モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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第6章 悪役令嬢は利用されたくない

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けれど、私は炎にこんがり焼かれる事は無かった。目の前の火球は特にシールドに弾かれたと言う訳でも無く、突然テレポートしたかのように、ふっと消えたのだ。

「えっ?」

(まさか、今の火球は恐怖のあまりに私が見た幻だったとか?。)

でも、そうでは無かった。

「面白い遊びをしているな。」

「へっ?」

頭の上から声が聞こえて、見上げると、私の頭上2メートルぐらいの所に人が浮かんでいるではないか!

「ひっ」

(な、ななな何!?。人が宙に・・・。)

慌てて私は後ずさりする。そして、その人物の顔を見あげて正体が分かった瞬間、

「げっ!」

正直な気持ちを言うとイラっとした。

ライナス・イーサン・ベルフォートがおなじみのニヤニヤ笑いでこちらを見下ろしていたのだ。

クリフが再び私を庇う様に前に出る。疲れ切っているのに、鋭い視線でイーサンを見据えた。

(ヤバい・・・汗にぬれた空色の銀髪がクリフの顔にかかって、ああ、もう美形過ぎて鼻血もんだわ・・・。)

そんな罰当たりな事を考えたが、いかんいかんと気を引き締める。


イーサンが目を細めてクリフを見た。

「お前では、力不足だ。」

すると、クリフが何か重いものにのしかかられたように、急に膝を落とした。
「ぐっ・・・」

苦しそうに顔をしかめている。

「クリフ様!。大丈夫ですか?。」

私はクリフの肩に手をかけながら、イーサンを見上げた。

「ちょっと、やめてよイーサン!私の友達に酷いことしないで!。それに、なんで出て来たのよ!」

「人をお化けに見たいに言うな。折角助けてやったのに。」

見ると、イーサンの手の平の上に、先程私に向かって放たれた火球と同じ物が燃え盛っていた。

え?、とういうことは・・・、

「お前にぶつかる前にこっちに転移してやったんだ。まず言うなら礼だろう?。」

「うっ・・・」

た、確かにあのまま火球に直撃されてたら、私はローストどころか骨まで残らなかったかもしれない。そばに居たクリフだって、大けがしていただろう。だけど、だからってこんな非常識な奴に礼儀を諭されるとは、なんて屈辱的なんだ!

ううう・・・でも、くそっ、もう、仕方が無い。

「あ、あ、・・・ありがと・・・さんよっ。」

「ん?」

素直に礼を言うのが癪に障ったので、語尾をアレンジしてみたのだが、なんだか上手くいかなかった。イーサンは「なんだそれは?」と言ってケタケタ笑い出し、苦しがっていたはずのクリフも「ぶっ」と言って口を押え、肩をぶるぶる震わせている。

私は顔がかぁっと熱くなった。

「助けて貰ったのはありがたいけど、不本意!あー不本意!」

そう言うと、イーサンはニヤッと笑って、

「じゃあ、返してやろうかこれ。」

と火球をボールの様に手の平でバウンドした。

「ありがとうございました。申し訳ございません。人様の迷惑にならぬよう、処分して頂ければ・・・。」

私は早口で頭を下げた。ちっ、これだからチートは嫌いなんだ。

「ふふっ」と笑いながらイーサンがバウンドした火球を指先でつつくと、炎は霧が周りに溶けていくように消えて無くなった。

(なんて力よ。)

呆れながらそう思った時、イーサンの登場から沈黙していたはずの周囲から、黄色い男の声が響き渡った。




「き、きゃーあ!イーサン様、素敵!カッコいい!会いたかったぁぁぁ!」

          


男の声がリフレインの様にこだました。




「え?」

「えっ?」

「ええっ?」

辺りに色んなタイプの「え?」がカノンの様にざわめき立ち、「え?」の中心には目をキラキラさせて両手を口元に添えるトラヴィスが立っていた。


だけど、「え?」のざわめきの後、静かになった周囲にトラヴィスは、自分の置かれている状況にハッと気が付いたようだった。ヤバっと言う顔をして口を押えた後、一瞬でキリリとした皇太子の顔を取り繕った。

けれど私の見た所、色々と遅かった気がする。周りはそんなトラヴィスに対し、どういう反応をしたら良いのか分からないようで、みな戸惑った顔で挙動不審になっている。

真面目なディーンは、自分が幻を見聞きしたんだろうと言う風に、必死に素に戻ろうとしている。クラークは平静な顔で、額にだけ汗を大量に滲ませていた。何故か、レティシアだけは涙を流しながら笑みを浮かべ、両手を合わせて拝むようにしている。

(あ~あ、やっちゃってるよ・・・)

今まで人前では完璧皇子を貫いてきたのに、生『推し』を見た途端に抑えきれなくなったんだろうなぁ。

「なんだ、あれは?。」

イーサンが面倒くさそうに言った。

「『なんだ』って、知らないの?この皇国の皇太子だよ。」

「頭がおかしいのか?。」

「恐ろしい事に、あれでもめっちゃ優秀だよ。今のはえ~っと・・・ヤバい中身が漏れ出ただけだから。」

「ふーん。」

とイーサンは、もう興味を無くしたようだ。可哀そうなトラヴィスねーさん。




「う、うああああああ」

突然エメラインが叫び声を上げ、再び両腕を振り上げた。いけない!イーサンの登場に気を取られていたけど、エメラインに攻撃されてたんだった!

今度はいくつもの火球が私の方に向かって来て、私は顔を引きつらせた。けれど、その火球は全て途中で音もなく消えた。

「おい、アリアナ。どうしたいこれを?」

「あ・・・?」

呆然としながらイーサンを見上げると、彼の頭上にエメラインが放った火球が浮かんでいた。

「えええっ!?」

「欲しいか?」

「い、要らない。」

「じゃあ、どうする?。全部あの女に返してやるか?。」

炎に照らされながら、にぃっと笑うイーサンの姿は、やっぱり危ない奴だった。

(こ、怖っ!こいつ、やりかねない。)

「だ、駄目!。そんなの受けたら普通に死ぬから。」

イーサンは不思議そうに私を見る。

「何故?。今やられそうだったのは、お前だろう?」

「そうだけど、駄目!。」

キッと睨みつけると、イーサンは薄く笑って軽く手を振った。大量にあった火球は全て音もなくかき消えた。


「・・・どうして・・・皆、私の邪魔をする・・・。」

掠れた声をあげたエメラインを見ると、今までの魔術で魔力を使い過ぎたのだろう、ふらふらになっている。顔色も悪く、身体をよろめかせながら、それでも私に向かって手を上げ新たな攻撃をしようとする。

「駄目です!。それ以上やったら身体がもたないです!。」

「うるさい・・・お前だけはこの手で・・・。」

(なんちゅう執念なのよ!?)
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