モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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第5章 悪役令嬢は絡まれたくない

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「わたくし達、サロンを引っ越す事にしましたのよ。ちょうど屑入れを新調しようと思っていましたの。ですから、今まで使っていたのは、あなたに差し上げるわ。大事になさって。」

おほほと笑うと、エメラインは何事も無かったように、また歩き出した。

「アリアナ様・・・!。」

ミリア達三人が、私に駆けつけて、ハンカチで髪を拭いてくれる。それに気づいたのか、エメラインは振り向きもせず、

「ミリア、レティシア、ジョージア。早くいらっしゃい。」

と優しげだが、逆らう事を許さない雰囲気を漂わせた。

ミリアは青ざめて唇が震えている。いつも明るいジョーも、口を引き結んだ。レティはもう、泣いている。

「何をしているの?。早くなさい。」

エメラインの声に、少しだけ厳しさが加わった。

私は声を潜めて、エメラインに聞こえない様に素早く言った。

「わたくしは大丈夫ですので、早く行ってください。」

三人は躊躇いながらも小さくうなづいて、何度も振り返りながらエメラインの元へ戻って行った。私は三人に笑顔で手を振った。


彼女達の姿が消えてから、改めて自分の状態を確認する。上半身はびしょ濡れで、手には使い古されたゴミ箱だ。

「まったくもう・・・。」

このままじゃ、午後からの授業が受けられない。保健室でタオルと、何か着替えを借りようと、歩き出した時に、私の足が何かに引っかかった。

「う、うわっ。」

ゴミ箱を持っているせいで、手を付く事も出来ず、思いっきり転んでしまった。肩とすねを、地面に強く打ちつけてしまい、かなり痛い。

(痛ったぁ。なんで?。)

痛みに顔をしかめながら上体を起こすと、ダンスパーティの時にやりあった、あのエルドラ達が私を見下ろしていた。

「あら、公爵令嬢様は、地面で寝るのがお好きなのかしら。」

「いやだわ、まわりにゴミが散らばってましてよ。」

「大丈夫ですかぁ?。お得意の権力で、なんとかなさったら?」

そう言って、くすくす笑いながら行ってしまった。間違いない、あいつらが私に足を引っかけたのだ。


私はゆっくりと立ち上がって、土で汚れたスカートを払った。そして、自分の様子を確認する。

打ちつけた肩はずきずきするし、膝からは血が流れている。そして私の周りはゴミだらけだ。

(なるほど・・・)

私は濡れた髪を片手でかき上げて、腰に手を当てた。


「ふん、上等じゃない。」


(これくらで、私がへこむなんて、思うなっての。)

急いで散らばったゴミをかき集めて、私は保健室に急いだ。午後の授業に遅れる訳にはいかないのだ。




そして放課後、私は一人で中庭のカフェでお茶を飲んでいた。

(やっぱり、放課後もぼっちかぁ。)

空にはぷかぷかと、のんびり雲が流れている。それを、なんとも言えない気分で眺めた。


授業が終わった後、皆が私の膝の怪我について、過保護な程、心配してくれた。クリフとミリアの瞳に、物騒な光が浮かんだので、「中庭で転んだだけです。」と言って誤魔化した。詳細は言わなかったが、嘘をついた訳ではないのだ。

そして予定通り、皆は放課後も呼び出されていった。

リリーは聖女候補としての修行に使命感を持っているようだ。彼女が聖女になるか、ならないかで、この国の未来は大きく変わる。ゲームを知ってる身としては、頑張れと言うしかない。

ディーンは生徒会の活動に真面目に取り組もうとしている。この学園の生徒会に参加する事は、将来、皇国での要職にも繋がるので重要なのだ。クリフもきっと、同じ気持ちだろう。

ミリア達三人は、昼の事もあってか、ずっと浮かない顔をしていた。あの強烈なエメライン王女の元に居るのは、何かと神経を使うだろう。だけど王女のお世話係を賜る事は、自分だけでなく、家の名誉にも関わってくる。それに将来、王女の侍女となり出世できるかもしれないのだ。

(私に出来るのは、後ろで旗振って応援するぐらいなのよねぇ・・・。)

だけど、やっぱり一人ではつまらなかった。テーブルに授業のノートを広げてはいたが、勉強も毎日、皆と一緒にしていたので、なんだか身が入らない。

(この私が、勉強する気にならんとはね・・・。)

世も末じゃと、私は机の上に腕を組んで、頭を伏せた。

(ノエルとグローシアはどうしたんだろう?。放課後なら会えると思ったんだけどな・・・。)

何故だろうか、彼らも姿を見せないのだ。

私は溜息まじりに、しばらく流れていく人を、目の端でぼんやり眺めていた。すると、向かい側の椅子に誰かが座る気配がした。

(ん・・・?。誰?)

混んでるから、相席ですかね?と思いながら、顔を上げると、向かいの席でクリフが頬杖をついて笑っていた。

「えっ、えっ!?。クリフ様!。生徒会はどうしたのですか!?」

だって、まだ授業が終わって、30分も経っていないよ。
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