モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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第6章 悪役令嬢は利用されたくない

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そして・・・





バンッ



景気の良い音が執務室に響き渡った。


「ア・リ・ア・ナ~。良くもやってくれたわねぇ~。」


トラヴィスが机を両手で叩いた音である。


次の日、当然の様にトラヴィスに呼ばれた私は、今しっかりお叱りを受けている。

「いやいやいや、あれぐらいインパクト無いと、エメライン様を落ち着かせられないじゃないですかぁ。捕縛魔術がかかったままじゃあ、聖魔術もかけれませんし、へへ。」

「へへじゃないわよ!。だからって、恐れ多くも皇国の皇太子がゲイな上に、恋の相手が怪しげな闇の魔術師だなんて・・・うう、イーサン様は素敵だけど・・・。そんなストーリーが許されるわけないでしょ!?」

完全無欠の皇太子らしからぬ剣幕で、トラヴィスは叫んだ。

(まぁ、仰る通りよね。)

昨日のエメラインの暴走は、結局一軒のカフェの損壊と、数人の生徒が軽いけが(火傷が多かったらしい)で済んだ。これは不幸中の幸いだと言える。

中庭に居たほとんどの生徒達は、エメラインが攻撃を始めた時から逃げて避難していたので、私の言った、『トラヴィスについての暴露』を聞いたものは少なかったはず。けれども人の口に戸は立てられないとはこの事で、どうやら学園中にトラヴィスは同性しか愛せないと言う噂が流れ始めているらしい。

「どうしてくれんのよ!?。エメラインと婚約破棄したのも、原因はそれだって思われかねないわよ!。ただでさえ、次の皇太子妃探しは難航しそうなのに・・・。おまけに精神魔術にかけられてたエメラインのケアもしなくちゃいけないし、隣国との新しい和平交渉のネタも探さなきゃいけないし、いくら私が優秀だからってパンクしそうよ!」

トラヴィスは頭をブンブン振りながら両手で髪を掻きむしった。

(ほうほう、荒ぶるトラヴィスもヴィジュアルとして悪くないね。)

ぜひ、スチルでも見てみたいもんだ。

「元はと言えば、エメラインの変化に気付けなかった殿下のミスです。それに、私の暴露はまるっきり嘘では無いでしょう?何せ、殿下は公衆の面前で『推し』への愛を抑えきれなかったぐらいなんですから。利用できるもんは利用しないと。」

私の暴露が真実性を増したのは、直前のトラヴィスの『イーサン様、素敵!カッコいい!会いたかったぁぁぁ!』という雄たけびのおかげである。

(あれが無きゃ、私の言った事なんて誰も信じなかったと思うけどね。)

「あの時は、初めて見た生イーサン様に、前世の方が強く出ちゃって理性がぶっとんだのよ。ああもう、先生方もあの場に大勢いたと言うのに・・・。」

トラヴィスは片手で額を押さえて、深いため息をついた。

「ここの所、あんたと長くお喋りしてたせいで、前世の意識が増してたのね・・・失敗したわ。前も言ったと思うけど、今世の私はちゃんとトラヴィスなんですからね。」

「へぇへぇ」

「分かって無いわね。普段の私はちゃんとトラヴィスで、恋愛相手はちゃんと女の子よ。」

「またまたぁ」

私がニタニタ笑うと、トラヴィスはぐったりと机に突っ伏した。

「ねーさんで居てあげようとは思ってたけど、この扱いは酷過ぎる・・・。」

何かブツブツ言ってるけど、大丈夫かな?。トラヴィスねーさんは昨日の騒動の後も、後始末で忙しかったようだ。あまり休めていないのだろう。





昨日、中庭でイーサンが消え去った後しばらくは虚脱していた私達だったが、真っ先に動き出したのはクラークだった。クラークは瞬間移動かと思うスピードで私の元に来ると、ハンカチを取り出して私のおでこをゴシゴシこすり始めたのだ。

「い、痛いです、お兄様!」

「早く洗わなくては。消毒もしないと!」

そう言って水魔術で私のおでこに水をかけ、再びハンカチで拭き始めた。おかげで制服がびしょ濡れだ。
クラークにおでこを拭かれながら周りを見ると、トラヴィスは警備兵達に命じて意識のエメラインを医務室に運ぶようにし、被害の状況を調べ始めていた。彼の横に駆け寄ってきたのは学園長だ。先生方も何人か集まってきている。

ふと視線を移すと、ディーンと目が合った。
彼が「アリアナ」と言って私の方へ来ようと足を一歩前に踏み出した時だった。後ろから彼の腕を引っ張る者が居た。

「ディーン、大丈夫だった!?怪我は無い?」

「リン・・・!」

マーリンがディーンの腕を抱きかかえる様にしてしがみ付ついた。彼女はディーンの前に回り込んで私に背を向ける。まるでディーンの視界から私を隠そうとするように。

「怖かったわ。足が震えてしまって上手く歩けないの。お願い、寮まで送ってくれないかしら?。」

「・・・リン。済まないが、私は殿下を手伝って後始末を・・・。」

困った顔のディーンにトラヴィスが溜息をついた。

「ディーン、ここは大丈夫だ。送ってやると良い。」

マーリンは身体を震わせながら、腕に抱きついたままディーンの胸に額を付けた。ディーンの顔に戸惑いの表情が浮かぶが、彼女を振りほどこうとはしない。

(ふーん、お互い呼び捨て&愛称で呼び合う仲ですか。随分見せつけてくれるじゃない。)

そんな風に思って、自分の皮肉な考え方にふと気が付いて軽く落ち込む。

(私、こんな小姑みたいだったっけ?。別に良いじゃん、ゲームじゃ二人は恋人になってたんだから。)

ゲームでの『リン』と言うニックネームは、元々はディーンがそう呼んでいたからなのだろうか。
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