モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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閑話6 トラヴィスねーさんと攻略者達 

トラヴィスねーさんと攻略者達:クリフ

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クリフ・ウォーレン


(よっしゃ!設定どおりぃぃぃ!)

アンファエルン学園に入学してきた彼を見て、私は内心ガッツポーズを掲げた。

青みがかった銀髪に紫の瞳。どんな美女でも恥ずかしくて俯いてしまう程の美貌、なのに投げやりで全てを諦めたかのような暗い目。

(良い!最高!こういうのを求めてたのよっ)

ゲームで最推しなのはもちろんイーサン様だ。でも隠しキャラである彼に会うには全ルートを制覇しないといけない。その間、一番私を楽しませてくれたのはクリフ・ルートだった。

彼のルートはとにかく暗く殺伐としている。暗殺、謀略、騙し合いと言ったサスペンス要素がたっぷり盛り込まれているのだ。本当にこれが乙女ゲームか?と疑うぐらい、ドロドロとした人間関係が織りなすストーリーが私好みだったのだ。

(傾国の美女ならぬ、傾国の美少年よ。良いわねぇ、刺激的だわ)

彼の出自は複雑だ。

表向きはウォーレン侯爵家の子息となっているが、実は皇族の血を引いている。世間には秘されているがウォーレン侯爵の令嬢と前皇帝との間に出来た子供。

つまり前皇帝の息子であり、現皇帝の弟なのだ。

(年下だけど、私(トラヴィス)の叔父にあたるのよねぇ、この子)

クリフは自分の母の死の理由を捻じ曲げて伝えられている。彼の叔父であるアバネシー子爵の策略だ。

そのせいで前皇帝を憎み、皇族全体に恨みを持つ。闇の組織と繋がり、最終的には皇太子トラヴィスの暗殺に加担するのだ。

(影を背負った美少年は大好物だけどぉ、暗殺は困るのよねぇ)

ヒロインとクリフの出会いは彼らが2年生になってから。

ルートによっては、自分・・・トラヴィスが暗殺されたり、ヒロインが彼の手で殺されたりする。流石にそれは防がなくてはいけないだろう。

(ある程度ストーリーを知ってるから助かるけど、慎重に根回ししていかなくちゃ。・・・忙しいわねぇ全く)

そんな風に思っていた頃、思いもしない事件が起きた。どういう訳か悪役令嬢のアリアナが誘拐されたのだ。ゲームでは全く無かったストーリーである。

予想外の出来事に正直私は焦った。

(1部でちょろちょろとヒロインを虐めるだけのモブ悪役令嬢が、どうしてそんな大きなイベント起こしてくれてんのよ!?)

正直アリアナなんて全く興味が無かった。

(全くもう!)

しかし興味無いとは言え放っておけない。自分も助けに行かねばと準備をしたが、周りの者に止められた。皇太子の身としては、そうそう事件の渦中に行くのは難しいのだ。

(ふう、誘拐したのはどうやら街のチンピラらしいし・・・。クラークや憲兵達に任せておけば大丈夫かなぁ・・・)

(それにこの世界では、アリアナには1年間ヒロインを虐めるという役目があるもんね。私が手を出さなくても無事に戻って来るでしょうよ。まぁ、もしいざとなったら止められても助けに行くけどさ・・・)


しかしそう思って現場に任せて置いた事を、私は後から大いに後悔する事になる・・・・。


予想通り、アリアナはクラーク達に助けられて無事に帰ってきた。だが、詳しい報告を受けて私は愕然とした。

なんと!アリアナ誘拐現場にイーサン様が現れたと言うのだ!。しかも闇魔術を発動させていたと!


(ああああああ)


私はそれを聞いた時、どうして自分もアリアナ捜索に加わらなかったのかと、心の底から悔やみに悔やんだ。周りに気を使った事と、下手にストーリーを知っていたことが仇となったのだ。


(折角の生イーサン様に出会えるチャンスだったのにぃ!闇魔術、見たかった、見たかった、見たかったぁ!!!)


まさか、特別ルートでしか現れないはずの彼が、1部で登場するなんて夢にも思わなかったのだ。


私はしばらく落ち込み、未練と無念を引きずった。すると表に出していたつもりは無かったが、いつもとは違っていたようで、どうやら周りを心配させていた様だ。

(反省だわ・・・)

いつまでも、淀んでいる訳にはいかない。自分は完璧皇子のトラヴィスなのだ。それに2学期が始まるまでにはクリフを更生させる方法を考えないと・・・。




少し浮上してきた時、夏休み中に不思議な事があった。パーシヴァルがディーンにくっ付いて、アリアナの別荘へ滞在しに行ったのだ。

(どういう現象?)

さらに私の護衛が前よりも増えた。どうも祖父である前皇帝の指示らしいのだが・・・。もしかして私の暗殺計画がある事を、彼も何処からか聞いたのだろうか?

(う~ん、ゲームで出てこない話になると、どう対処したら良いのか・・・。それともストーリーが変わっちゃってる?)

この世界は基本、ゲームの設定どおりに進んでいる様に見える。しかし、私(前世)と言う異分子がいる事によって設定とは異なる事例が現れるのも事実だ。それにしても・・・




夏休みが開けた時、私は学園に戻って衝撃を受けた。

(えっ!?クリフから影が無くなっちゃってるじゃん!?)

クリフのトレードマークであった筈の憂いや翳りが、きれいさっぱり無くなっているのだ。元々の美貌はそのままに、明るく前向きな少年へと変化している。それはそれで一目を引き、魅了の魔術を使わずとも周りをいっそう虜にしているようだけど・・・

(ど、どういう事よ!?)

焦った私は、祖父(前皇帝)に面会を求め、護衛の話も含めて疑問をぶつけた。

「そうか・・・お前はクリフが私の息子である事を知っていたのか・・・。」

前世を思い出す前のトラヴィスなら知らなかっただろう。でもそんな事はどうでも良い。

「夏休み前の彼と、全く様子が違うので驚きました。何があったのかご存知でしょうか?」

祖父・・・前皇帝アイヴァン・レイヴンズクロフトは静かな笑みを目に浮かべた。

「先日、彼と初めて会った・・・。ウォーレン侯爵と謁見した際に同行してきたのだ。短い時間だったが、私が彼の母であるラナリーをどれ程愛していたかを伝える事が出来たよ。・・・良い・・・少年だった」

「そうでしたか・・・。」

どういう働きなのか分からなかったが、クリフは自分で自分の闇から脱却したらしい。もちろん私にとっては有難い話なのだが・・・。

(ゲームの中みたいな、暗黒クリフを見れないのはちょっと残念)

まったくもって不謹慎だ。



数日後、学園の中庭の明るい日差しの下で、お腹を抱えながら大笑いしている彼の姿を見かけた。彼の周りには沢山の友人たちが居る。ピンクの髪はヒロインだろうか?

(あら・・・はーん・・・そういうのも悪くないわね、ふふ・・・良かったわね叔父上)

私はそっと彼にウィンクを送った。
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