人の絵は全然買ってくれなくて、アリアナ様の絵をもっと欲しいって・・・。し、しかも構図とか状況とか色々指定してきて・・・」
「状況って?」
ミリアが眉をひそめる。
「寝姿とか・・・お、お風呂上りとか・・・」
「はぁ!?」
(はぁ!?)
「ちょ、ちょっとそれって!」
ミリアの声が一際大きくなった。青ざめたクラークと、げんなりしたトラヴィスの顔も見えた。そして私は、
(さ、最悪・・・)
がっくりとソファに突っ伏したのだ。
悪びれる事の無い態度はいっそ清々しいぐらいだ。
「で、ちょっと皆にいくつか質問をしたいんだけどさ・・・」
うーんと考える素振りでパーシヴァルは目線を動かすと、ぴたっと一人の前で止めた。
「まずはレティシア嬢!」
「え!?」
レティシアは見事な程に狼狽えた。
「な、な、なんでしょう・・・わ、私は特に・・・」
パーシヴァルはにこにこ笑いながら手を振った。
「そんな緊張しないで。大した事じゃないから」
「は、はい・・・」
「でもさ、君、どうしてアリアナ嬢にやましい気持ちを持ってるの?」
レティシアの喉がヒュッと鳴った。
「やましい?それとも後ろめたいかな?。どっちの表現がピッタリくる?」
笑みを崩さないパーシヴァルに畳み掛けられるように問われて、レティシアは青い顔で震えだした。
「レティ、あなた!」
不審に思ったミリアが真剣な顔で詰め寄る。
「ご、ごめんなさい!私・・・」
レティシアはとうとう顔を両手で覆って泣き始めた。
(え、えええ!?レティ、どうしちゃったのよ!?)
ま、まさかレティが、犯人と繋がってるなんて事・・・。
レティシアは嗚咽に肩を震わせながら、切れ切れに話し出す。
「わ、私の絵のファンだからって言われて・・・、と、特にア、アリアナ様の絵が素晴らしいって言われたから・・・うう・・・私・・・『裏の肖像画』を通さないで直接売ってたんです・・・ごめんなさいっ!」
(は?)
何の話?
皆もそう思ったのだろう。スクリーンの中には、きょとんとした顔が並んでいる。
(え、え~と『裏の肖像画』って、それこそトラヴィスが裏でやってる商売のあれだよね?)
『裏の肖像画』は生徒が描いたイケメンや可愛い女子の絵を売買するシステムだ。
描き手は自分の描いた絵でお小遣い稼ぎができるし、買う方は手ごろな値段で憧れの人の絵が買える。
こういう楽しみも必要だろうと生徒会や先生方が黙認しているが、その実この商売を牛耳っているのは、前世の趣味丸出しのトラヴィスだ。
私はトラヴィスのプライベート秘書と言う名目で、その商売を手伝っていたのだが、レティシアそれを使わないで絵を売ってたってことかな?
(でもそれが今回の事と何の関係が?)
トラヴィスが小さく咳払いをした。
「ん・・ああ、レティシア嬢?。何の話をしているのか・・・もう少し落ち着いて話してくれたまえ」
レティシアはぐすぐすと鼻をすすり上げながら、
「さ、最近、画材にもお金がかかるし・・・私の家はそこまで裕福では無いから・・・だって、通常の3倍のお金で買うって言ってくれたから・・・」
トラヴィスは額に右手を当てると、もう片方の手を上げ、
「レティシア嬢、ちょっと待って・・・」
堪り兼ねてレティシアを止めた。
「こっちから質問する。まず、君は何を売ったんだい!?」
「ア、アリアナ様の絵ですわ。私の描いた・・・」
アリアナの目線がレティシアにフォーカスした。
(おっと、アリアナ。これはもしかして怒ってる・・・のかな?)
トラヴィスは質問を続けた。
「分かった。それで売った相手は?」
レティシアの答えた名前は、とても意外な人物だった。
「リュ、リューセック先生です・・・」
(ええ!?)
リューセック先生って、まさかあの!?なんであの先生が?
混乱する私の目の前で、ミリアが声をあげた。
「リューセックって・・・確か、アリアナ様の先生でしょ?魔力が無い人のクラスの」
(そそそ、そうっ!。魔力ゼロクラスの先生!。どうしてあの人がアリアナの絵を買うのさ?)
レティシアの声が段々と小さくなる。
「は、始めはただ、私の描いた絵を褒めてくれて・・・。『裏の肖像画』で買ったって言って、アリアナ様と男装したジョーの絵を持ってて・・・」
(ああ!あの、別荘で描いてたバックハグの!?)
男装したジョーと私の、なんとも倒錯的な絵だ。
頭がクラクラしてきた。
「私の絵のファンだって言われて、凄く嬉しくなってしまって・・・。先生は『裏の肖像画』を通すよりも高く買うから直接売ってくれって私に言ってきたんです。だから私、画材代も賄えるし、人を喜ばせる事も出来るから・・・」
「先生に直接絵を売ってたわけだ」
トラヴィスが溜息をついた。きっと内心歯噛みをしているだろう。
(『裏の肖像画』は絵が高騰して一部の裕福層にだけ出回るのを防ぐ理由もあったんだもんね)
大半は趣味の為だったけど・・・。
レティシアは青ざめた顔で泣きながら返事した。
「はい・・・すみません」
「だけど、リューセック先生が欲しがったのは『アリアナ嬢の絵』だけだったのだね?」
(え!?)
トラヴィスの問いにレティシアの身体が震えた。
「・・・先生は他の人の絵は全然買ってくれなくて、アリアナ様の絵をもっと欲しいって・・・。し、しかも構図とか状況とか色々指定してきて・・・」
「状況って?」
ミリアが眉をひそめる。
「寝姿とか・・・お、お風呂上りとか・・・」
「はぁ!?」
(はぁ!?)
「ちょ、ちょっとそれって!」
ミリアの声が一際大きくなった。青ざめたクラークと、げんなりしたトラヴィスの顔も見えた。そして私は、
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