モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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第7章 悪役令嬢は目覚めたくない

2(クラーク)

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アリアナが意識を失ってから一日が経った。

今日も朝からずっと、リリーは何度も解術を試みてくれているが、そのたびに精神魔術に跳ね返されている。肩で息をし額からは汗が流れている。目に見えて消耗しているのが分かった。

「リリー、もう止めたまえ。このまま続けると、君の方が怪我をしそうだ。」

トラヴィス殿下は床に倒れ込んだリリーの肩を持って、ゆっくりとソファに座らせた。

「メイド達の解術をやってくれただけでもありがたい。少し休みなさい。」

トラヴィス殿下の言葉にも、リリーは俯いて首を振るだけだった。

殿下とリリーだけでなく、この部屋にはアリアナの友人が集まっている。皆、眠っているアリアナを心配そうに見つめているが・・・

(ああ、グローシアの顔色が悪い。きっと昨日アリアナが心配で眠れなかったのだろう・・・。部屋に帰って休むように言おうか・・・)

けれど、彼女はきかないだろう。アリアナの側に居たいはずだ。


使用人達は、やはり精神魔術にかけられていた。昨日意識が戻った後もずっとぼんやりしたが、リリーの聖魔術で解術するとスッキリしたようだ。ただし、それはステラとスティーブンだけだった。

「マリアはまだ具合が悪いのか?」

トラヴィス殿下は端に控えているステラに声をかけた。

「は、はい・・・、起き上がってはいますが、ずっとぼんやりしています。仕事の事も良く分からないみたいで・・・。」

どういう訳かメイドのマリアの解術は上手くいかなかったのだ。アリアナ程強い魔術はかけられてはいない様だが、リリーの聖魔術の力が及ばなかったのだ。

「ステラ、昨日あった事をもう一度説明してくれるか?」

「は、はい。・・・憲兵の方とクラーク様が出かけられた後、アリアナ様はしばらくリビングのソファに座っておいででした。・・・何かお悩みのようで、私達も声をかけられなかったのですが・・・。」

「アリアナが悩んでいた?」

思わず聞き返したが、(ああそうか・・・)と思い当たった。

昨日彼女は僕に打ち明ける事が有ると言っていた。

(可哀そうに・・・辛い思いをさせてしまった。こんなことなら、もっと早く僕の方から聞いてあげれば良かったんだ・・・)

「それで?」

殿下が話の続きを促した。

「しばらくして、お客様がみえられまして・・・私とスティーブンは厨房に居たので、どなたでしたのか分からなかったのですが・・・」

「出迎えたのはマリア?」

「はい」

「アリアナはその客に会ったのか?」

「・・・すみません、分かりません。ただ、しばらくしてマリアの叫び声と、その後に大きな音が聞こえました。だから私とスティーブンは慌てて二人でリビングに向かったのです。すると、リビングの入り口にマリアが倒れていて、近くに仮面を被った人物が・・・」

ステラはその時の恐怖を思い出したのか、自分を抱く様に腕をまわし身体を震わせた。

「それは男?それとも女?」

「分かりません・・・。大き目のフードのついたマントを着ていました。そして、その者を見た瞬間、目が回る様にくらくらして周りが暗くなりました・・・」

「そして気が付いたら倒れていたという事か・・・。」

殿下が考え込むように、口元に手をやった。

「ふうん・・・、恐らく大きな音はマリアが倒れた時の音だろうな。彼女の横に置物が転がっていた。マリアが倒れる時に引っかけたのだろう」

「マリアはきっと妹が玄関で眠らされたのを見て、助けようとしたのでしょう・・・」

彼女は使用人達にとても好かれているから・・・

「モーガン先生でしょう?。モーガン先生が仮面を付けて・・・、顔を隠してアリアナ様の所に・・・」

ずっと黙っていたミリアがそう聞いた。思いつめた顔で目は真っ赤になっている。レティシアはこの部屋に入った時からずっと泣いているし、いつも明るいジョーも厳しい表情で睨むかのようにベッドを見つめている。

「いや、仮面を被っているような、怪しい者を使用人が取り次ぐはずはない。」

「でも精神魔術にかけられたとしたら・・・」

「この部屋には強いシールドを施されている。部屋の内側に居た場合、外側からいくら魔術を行使しても跳ね返してしまっただろう。術者は部屋に入ったんだ。」

殿下の言葉に皆がハッと顔をこわばらせた。

「では・・・」

「ああ、メイドは訪問者をアリアナに普通に取り次いだ。そしてアリアナは部屋にその者を招き入れたんだ。」

「そんな・・・」

ミリアの声が震えた。

「モーガンではありえない。アリアナがモーガンを部屋に入れるわけが無いからね。・・・精神魔術の術者はモーガン以外にもう一人居るんだ。」

トラヴィス殿下は厳しい声で皆の顔を順に見た。

「そして、それはアリアナの良く知る人物と言う事だ。」

殿下の言葉に視界がぐらりと揺れる気がした。
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