モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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第6章 悪役令嬢は利用されたくない

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私を廃寮から救い出してくれた人物は、トラヴィス・レイヴンズクロフト。
アンファエルン皇国の王太子であり、乙女ゲーム、アンファエルンの光の聖女のメイン攻略者であった。なのに、どうして彼の言動が崩壊しているかと言うと、それは、彼が私の唯一の『お仲間』だからである。




それが分かったのは、自習時間に執務室に呼び出された時の事だ。

「あっはっはっは・・・、もう、やっだぁー!そんな、怖がんないでよぉ~!」

腹を抱えて、けらけらと笑い続けるトラヴィスを見て、私は心底引いたし、恐怖さえ覚えた。

(何!?、怖っ!。しかもなんで、おねえ言葉?!)

ヤバい人だ。本物だ。と思って本気で逃げようと、ドアノブに手をかけたが、全くドアは開かなかった。

(うそっ!閉じ込められた?。)

サーっと全身から血の気が引いた。あんなに頑張って来たのに、ここで私のアリアナとしての人生は終わるのか・・・と、覚悟を決めた時、トラヴィスは笑いすぎて涙が浮かんだ目じりを拭きながら、私に向かってひらひらと手を振った。

「ごめん、ごめん!。怖がらせるつもりはなかったんだけどさぁ。ちょっと吃驚させようと思っちゃって・・・。そしたら、あんまり良い反応してくれるから、こっちもついね。」

そう言って、ぺろりと舌をだした。

(・・・はい?。)

なんなんだ、このトラヴィスらしからぬ言動は!?。全然、ゲームの中の、完全無欠の皇太子らしくない。まるで、中身が誰かと入れ替わったような・・・と、そこまで考えて、頭を叩かれた気分がした。

「ちょ・・・ちょっと待ってくださいよ・・・あなたって、もしかして!?」

「ふふ・・・『アンファエルンの光の聖女。』あなたも、プレーヤーだったんじゃない?。」

動揺する私に、トラヴィスはニッコリと極上の笑みを返した。

まぁ、座りなさいよ、と言われ、私はフラフラと再び椅子に腰かけた。

驚いた。まだ心臓の鼓動が早い。

「そ、その・・・殿下はいったい、いつから・・・?」

「トラヴィスで良いわよ。殿下なんて固っ苦しいから。そうねぇ、5才くらいだったかなぁ・・・。」

「そ、そんなに早く!?」

それじゃ、私の大先輩だ。

(何せ、私はつい一年前だからね。アリアナになったのって。)

トラヴィスは机に両肘をついて、手の平に顔を乗せた。

「驚いたわよぉ。あの悪役令嬢のアリアナが、すっかり優等生になって、しかもダンスパーティでの断罪イベントまで、変更されちゃってるんだもん。あのディーンが、婚約者のままでいるしね。あっ、これは、私と同じかも?って思ったわけ。」

「は、はぁ、なるほど・・・。」

「で、ダンスに誘って、ちょっとカマかけてみたの。効果てきめんだったわね。あんたって、顔に出やすいんだもん。」

そう言って、また楽しそうに笑った。

(いや、別に良いんだけど・・・。良いんだけどね・・・。良いのか?!)

私は頭を抱えた。なぜなら、この無視できない、違和感。・・・この乙女ゲームのNo.1イケメンと言っても過言ではない、トラヴィスの顔でよ!?

眉間を親指と人差し指で押さえて、深呼吸して脳を落ち着かせた。そして、どうしても気になる事を聞いてみた。

「すみませんが、殿下・・・。どうして、その・・・殿下の喋り方が「おねえ」のようになっているのでしょうか?。」

恐る恐る問うた私に、トラヴィスはキョトンとした顔を向ける。そして、

「えー、やだ。おねえだなんて!。だって私、前世OLだもん。これが普通でしょ?」

当然とばかりに返された。

「いや、普通じゃないです。トラヴィスはこんなんじゃなーい!。」

と握りこぶしで大声を出してしまい。そんな私を見て、トラヴィスはまた、ケタケタと笑った。

どうやら、トラヴィスの中身は、たちの悪いお姉様のようだ。私は力が抜けて、肩を落とした。だけど、私もつられて段々笑えて来た。そして、たった一人だと思ってたこのゲームの世界で、『仲間』に出会えた事に、心が浮き立った。どうやら彼(彼女?)は随分前から、トラヴィスをやってるようだし、色々情報を聞きたい。

でも、残念ながら、ここで授業のチャイムが鳴ってしまった。

「ねぇ、秘書。引き受けてくれるでしょ?」

トラヴィスねえさんは、テーブルに片肘を付いて顔を乗せたまま、笑みを浮かべた。

「聞かなくても分かってますよね?。」

私も、ニッと笑って親指を立て、執務室を後にした。
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