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第7章 悪役令嬢は目覚めたくない
4(ミリア)
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「・・・君達が思っている程、精神魔術の使い手やそして闇の魔力の持ち主は少なくないんだよ。」
殿下がそう言った時、つい不愉快な感情を顔に出してしまったかもしれない。
国家を維持するには綺麗ごとだけでは治めきれ無いとは分かっていても、国民を騙すやり口は気に食わなかったのだ。
それに私は、この皇太子からそんな言葉は聞きたくなかった。
(・・・長く続く皇国じゃ、そういう事もあるでしょうね。清濁併せ呑むぐらいじゃないとやっていけないのだろうけど、良い方へ変えていくべきだと思うわ)
この皇太子は近年においては傑出した存在だ。私は将来この方の下で、皇国の発展の為に働きたいと思っているし、自分にはその能力もあると思っている。だから今、彼の手腕をこの目で確かめられるのは有難い。
(何よりまず、アリアナ様をを助ける事が重要だだわ)
彼女はトラヴィス様に並ぶ『何か』を持った人だから。
殿下は話を続けた。
「ノエルや淑女クラブの女生徒に関しては、モーガンが精神魔術をかけたのだろう。」
トラヴィス殿下の言葉に弟のノエルは焦ったようにビクリと身体を震わせ、キョロキョロする。
(もうっ!しっかりしなさいよ!)
弟は先日、モーガン先生に精神魔術をかけられ、あろう事かアリアナ様に熱烈な告白をするという大失態を犯したばかりだ。
(気まずいのは分かるけど、ポジティブで空気読めない事だけがあんたの取り柄なでしょ。)
いつまでも引きずっていられたら、こっちも調子が狂ってしまう。
私は気を引き締めて、トラヴィス殿下に向き直った。今はノエルなどに構ってられない。
「ではエメライン様の場合は異なると?」
焦りからか、口調が少し鋭くなる。殿下に対して不敬だろうか?だが、殿下は気になさらなかったようだ。
「最初は、エメラインにかけられた精神魔術もモーガンの仕業であると思った・・・が、彼女とモーガンの間には接点が無い」
「でも、学校内で顔を合わす事ぐらいはあったのでは」
「そうかもしれない。だが、知っているかい?。精神魔術は親しい者の方がより深く繊細に作用させることができるんだよ。エメラインはモーガンとさほど面識はなかったはず。モーガンの授業も受けた事が無かった。」
「どうして分かるんです?」
「私はずっとエメラインと同じクラスだったからね。それに私はエメラインにはかなり付きまとわれていたから・・・」
トラヴィス殿下は乾いた笑みを浮かべた。
(気の毒に・・・)
「だからモーガンがエメラインをあそこまで操れたと思えないのだ。それにモーガン先生の魔力量を考えると、いくら魔力増幅の宝珠を使ったからと言って、あのエメラインに勝てると思えない。エメラインの魔力は強大だからね」
そこでジョーが手を上げた。
「はーい!モーガン先生の魔力量ってどんくらいなの?」
「中の下と言うところかな・・・」
「ふうん、じゃあ、まぁまぁってとこか。どうやって分かったの?」
「私は『目』を持っているからね。この間こっそり視てみた。」
へぇ!と言う風にジョーの目が丸くなる。
「だから、モーガンよりも強い魔力を持つ精神魔術の使い手が他にいるのだと思う。そしてその人物が宝珠を持っている可能性が高い。リリーの力で魔術が解術出来なかった事を考えると、宝珠を使った精神魔術の被害に遭ったのはエメラインとメイドのマリア、そしてアリアナだ。」
「どうして?。エメライン様はともかく、マリアやアリアナ様には必要無かったんじゃない?」
ジョーがまた質問する。
(確かに、マリアはたいした魔力を持ってないだろうし、アリアナ様に至っては全く無いって話だから・・・)
「マリアに関しては相手の顔を見ているからだろう。リリーに解呪されるわけにはいかなかったんだ。それにアリアナを眠らせる事が目的だとしたら、簡単に解呪されるわけにはいかないだろうからね」
「ああ、そっか。じゃ、逆にステラやスティーブンに宝珠を使わなかった理由は?」
「宝珠使用回数に限度があるんだよ。使う度に劣化するんだ。それに扱い方も難しい。下手に使うと暴走しかねないんだ・・・ああ、もしかしたらマリアの具合が悪いのはその影響かも・・・。だから二人に関しては宝珠を使わず、仮面で顔を隠してただ眠らせたのだろう。」
「なるほどねぇ・・・」
(ちょっと!皇太子殿下に対して口調がフランク過ぎない?)
ジョーに文句を言ってやりたかったが、この場では我慢した。後でしっかり注意しなくちゃ。
「だからリリー、君がアリアナの解呪が出来ないのは仕方ない事だ。相手はそれを見越して術をかけている。だからもう、そんなに自分を責めるな。」
殿下はリリーを労わる様にそう言った。しかしリリーこわばった顔で唇を噛みしている。今までリリーのこんな表情は見た事が無かった。
だから、なんだか違和感を感じたのだ。
(いくらアリアナ様の解術が出来ないからって、リリーがここまで責任に思う事無いのに・・・)
彼女はエメライン王女の時も解術出来なかっけど、ここまで落ち込んではいなかった。
(それは・・・アリアナ様とは友人だし・・・、リリーはアリアナ様が大好きだから、何が何でも助けたいとは思うだろうけれど・・・)
それにしてもリリーの思いつめた表情は、それだけでは説明できない気がした。
部屋の中には重苦しい空気が流れていた。
殿下がそう言った時、つい不愉快な感情を顔に出してしまったかもしれない。
国家を維持するには綺麗ごとだけでは治めきれ無いとは分かっていても、国民を騙すやり口は気に食わなかったのだ。
それに私は、この皇太子からそんな言葉は聞きたくなかった。
(・・・長く続く皇国じゃ、そういう事もあるでしょうね。清濁併せ呑むぐらいじゃないとやっていけないのだろうけど、良い方へ変えていくべきだと思うわ)
この皇太子は近年においては傑出した存在だ。私は将来この方の下で、皇国の発展の為に働きたいと思っているし、自分にはその能力もあると思っている。だから今、彼の手腕をこの目で確かめられるのは有難い。
(何よりまず、アリアナ様をを助ける事が重要だだわ)
彼女はトラヴィス様に並ぶ『何か』を持った人だから。
殿下は話を続けた。
「ノエルや淑女クラブの女生徒に関しては、モーガンが精神魔術をかけたのだろう。」
トラヴィス殿下の言葉に弟のノエルは焦ったようにビクリと身体を震わせ、キョロキョロする。
(もうっ!しっかりしなさいよ!)
弟は先日、モーガン先生に精神魔術をかけられ、あろう事かアリアナ様に熱烈な告白をするという大失態を犯したばかりだ。
(気まずいのは分かるけど、ポジティブで空気読めない事だけがあんたの取り柄なでしょ。)
いつまでも引きずっていられたら、こっちも調子が狂ってしまう。
私は気を引き締めて、トラヴィス殿下に向き直った。今はノエルなどに構ってられない。
「ではエメライン様の場合は異なると?」
焦りからか、口調が少し鋭くなる。殿下に対して不敬だろうか?だが、殿下は気になさらなかったようだ。
「最初は、エメラインにかけられた精神魔術もモーガンの仕業であると思った・・・が、彼女とモーガンの間には接点が無い」
「でも、学校内で顔を合わす事ぐらいはあったのでは」
「そうかもしれない。だが、知っているかい?。精神魔術は親しい者の方がより深く繊細に作用させることができるんだよ。エメラインはモーガンとさほど面識はなかったはず。モーガンの授業も受けた事が無かった。」
「どうして分かるんです?」
「私はずっとエメラインと同じクラスだったからね。それに私はエメラインにはかなり付きまとわれていたから・・・」
トラヴィス殿下は乾いた笑みを浮かべた。
(気の毒に・・・)
「だからモーガンがエメラインをあそこまで操れたと思えないのだ。それにモーガン先生の魔力量を考えると、いくら魔力増幅の宝珠を使ったからと言って、あのエメラインに勝てると思えない。エメラインの魔力は強大だからね」
そこでジョーが手を上げた。
「はーい!モーガン先生の魔力量ってどんくらいなの?」
「中の下と言うところかな・・・」
「ふうん、じゃあ、まぁまぁってとこか。どうやって分かったの?」
「私は『目』を持っているからね。この間こっそり視てみた。」
へぇ!と言う風にジョーの目が丸くなる。
「だから、モーガンよりも強い魔力を持つ精神魔術の使い手が他にいるのだと思う。そしてその人物が宝珠を持っている可能性が高い。リリーの力で魔術が解術出来なかった事を考えると、宝珠を使った精神魔術の被害に遭ったのはエメラインとメイドのマリア、そしてアリアナだ。」
「どうして?。エメライン様はともかく、マリアやアリアナ様には必要無かったんじゃない?」
ジョーがまた質問する。
(確かに、マリアはたいした魔力を持ってないだろうし、アリアナ様に至っては全く無いって話だから・・・)
「マリアに関しては相手の顔を見ているからだろう。リリーに解呪されるわけにはいかなかったんだ。それにアリアナを眠らせる事が目的だとしたら、簡単に解呪されるわけにはいかないだろうからね」
「ああ、そっか。じゃ、逆にステラやスティーブンに宝珠を使わなかった理由は?」
「宝珠使用回数に限度があるんだよ。使う度に劣化するんだ。それに扱い方も難しい。下手に使うと暴走しかねないんだ・・・ああ、もしかしたらマリアの具合が悪いのはその影響かも・・・。だから二人に関しては宝珠を使わず、仮面で顔を隠してただ眠らせたのだろう。」
「なるほどねぇ・・・」
(ちょっと!皇太子殿下に対して口調がフランク過ぎない?)
ジョーに文句を言ってやりたかったが、この場では我慢した。後でしっかり注意しなくちゃ。
「だからリリー、君がアリアナの解呪が出来ないのは仕方ない事だ。相手はそれを見越して術をかけている。だからもう、そんなに自分を責めるな。」
殿下はリリーを労わる様にそう言った。しかしリリーこわばった顔で唇を噛みしている。今までリリーのこんな表情は見た事が無かった。
だから、なんだか違和感を感じたのだ。
(いくらアリアナ様の解術が出来ないからって、リリーがここまで責任に思う事無いのに・・・)
彼女はエメライン王女の時も解術出来なかっけど、ここまで落ち込んではいなかった。
(それは・・・アリアナ様とは友人だし・・・、リリーはアリアナ様が大好きだから、何が何でも助けたいとは思うだろうけれど・・・)
それにしてもリリーの思いつめた表情は、それだけでは説明できない気がした。
部屋の中には重苦しい空気が流れていた。
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