モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい（完結）

第５章 悪役令嬢は絡まれたくない

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「それは、光の魔力だ。」

「え！？」

皆が一斉にリリーの方に振り向いた。

「光の魔力・・・。」

呟いたリリーにクリフが頷いた。

「そうだ。光の魔力の聖魔術。これが精神魔術を浄化させるらしい。ただし、精神魔術をかけた術者よりも、魔力が高くないと浄化は難しい。・・・どうする、リリー。やってみるかい？」

リリーの瞳に強い光が宿った。

「ええ、やらせてください。」

大きく頷いて、彼女は立ち上がった。




「聖魔術をかける前に、ノエル様にかけた捕縛魔術とシールドを解いてもらえますか？。魔力がそちらに流れる可能性があるので。」

リリーは部屋の隅に転がされているノエルの横に膝をついた。

「でも、そうしたらまた、アリアナ様に向かって行くんじゃないの？」

ミリアはげんなりした顔で溜息をついた。

「私とクリフで押さえておこう。パーシヴァルも手伝ってくれ。」

「えー？。僕は面白いから、そのまま見てたいけどなぁ。」

ヘラヘラ笑っている彼を見て、（この野郎！）と思ったが、意外と素直にパーシヴァルも、ノエルの足を押さえに行った。

「では、今から俺とディーンが魔術を解く。念のためリリー以外は、少し離れておいてくれ。じゃ、ディーン行くぞ・・・。」

クリフがそう言った途端、捕縛の魔術が解けたのか、ノエルは再び暴れ出した。急いでクリフとディーンが両腕を抱える様に抑えた。パーシヴァルは蹴られそうになりながらも、必死に足を押さえている。起きる事は出来ないと悟ったのか、ノエルは顔だけを持ちあげると、真っすぐ私の方を向いて叫んだ。


「アリアナ！。僕は君が好きだっ！。ディーンやクリフなんかより、ずっとずっと君が好きなんだ！。愛してる！。」


ノエルの言葉に、部屋にいた皆が、一瞬呆気に取られた。静まり返った部屋で、ノエルの叫んだ言葉が、こだまのように響いた気がした。


クリフが再びノエルの口を押えようとしたが、ノエルは顔を背けてそれを防いだ。

「君だって、本当は僕の事が一番好きなんだ！。僕はちゃんと、あの方からそう聞いたんだ！。だから、アリアナ！。僕と結婚を・・・。」

「リリー嬢！、早く、聖魔術を！」

ディーンがリリーに向かって叫んだ。

ノエルの勢いに、気を飲まれていたリリーは、ディーンの声に我に返ったようだった。そして、目を瞑って両手を祈る様に組んだ。すると、彼女の内側から銀色に輝く光が広がり始めた。光は段々と大きくなり、やがてノエルの身体をゆっくりと優しく包み込んだ。

すると直ぐに、暴れていたノエルの身体から力だ抜けた。そして、彼の頭の中から黒い煙の様な物が立ち上ったかと思うと、リリーの発した光の中で小さくなり、やがてゆるゆると消えて行った。

ノエルは目を閉じて、ぐったりと横たわっている。

「ノエル！？」

ミリアがノエルに駆け寄ると、ノエルはゆっくりと目を開けた。

「ノエル！。大丈夫か？」

クリフが声をかけても、ノエルはまだぽかんとしていたが、頭を動かして、こちらを見て、私と目が合った。そして、その途端、彼の顔は真っ赤に染まり、ガバッと起き上がると、私に向かって土下座した。

「ごごご、ごめんなさい！。ぼ、ぼ、ぼ、僕は何ってことを！！！」

身悶えんばかりに、猛烈に謝り始めた。

その様子を見て、ミリアがふーっと溜息をつく。

「どうやら、正気に戻ったようね・・・。」

ノエルは土下座したまま、「ごめんなさい！」「許してください！」と謝り続けている。

私は居たたまれなくなって、思わずノエルの前に膝を付き、彼の肩に手を乗せた。

「だ、大丈夫ですよ！。ノエル様が、本気で言ったのでは無いと分かってますから。ノエル様は操られてたんです。だから・・・、あの・・・、お願いですから、顔をあげてください！。」

それでもノエルは頭を上げない。私は困ってしまって、きょろきょろと皆の顔を見ると、ディーンと目が合った。するとディーンは眉を寄せて、私を睨むように見た。

「アリアナ・・・。どうして君まで赤くなっているんだ？」

「えっ？。いえ・・・、だって、面と向かって告白されたのは、生まれて初めてですので・・・。」

正直、あそこまで熱烈に好きだと言われたら、さすがにグッと来てしまった・・・はは。

すると、ディーンはノエルの肩に乗せていた私の手を掴むと、引っ張る様に私を無理やり立たせた。そして、私の体を自分の方に向けさせると、

「ノエルの告白は、精神魔術のせいだ！。君だって分かってるだろう！？」

私の手を強く握ったまま、そう言ったのだ。

その時、リビングのドアが開き、「ただいま」と兄のクラークが部屋に入ってきた。彼の目に入ってきた光景は・・・。

兄は凄いスピードで、こちらに近寄ると、ディーンの手から私をもぎ取った。そして、土下座したままのノエルを見ると、笑顔を浮かべながらも、厳しい声でこう言った。


「説明を聞こうか。」


私達は全員、一斉に溜息をついた。