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第7章 悪役令嬢は目覚めたくない
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「もちろん両親は慌てました。通常なら、魔力中毒を起こしますからね」
(そりゃ、そうだ。ましてや相手は小さな赤ん坊でしょ?取り返しのつかない事になりかねん)
小さい子供のする事だもんなぁ。仕方ないとは言え焦っただろう。
「だけどその時、いつも青い顔で泣く体力すらなかったアリアナが、元気に身体を動かし始めたそうなのです。まるで普通の赤ん坊の様に。理由は分からないですけど、アリアナは魔力中毒を起こさない・・・むしろ、相手の魔力を自分の力に出来るという事が分かったのです。まるで回復薬や癒しの魔術を受けた時の様に」
クラークはトラヴィスに顔を向けると、
「アリアナの体質について隠そうとしたのは、魔法省に知られたくなかったからです。もし知られたら、ヘルダー伯爵の様な方にモルモットにされかねないですからね」
と皮肉な笑みを浮かべた。
クラークの説明に皆一様に驚いた表情を見せた。もちろん、私だってびっくりだ。
(ア、アリアナにそんな過去が!?そりゃ、モブ悪役令嬢の生い立ちなんて、説明書には書いて無いけどさぁ)
私はアリアナの視界からクラークを見た。彼は偶然とは言え、アリアナの命を救ったんだ。
「だけど、もともとアリアナは体力も精神の力も乏しいので、定期的に魔力を供給してあげなくてはいけなかったのです。なので、ずっと両親と僕がその役目をしていました」
アリアナがクラークの言葉に続けるように、
「兄と両親には感謝しているわ。だけど身体の調子が良いのは魔力を流して貰って2,3日だけ。1週間も経てば頭痛や倦怠感・・・あらゆる不調に悩まされたわ。だから周りからは随分と気分屋だと思われていたでしょうね」
アリアナはそう言って、紅茶を一口飲んだ。
「・・・冷めてしまったわね。ステラ、皆様の分もお茶を入れ直して頂戴。次は違う茶葉が良いわ」
(ほう!)
私はすっかり感心してしまった。
(アリアナってば、やっぱり気が利いてる。・・・う~ん、それにしても・・・アリアナがよく不機嫌だったのは、体調が悪かったからって事なのかな?)
ステラが手際よく新しいお茶を入れてくれた。カップも違う物に替えているようだ。
「あの・・・魔力をもっと頻繁に供給して貰う事は出来なかったのですか?」
遠慮がちに聞いてきたリリーにクラークが苦笑した。
「やってみると分かると思うけど、魔力を流すのは魔術を使うとき以上に消耗するんだ。一度アリアナに魔力を供給すると、2週間は魔術が使えなくなる。僕も最初やったときは倒れたらしい。だから最初の頃は両親が、僕が大きくなってからは3人で交代して流していたんだ」
(クラークは攻略者だけあって、魔力量も多いもんなぁ・・・下手したら大人よりも多いだろうしね)
アリアナはステラの淹れてくれた新しいお茶を飲んで、
「美味しくてよ、ステラ。あなたのお茶を入れる腕は最高だわ・・・本当は、前もそう言って褒めてあげたかった・・・」
そう言って、溜息をついた。
「だけど、子供だったわたくしは随分とひねくれてしまったの。どうして自分だけこんなに辛い思いをして生きなくてはならないのって・・・」
アリアナはジッと手元の紅茶を見つめていた。
「魔力を供給して貰わなければ、まともに動く事も出来ない。動けても頭痛や気分の悪さから逃れられない。成長も遅くて身体は同年代の子に比べたらずっと小さい。不公平だって思ったわ・・・」
アリアナはふと、レティシアの方を見た。
「レティ。わたくし、あなたにした事を覚えているわ」
「え!?」
「子供の時のお茶会で会ったわよね?。あなたはとても綺麗で、自分の描いた上手な絵を他の人に見せていたの。皆あなたを褒めていたわ。大きくなったら絵描きになれるって。だからわたくし、憎らしくなってあなたにケーキを投げつけたの。・・・ごめんなさいね・・・」
「え!あの・・いいえ・・・」
レティシアは焦ってもごもごしている。
「才能を持っている人が嫌いだったの。私には何も無かったから。将来の話も嫌い。夢なんて持てなかったもの。だから体調の悪い時は周りに当たり散らしたわ。我儘も沢山言った。自分がこんなに苦しいのだから人を傷つけたって構わないと思っていたわ」
アリアナの声はたんたんとしていたけれど、悔しさと痛みに満ちていた。同じ身体にいる私には良く分かる。
「わたくしは・・・身体と一緒に心の成長も止めてしまったの・・・」
誰も彼女の言葉に何も返すことが出来なかった。アリアナが再び視線をティーカップに戻したから、皆がどんな表情をしているのか分からないけど・・・、
(ど、どわぁぁあああ、アリアナぁぁぁぁ・・・)
これが、我儘で高慢で意地悪なモブ悪役令嬢の誕生秘話だというのか!?
(泣かずにいられるかっての!)
身体が無いから泣けないけど、涙が止まらない気分だった。
(つ、辛い!辛すぎるよぉ、アリアナ!そりゃ、意地悪だってしたくなるし、我儘だって言いたくなるよ!。あああ、私が側にいてあげれてたら・・・)
今はめちゃくちゃ近くにいるんだけど、いかんせん近すぎるのだ。
「それに、わたくしには残された時間が無かったから・・・」
アリアナの言葉にトラヴィスが怪訝そうな顔をした。
「どういう意味だい?」
「殿下・・・、僕が説明します」
クラークが口を挟んだ。
「魔力を身体に流す事によって、アリアナは健康にとは言えないものの、普通に生活が出来るようになりました。・・・でも、アリアナが成長するにつれて、魔力の供給だけでは追いつかなくなってしまって・・・・所詮、この方法も対処療法に過ぎなかったのです。年を追う毎にアリアナは心身共にすり減って行きました。医者には・・・」
クラークは一瞬、喉が詰まったように言葉を切った。
「・・・医者には生きられても20前半までだろうと言われました」
「えっ!?」
「そんな!」
リビングに重い空気が流れた。せっかくステラに入れ直して貰ったお茶も、あまり手を付けられないまま冷めてしまった。
(そりゃ、そうだ。ましてや相手は小さな赤ん坊でしょ?取り返しのつかない事になりかねん)
小さい子供のする事だもんなぁ。仕方ないとは言え焦っただろう。
「だけどその時、いつも青い顔で泣く体力すらなかったアリアナが、元気に身体を動かし始めたそうなのです。まるで普通の赤ん坊の様に。理由は分からないですけど、アリアナは魔力中毒を起こさない・・・むしろ、相手の魔力を自分の力に出来るという事が分かったのです。まるで回復薬や癒しの魔術を受けた時の様に」
クラークはトラヴィスに顔を向けると、
「アリアナの体質について隠そうとしたのは、魔法省に知られたくなかったからです。もし知られたら、ヘルダー伯爵の様な方にモルモットにされかねないですからね」
と皮肉な笑みを浮かべた。
クラークの説明に皆一様に驚いた表情を見せた。もちろん、私だってびっくりだ。
(ア、アリアナにそんな過去が!?そりゃ、モブ悪役令嬢の生い立ちなんて、説明書には書いて無いけどさぁ)
私はアリアナの視界からクラークを見た。彼は偶然とは言え、アリアナの命を救ったんだ。
「だけど、もともとアリアナは体力も精神の力も乏しいので、定期的に魔力を供給してあげなくてはいけなかったのです。なので、ずっと両親と僕がその役目をしていました」
アリアナがクラークの言葉に続けるように、
「兄と両親には感謝しているわ。だけど身体の調子が良いのは魔力を流して貰って2,3日だけ。1週間も経てば頭痛や倦怠感・・・あらゆる不調に悩まされたわ。だから周りからは随分と気分屋だと思われていたでしょうね」
アリアナはそう言って、紅茶を一口飲んだ。
「・・・冷めてしまったわね。ステラ、皆様の分もお茶を入れ直して頂戴。次は違う茶葉が良いわ」
(ほう!)
私はすっかり感心してしまった。
(アリアナってば、やっぱり気が利いてる。・・・う~ん、それにしても・・・アリアナがよく不機嫌だったのは、体調が悪かったからって事なのかな?)
ステラが手際よく新しいお茶を入れてくれた。カップも違う物に替えているようだ。
「あの・・・魔力をもっと頻繁に供給して貰う事は出来なかったのですか?」
遠慮がちに聞いてきたリリーにクラークが苦笑した。
「やってみると分かると思うけど、魔力を流すのは魔術を使うとき以上に消耗するんだ。一度アリアナに魔力を供給すると、2週間は魔術が使えなくなる。僕も最初やったときは倒れたらしい。だから最初の頃は両親が、僕が大きくなってからは3人で交代して流していたんだ」
(クラークは攻略者だけあって、魔力量も多いもんなぁ・・・下手したら大人よりも多いだろうしね)
アリアナはステラの淹れてくれた新しいお茶を飲んで、
「美味しくてよ、ステラ。あなたのお茶を入れる腕は最高だわ・・・本当は、前もそう言って褒めてあげたかった・・・」
そう言って、溜息をついた。
「だけど、子供だったわたくしは随分とひねくれてしまったの。どうして自分だけこんなに辛い思いをして生きなくてはならないのって・・・」
アリアナはジッと手元の紅茶を見つめていた。
「魔力を供給して貰わなければ、まともに動く事も出来ない。動けても頭痛や気分の悪さから逃れられない。成長も遅くて身体は同年代の子に比べたらずっと小さい。不公平だって思ったわ・・・」
アリアナはふと、レティシアの方を見た。
「レティ。わたくし、あなたにした事を覚えているわ」
「え!?」
「子供の時のお茶会で会ったわよね?。あなたはとても綺麗で、自分の描いた上手な絵を他の人に見せていたの。皆あなたを褒めていたわ。大きくなったら絵描きになれるって。だからわたくし、憎らしくなってあなたにケーキを投げつけたの。・・・ごめんなさいね・・・」
「え!あの・・いいえ・・・」
レティシアは焦ってもごもごしている。
「才能を持っている人が嫌いだったの。私には何も無かったから。将来の話も嫌い。夢なんて持てなかったもの。だから体調の悪い時は周りに当たり散らしたわ。我儘も沢山言った。自分がこんなに苦しいのだから人を傷つけたって構わないと思っていたわ」
アリアナの声はたんたんとしていたけれど、悔しさと痛みに満ちていた。同じ身体にいる私には良く分かる。
「わたくしは・・・身体と一緒に心の成長も止めてしまったの・・・」
誰も彼女の言葉に何も返すことが出来なかった。アリアナが再び視線をティーカップに戻したから、皆がどんな表情をしているのか分からないけど・・・、
(ど、どわぁぁあああ、アリアナぁぁぁぁ・・・)
これが、我儘で高慢で意地悪なモブ悪役令嬢の誕生秘話だというのか!?
(泣かずにいられるかっての!)
身体が無いから泣けないけど、涙が止まらない気分だった。
(つ、辛い!辛すぎるよぉ、アリアナ!そりゃ、意地悪だってしたくなるし、我儘だって言いたくなるよ!。あああ、私が側にいてあげれてたら・・・)
今はめちゃくちゃ近くにいるんだけど、いかんせん近すぎるのだ。
「それに、わたくしには残された時間が無かったから・・・」
アリアナの言葉にトラヴィスが怪訝そうな顔をした。
「どういう意味だい?」
「殿下・・・、僕が説明します」
クラークが口を挟んだ。
「魔力を身体に流す事によって、アリアナは健康にとは言えないものの、普通に生活が出来るようになりました。・・・でも、アリアナが成長するにつれて、魔力の供給だけでは追いつかなくなってしまって・・・・所詮、この方法も対処療法に過ぎなかったのです。年を追う毎にアリアナは心身共にすり減って行きました。医者には・・・」
クラークは一瞬、喉が詰まったように言葉を切った。
「・・・医者には生きられても20前半までだろうと言われました」
「えっ!?」
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リビングに重い空気が流れた。せっかくステラに入れ直して貰ったお茶も、あまり手を付けられないまま冷めてしまった。
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