モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

文字の大きさ
上 下
182 / 284
第7章 悪役令嬢は目覚めたくない

6(ジョージア)

しおりを挟む
「・・・このまま目を醒まさないとなると体力面での消耗が心配です・・・やはり、早急に魔術の解術が必要かと・・・」

(そりゃそうよね)

医者が部屋を出て行くのを横目で見ながら、私は腕を組んで壁にもたれた。すると、ソファに座り込んでいたリリーが思いついたように立ち上がった。

「殿下、クラーク様。私にもう一度、アリアナ様の解術を試させてください!」

「リリー、アリアナ嬢を眠らせてる精神魔術は君の能力を超えている。何度やっても難しいだろう。」

トラヴィス殿下はリリーに諦めさせるためか、少し厳しい口調ではっきりと言った。

でも、リリーは首を横に振った。彼女の目に強い光が戻ってきている。

「二人でならどうですか!?」

「どういう事だ?」

トラヴィス殿下が怪訝そうに聞く。私達も首を傾げた。

「二人以上の力でアリアナ様に聖魔術を施すのです。魔力増幅の道具の力で魔力を強める事が出来るのなら、人間同士でもそれが可能なのでは無いですか?」

トラヴィス殿下はリリーの意見に眉をひそめた。

「あいにくだが他人に魔力を貸す事は出来ない。魔力の質がお互い違うからね。魔力圧を受けた時の様に中毒症状を起こしてしまうだろう。よほど、魔力の性質が似ている者同士であれば可能かもしれない・・・が、そういう相手はなかなか居ない。君に魔力を貸せる様な人物を探すのは難しいと思う。」

だけど、リリーはそうでは無いとかぶりを振った。

「違います。魔力を借りるのではなく、複数の者が同時にアリアナ様に聖魔術で解術を行えばどうですか?。アリアナ様にかけられた精神魔術の魔力を、超える事が出来るのでは無いでしょうか?」

リリーの言葉に部屋に居たほとんどがハッとさせられた。

(なる・・・そういう手があったの。・・・確かに攻撃系の魔術とかだと、同じ属性の魔術を合わせると威力が強くなったりするものね。そんな裏技があったとは・・・。おっと、これは報告案件じゃない?。あ~でも、今は外に出にくいかなぁ。急いで相談したいんだけど・・・)

「・・・確かに可能性はある。」

考え込むようにトラヴィス殿下に口元に手をやった。

「トラヴィス殿下!可能性があるのなら試してみましょう!」

クラーク様がすがる様な声を上げる。

「だが・・・、聖魔術の使い手をどうする?。聖魔術は光の魔力の持ち主で無いと使えない。今、この皇国にいる光の魔力の使い手は・・・」

「リリーとマーリン、それにエメライン王女ですね・・・」

ミリアが殿下の後を続ける

溜息の声が部屋中であがった。

私も呆れて、

「あのさぁ、アリアナ様を嫌ってるマーリンが手伝ってくれるわけ無いじゃない。エメライン王女だって、アリアナ様を殺そうとしたのよ?。協力させるのは無理じゃない?」

つい口に出てしまった。

「でも、それは二人とも精神魔術で操られていたからです!。魔術が解ければ大丈夫な筈でしょう?・・・マーリンの解術なら私が出来ます。そうすれば、きっと助けてくれるはず・・・」

「そうかなぁ?」

(甘くない?)

「殿下!もうマーリンの解術をしても良いのですよね!?」

リリーの問いにトラヴィス殿下が頷きつつ、

「確かに、モーガンが姿を消した以上もう様子を見る事は無い。マーリンや他の生徒の解術も急いだほうが良いだろう。・・・ディーンもマーリンに付きまとわれて困っているのだろう?」

「いえ・・・私は別に・・・」

歯切れの悪い答え方をしたディーンに、パーシヴァル殿下が珍しく剣のある目を送った。

「へぇ、まんざらでも無かったって事か?」

糾弾する様な口調だ。

ディーンはパーシヴァル殿下を鋭く睨んだが、殿下はさらに口調を荒げた。

「だってそうだろう?あれだけベタベタ見せつけられれば、お前にもその気があるのかと思うさ!アリアナ嬢だってきっとそう思ったはずだ!」

ディーンは顔を赤らめ、何か言い返そうと口を開きかけたが、思い直したように口を引き締めると、パーシヴァル殿下から顔を背けた。

まだ気持ちが収まらない様子のパーシヴァル殿下はディーンの肩を掴もうとしたが、

「パーシヴァルやめろ。今はそんな事をしてる場合では無い。」

(仰る通り)

トラヴィス殿下の言葉にパーシヴァル殿下は腕を降ろして目を伏せた。

トラヴィス殿下はリリーに視線を戻した。

「リリー。マーリンを解術したとしてもアリアナの為に力を貸してくれるだろうか?。彼女は元からアリアナの事を良く思ってなかっただろう?」

「マーリンは、本来はとても優しい方なのです!。だからきっと・・・」

「そうかもしれないが心配は残る。マーリンはディーンに好意を持っている。婚約者であるアリアナに対し、良い思いを持っていないのは確実だ。そんな気持ちで上手く聖魔術を使えるだろうか?」

途端、リリーの顔がスッと青ざめ彼女は黙り込んでしまった。何故か酷く動揺している様だった。

「エメラインに関しても同じだ。精神魔術は解かれたが、アリアナを害する気持ちが無くなった保証は無い。今の状態のアリアナの所へ連れてくるのは危険だ」

(本当に仰る通りだわ)

どうやらこの中で、トラヴィス殿下が一番冷静そう。

さてどうしようか?と私は腕を組みなおす。この場を抜けるタイミングを見つけないと。それで、早くこの事を伝えに行くのだ。

まさか先生にあんな能力があるとは、きっとトラヴィス殿下でさえ想像できないなだろう。

(魔術の合わせ技なんてアイデアが出てくると思わなかったわ。おかげで上手くいきそうじゃない?)

私は口の端に笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したら脳筋一家の令嬢でしたが、インテリ公爵令息と結ばれたので万事OKです。

櫻野くるみ
恋愛
ある日前世の記憶が戻ったら、この世界が乙女ゲームの舞台だと思い至った侯爵令嬢のルイーザ。 兄のテオドールが攻略対象になっていたことを思い出すと共に、大変なことに気付いてしまった。 ゲーム内でテオドールは「脳筋枠」キャラであり、家族もまとめて「脳筋一家」だったのである。 私も脳筋ってこと!? それはイヤ!! 前世でリケジョだったルイーザが、脳筋令嬢からの脱却を目指し奮闘したら、推しの攻略対象のインテリ公爵令息と恋に落ちたお話です。 ゆるく軽いラブコメ目指しています。 最終話が長くなってしまいましたが、完結しました。 小説家になろう様でも投稿を始めました。少し修正したところがあります。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

やり直し令嬢の備忘録

西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。 これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい…… 王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。 また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

処理中です...