モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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閑話6 トラヴィスねーさんと攻略者達 

トラヴィスねーさんと攻略者達:クラーク、ケイシー

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クラーク・コールリッジ

前世を思い出して以来、パーシヴァルの次に会った攻略者はクラークだったと思う。
10才くらいの頃、皇国主催の式典に親と共に参加していた一つ年下の少年。

彼に会った時、攻略者が他の人とは全然違うのだという事に改めて気付かされた。

(今までは、自分とパーシヴァルしか知らなかったからよねぇ・・・お・ど・ろ・き!)

一言で言うと、華がある。

そこにいるだけで存在感というか人を惹きつける何かあるのだ・・・だからこその攻略者なのかもしれないが・・・。


名門コールリッジ家の子息であり悪役令嬢アリアナの兄。


乙女ゲーム上では悪役令嬢アリアナの兄という設定以外では目立つ存在では無かった。
アリアナと同じハニーブロンドの髪にエメラルドグリーンの瞳。少し甘めの美形で穏やかな性格。

(私から見ると、一昔前の王子様って感じであまり響かなかったのよねぇ。)

普通の相手では満足出来ない自分(前世)には物足りなかったのだ。もちろんあくまでゲームの中の相手酔いう意味だが・・・。

しかし、現実で会うクラークはなかなかのものだった。

イラストでは無いリアルでの正統派美形はとにかく正義だ。入学時には上級生の女生徒達も色めき立っていた。

(もちろん、私(トラヴィス)程では無いけどね、うふふ。)

しかも、彼はとにかく性格が良かった。

いつも穏やかな顔で、落ち着いた口調。決して人の悪口は言わない。人の意見をきちんと聞き、自己中心的な部分は全くなかった。それでも、彼が人に舐められないのは、きちんと自分に中に芯があるからだ。彼は他人に優しいが、きちんと自分の意見を持っている。自己主張は少ないが、人に流されてるわけではないのだ。


バサッ

紙を広げる音が部屋に響いた。

「殿下、こちらの仕事は終わりました。それから音楽祭の件についてなのですが・・・」

クラークが作業室の机に計画書を広げたのだ。

計画書は初めてする事だろうに、見やすく良くまとまっている。

(クラークが入学して以来、ずっと仕事を手伝って貰ってるけど、そつがないと言うか・・・)

仕事面においても彼はかなり優秀だった。成長してからも、きっと私の右腕として働いてくれるだろう。


ただ一つ問題があるとすれば・・・、

(やっぱ妹ラブが過ぎるとこよねぇ・・・)

ゲーム同様、悪役令嬢である妹、アリアナを溺愛している事だ。

(あれさえ無ければねぇ)

私の心中を知らず、クラークは一通り音楽祭の計画書の説明をすると、

「ああ、それから申し訳ないのですが、今週末は実家に戻ろうと思うので仕事の手伝いが出来ないのです。すみませんが・・・・」

「ああ、かまわない。しかし・・・君の家は結構遠いだろう?先月も帰ってなかったか?それにあと1カ月もすれば春休みだぞ?。」

「春休みまで待てません!妹に会うためですから」

「そ、そうか・・・だが、君の妹も、4月には入学するのでは?」

「え・・・、ええ、妹も楽しみにしているのですよ・・・」

少しその顔に翳りが見えたのは気のせいだっただろうか?

いや、悪役令嬢と言われるほどの強烈な妹が入学するのだ。クラークだって心配する事もあるのだろう。

(それにしても・・・)

彼がアンファエルン学園に入学してからほぼ一年。妹に会うという目的で月に一度は実家に帰っている。馬車で1日かかるというのにだ。それこそ、雨の日も風の日も・・・

アリアナから呼び出される事もあるようだが、その場合も嫌がる事無く、むしろ前のめりで実家に戻っていたようだ。

(ふーん、戻って来ると疲れていつもぐったりしている癖にねぇ・・・。)

ここまでシスコンが過ぎると少し気持ち悪い。

なにせゲームの1部で、彼がリリーと恋仲になっていても、断罪されるアリアナを庇うくらいなのだ。

(設定とは言え、あの我儘傲慢娘をどうしてあそこまで愛せんのかねぇ・・・。もしかして、これがシナリオの強制力ってやつなのかしら?)

何気なく、クラークに聞いてみる事にした。

「クラーク。アリアナ嬢とは、君にとってどういう存在なのだ?」

クラークは目を輝かせて答えた。

「アリアナですか!?・・・ああ、花の如く美しくそして愛らしい我が妹・・・。妹は私にとって生きる意味、生きる全てですよ!」


(・・・怖・・・)


聞いた自分が馬鹿だった気がした・・・。

(ヒロインよ!選ぶなら別の男にしな!)

私はクラークに『勿体ない男』の烙印を押した。





ケイシー・バークレイ

アンファエルン学園に入学した時、同じクラスに居たのがコイツだ。

バークレイ伯爵家5人兄弟の長男。

明るくてスポーツ万能の爽やかイケメンだが、私(前世)の好みではない。

(完全コンプの為に攻略はしたけどさぁ。つまんないのよねぇ)

爽やか君とヒロインの恋愛は、障害らしい山も谷も無くほぼほぼ楽しいで終わる。

癖の強い他の攻略者ルートに比べたらオアシスの様な存在だけど、私(前世)はそんなもの求めていなかった。

(まぁ、イーサン様に出会うための、踏み台くらいにしか思ってなかったわ)

しかしながら、現実の私、トラヴィスにとっては話が変わる。彼は皇太子の臣下としては信に厚く、護衛としてもかなり優秀。そして友人としても面白い奴なのだ。


「殿下、良かったら手合わせしませんかね?」

彼は剣の授業の時はいつも私と組みたがる。理由は、

「だって、俺より強いの殿下しかいませんから」

そう言って太陽の様に明るい笑顔でニカッと笑った。


バークレイ家の特徴である明るい栗色の髪と瞳、彼のくったくの無い笑顔を見ると、こっちまで気持ちが明るくなってくる。
5人兄弟の一番上だけあって、下級生の面倒を見るのも上手い。将来、部下を持っても上手く働かせることが出来るだろう。

(ゲームの登場人物として見た時に比べて、今のトラヴィス目線で見た時は大分評価が変わるわね)

ゲームで好きだったのは・・・隠しキャラで最推しのイーサン様は別として・・・終始暗くて影を背負ったクリフ、気が弱そうに見えて何処か裏の有りそうなマリオット、そして皇太子として完璧で全く隙の無いトラヴィスだ。

はからずしも、そのうちの一人に自分は転生してしまったわけだが・・・、

(いずれ皇帝になる私は、もちろん優しさと寛大さも持ち合わせているけどぉ、いざとなれば残酷な事もできるわけで・・・)


トントン

執務室のドアをノックする音で空想から現実に引き戻された。

「入りたまえ」

「殿下、秋の学園祭についてなのですが・・・」

「久しぶりに剣技大会と魔術大会やりませんか?今年の一年生は見どころのありそうな奴が多いですよ!」

クラークとケイシーが入って来る。

「剣技大会でケイシー先輩には当たりたくないですね。勝つのは相当厳しいだろうなぁ」

「当たり前だろ!?。俺は殿下とやりたいな。今度こそ勝ちますよ!」

白い歯を見せてケイシーが笑う。

皇太子として清にも濁にも身を置かなくてはいけない自分。

(この二人は正しさの見本。こういう存在も有難いわよねぇ)

単純に言えば、二人と居るのは心地良いのだ。

「それは楽しみだ。」

つられて私も笑みが浮かんだ。
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