モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい（完結）

第５章 悪役令嬢は絡まれたくない

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「不正と仰いましたが・・・、私はどのようにテストで不正をしたというのでしょう？。」

「知らないわよ！。どうせ、カンニングでもしたんでしょ？！。あなたのやりそうな事だわ。」

（おいおい、この子のアリアナのイメージって、そこまで酷いのか！？）

興奮しているせいか、口調も荒くなっている。お嬢様言葉を使うのも忘れてるようだ。

「私が不正をしたというのなら、テストを監督して下さった先生方は皆、私の不正を見逃した事になりますね？。そのような事はありえます？。」

マーリンは私を軽蔑する様に、薄く笑いを浮かべた。

「コールリッジ公爵家の権力で押さえつければ、可能かもしれないわよ？。ご自分の胸に聞いてみたら？」

私は彼女の言い分に呆れた。この子は本気でそう思っているのだろうか？

「もしそうだとしたら、14教科のテスト監督なさった全ての先生に、私は圧力をかけた事になりますが・・・。」

「そうよ！」

「さすがに無理がありませんか？。当日のテスト監督が誰になるのか、分からないじゃないですか。」

一瞬マーリンはムッと口を引き結んだ。でも、また笑いを浮かべると、

「学園中の先生に圧力をかけるくらい、あなたならしそうだわ。」

荒唐無稽さに、思わず私も笑ってしまった。それを見たマーリンの目が吊り上がる。

「何、笑ってるの？」

「ごめんなさい。本当にそんな事、考えてらっしゃるのかと思って・・・。もし、わたくしが本当に不正をしたと仮定したとして・・・、わたくしなら、そんな非効率な事はしませんわ。テストを作る先生をターゲットにすれば良いだけでしょう。それなら、14人の先生だけですみますわね。」

くすくす笑う私は、どうやらマーリンの神経を逆なでしたようだ。顔つきが険しくなる。それでも、彼女は勝ち誇ったように胸を反らせた。

「白状したわね？！やっぱりそうだったんじゃない。」

（この子、短絡的だなぁ・・・。）

「仮定の話と申しましたが？。」

私は頬に手を添えて小首を傾げた。

成り行きを見ていたクラスメート達は、こちらを見ながらコソコソと喋り合っている。マリオット先生はおろおろと、「落ち着いて。二人とも落ち着いてください！。」と私達二人の顔を見回すばかりだ。

目の端に、リリーが心配そうに見つめているのが見える。ミリアは眉間にしわを寄せて、マーリンを睨み、ジョーはただ頬杖をついて眺めている。レティは眉尻が下がり、少し顔色が悪い。

（ふうん、こういう時って性格がでるよね。）

皆の反応を見るのが面白かった。それくらい、私は落ち着いていた。

パーシヴァルはつまらなそうに外を眺め、ディーンは私達二人を冷静に見ている。そして何故かクリフは、愉快そうに私を見ていた。

私はクリフの様子を見て少しホッとした。ダンスパーティの時の様に、彼が怒り出さないかと思っていたからだ。

（あの時は、クリフもお金目当てみたいに言われてたもんね。）



私はマーリンに目線を戻した。

「でも、マーリンさん？。もし、その14人の先生が不正に手を貸したとして、私の成績を満点にする必要はあります？。」

「魔力ゼロが上級クラスに入るのには、それくらいじゃないとダメだって、マリオット先生も言ってたじゃない！。」

「い、いや、マーリンさん。僕はそうじゃなきゃダメとは言って無いよ。全科目難点は上級クラスに相応しいと言っただけ・・・。」

「でしたら・・・！」

申し訳ないが、口を出そうとしたマリオット先生の言葉に被せる様に、私は言った。

「でしたら、成績を満点にするような目立つ事をせず、わたくしが魔力ゼロである事を隠した方が、簡単ではありません？。魔術実技の先生を抱きこめば可能ですわ。」

（我ながら、悪い手を考えるなぁ・・・。そんな事しないけどさ。）

「あ、あなたって、なんてズルい人なのよ！」

マーリンがいきり立つ。

（だから、例えばの話だってば！）

この子、ほんとに話を聞かない！っていうか、あくまでアリアナが不正したって考えに固執してる。なんだろう？この感じ。前にも感じた違和感・・・。

（ああ、もう、面倒くさくなってきたぞ！）

なんで、こんな子の相手しなくちゃいけないのさ！？

私はマリオット先生に顔を向けた。

「マリオット先生。わたくし、通常クラスに参ります。」

私がそう言うと、マリオット先生はまたぽかんと口を開けた。そして、慌てて気を取り直すように頭を振ると、私を止めにかかった。

「ア、アリアナさん、それは駄目です。そんなことは・・・！。」

「アリアナ様！？」

「そんなっ！？」

リリーとミリアの声も聞こえる。クラスのざわめきも一際大きくなった。

「ほらみなさいよ！。やっぱり不正をしたからよ。通常クラスに行くのが当然だわ！？」

勝ち誇ったように言うマーリンを、私は再び冷えた目で見つめた。

「わたくしが、通常クラスに行くと言ったのは、不正をしたからではありません。あなたと同じクラスなのが嫌だからです。」

「なんですって！？」

「あなたの仰る事って、まったく論理的では無い上に、整合性に欠けています。人を攻撃する事だけを目的としていて、大変不愉快です。それに、元々わたくし、クラスにこだわりは無いです。勉強は一人でもできますもの。ただ、友人と同じクラスでありたいとは思いましたけど・・・。」

みんなと同じクラスで居たいとは思うけど、正直ずっとこのマーリンって子と同じクラスはごめんだわ。

すると、混乱する空気の中で、クリフがゆっくりと立ち上がった。

「じゃ、俺も通常クラスに行くよ。」

「ク、クリフ君！？」

マリオット先生の声が裏返った。

「アリアナ嬢が行くなら、通常クラスの方が面白そうだ。」