モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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第5章 悪役令嬢は絡まれたくない

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(近い、めちゃくちゃ距離が近い・・・。)

額と額がくっつきそうな状態で、ノエルは私を睨みつけている。

「アリアナ嬢!。いや、アリアナ!。君が本当に好きなのは、この僕だ!」

(・・・。)

一瞬、間があった後、私は彼が言った事を理解した。

「は・・・、はいい?!。」

「君はダンスパーティで、僕と身長が合っていると言った。すなわち僕と君は合っていると言う事だ!。君は僕が好きなんだ!。」

ノエルの手は、肩に食い込むほど力がこもっていた。

(い、痛たたたた。ノ、ノエルてばっ・・・。)

私は痛みに顔をしかめた。

「あ、あのノエル様。肩が痛いです・・・。」

「肩なんて、どうでも良い!。さぁ、僕のアリアナ!。早くディーンなんかとは婚約解消して、僕と結婚・・・はぐっ!」

突然、ノエルが硬直したように動かなくなった。そして、口はパクパクしているのに、全く彼の声が聞こえなくなったのだ。

「えっ、えっ!。ノ、ノエル様・・・?」

ノエルのあまりに異様な様子に、私は思わず引いてしまった。でも、気を取り直して周りを見ると、凶暴な目をしたクリフと目が合った。

「捕縛魔術をかけた。こいつはもう、動けない。」

「ほ、捕縛?」

「ディーン、手を貸してくれ。床にでも転がしておこう。」

「分かった」

ディーンとクリフは、二人でノエルを横にすると乱暴に部屋の隅へと追いやった。

「私は、彼の周りに全てを遮断するシールドを張った。」

ディーンの声は、氷の様に冷たい。彼の周りの空気もヒンヤリしている様に感じた。

「これで、あいつが何を叫んでいようと、こちらには聞こえない。さぁ、話しを続けよう。」

ノエルは床に転がって固まったまま、顔は何か叫んでいるかのように口が動いている。あまりにも異様な姿を見かねたのか、ミリアはツカツカと彼に近寄ると、彼の頭を見えない方向に傾けた。

「あ、あの・・・せめてソファに寝かせてあげたら・・・。」

「大丈夫ですわ、アリアナ様。弟は床が好きですの。好きなだけ、寝させてあげましょう。」

にっこり笑ったミリアの顔が、怖かった。




「父から来た手紙の話に戻るよ。」

クリフは何事も無かったように、話し始めた。

「モーガン先生・・・サクレメッサ・モーガンは、前にアリアナ嬢には話したけど、今はデンゼル公爵の第二夫人だ。父親はヘクター・モーガン侯爵。10年程前、財政省で働いていたのだが、皇国の金品を着服したとして、爵位を剥奪されている。」

「良くある話ですね。」

ミリアが冷えてしまったお茶を飲もうとしたので、私はステラに入れ直してくれるように頼んだ。

「話としては、よくある事だが、その方法が珍しい。モーガン侯爵は犯罪に精神魔術を使ったんだ。魔術で職員を操り、皇帝陛下の財産に手を付けた。」

「こっわー!よくやるわね。」

ジョーは新しいお茶を飲みながら、ケーキに手を伸ばした。

「魔力を封じる魔法具も、なんらかの方法で外されていたらしい。まぁ一番言いたいのは、モーガン家は精神魔力を持つ血筋だって事だ。」

「モーガン先生が、精神魔力を持っていても不思議では無いと言う事ですね。」

少しずつ、色んな事象が繋がって来た。

「精神魔術を解く方法については、分からないのでしょうか?。」

「それについても、父の手紙にあったよ。まず、精神魔術というのは基本、魔力の強い者から弱い者にしか、かける事は出来ないんだ。」

「えっ!?そうなのですか?。」

では、ここにいる皆は、基本安全な訳だ。私とノエル以外は・・・。

(ノエルも魔力低いって言ってたからなぁ・・・。あっでも、相手が相当強い・・・例えばディーンやクリフくらいの魔力を持ってたら、ミリアやジョーも操られてしまうって事か。)

まぁ、そのクラスの使い手はなかなか居ないだろうけど・・・・・・ん?。

(いる!。ライナス・イーサン・ベルフォート!。・・・あいつなら、世界中の人間を操れる。)

そう思ってゾッとした。だけど私は、無理矢理その考えを頭から押しのけた。

(今はあいつは関係ない!。まずはこっちの事!)

私はクリフの話に集中した。


「ただし、相手が相当疲れているか、魔力が消耗している時は、相手の能力が高くても、術をかける事ができるらしいよ。ノエルとグローシア嬢に無茶苦茶な補習をさせたのは、そのせいかな?。グローシア嬢が、モーガン先生のお茶会に行かなくて良かったよ。」

「わたくしは、疲れていたとしても、精神魔術などにはかかりません!」

グローシアは、ノエルと一緒にするなと言いたいようだった。

「精神魔術はかけられた者の感情を増幅したり、または減少させたりできる。つまり悪意や好意をなどを操れるって事だ。やり方によっては、全く思っていなかった事を考えさせたり、操り人形の様に、何も考えさせないようにしたりできる。また、深く眠らせたり、記憶を失わせたり、幻覚を見せる事も可能だ。」

「悪人が使えば、恐ろしい事になりますね。だから魔法具で封じる様になったのですね。」

「その通りだ。」

私の問いにクリフは頷いた。私達はまだ、精神魔術に関する授業を受けた事は無い。皆はクリフの話を聞いて、思っていたよりも、大事であることに気付いたようだった。

「そして、精神魔術を解く方法は3つある。一つ目は、かけた本人が解術する事。」

「それは無理ですわね。」

レティが残念そうにつぶやいた。

「二つ目は闇魔術で、精神魔術を無効にする事。闇の魔力は全ての魔力を飲み込むからな。」

「そんなのもっと無理ですわ!。闇の魔力を持つ者なんて、なかなか見つけられないですもの!」

ミリアがイライラした口調で声を荒げた。冷たくあたってたが、やっぱりノエルの事を心配しているのだ。

「焦るなよ。もう一つの方法がある。」

「なんですか?」

全員がクリフの言葉を待った。
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