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第4章 悪役令嬢は目を付けられたくない
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有り得ない程の緊張感の中、やっとダンスの曲が終わりに近づき、私はホッとする。
(よし、挨拶したら、とっとと退散だ。)
最後のターンの後、私はドレスの裾を持ち上げ、膝を落とした。トラヴィスも私に向かって頭を下げる。と、その時、素早く彼は私の耳元でボソリと一言呟いた。
(えっ!?)
頭を上げた私に、トラヴィスは極上の笑みを返し、片手を上げて去って行った。静かだったホールはまた、新しいパートナーを探す人達の声で溢れ出している。でも私は、その場に立ったまま動けない。周りの声も、まるで水の中の居る様に遠くから聞こえるようだ。
トラヴィスが最後に呟いた言葉。それは、
『悪役令嬢役はどうしたの?』
周りの景色が、ぐるぐる回っているような気がした。
「アリアナ・・・。」
肩を叩かれて振り向くと、そこには心配そうな顔をした兄のクラークがいた。周りでは次の曲が始まって、もうダンスが始まっている。
「大丈夫か?。今からは移動しにくいから、このまま踊ってしまおう。」
クラークは私の手を取り、気遣う様にリードを始めた。私はふらつきながらも、クラークの足さばきに合わせていく。
「たまたま近くに居てよかった・・・。殿下と何かあったのかい?」
「・・・いえ・・・。」
嘘つくのは申し訳ないと思いつつ、私は首を横に振った。
だって、これは誰にも言えない事だ。
私は兄とダンスをしながら、他の生徒と歓談しているトラヴィスを見る。その横顔からは、彼の真意は窺い知れない。
乙女ゲーム「アンファエルンの光の聖女」のナンバーワン人気の攻略対象。容姿端麗、頭脳名声、公正無私を誇る完璧な皇太子トラヴィス。だけど・・・、
『悪役令嬢役はどうしたの?』
トラヴィスが、私に囁いた言葉。
(トラヴィスは悪役令嬢役と言った。役って・・・、まさか・・・?。)
彼は知っているんだ。私がアリアナのストーリーを辿ってこなかったことを。
「・・・お兄様、このダンスが終わったら、わたくし帰ります。・・・疲れてしまいました。」
今日は色々あって、キャパオーバーである。せっかく断罪イベントを乗り越えたというのに、どうしてこうなるのか・・・。
送って行こうかと言うクラークの申し出を断り(クラークは生徒会に入ってるし)、私は飲食スペースに戻ろうとした。そこへ行けば、きっと誰かに会えるだろうと思ったからだ。帰るなら、せめて一言、声をかけていかないと・・・。
だが、その途中で、今度は飲食スペースの方から、ガタンッ、バンッと言う何かがぶつかる様な音が聞こえ、「キャー!」と言う、女子の悲鳴なんかも聞こえてきた。
(こ、今度は何事!?)
あっという間に人が集まり、人盛りが出来る。どうやら先生方も駆けつけているようだ。背の低い私には、中の様子が全く見えない。人が多いせいで、リリーやジョーが居るのかも分からなかった。
「すみせん、何があったのですか?」
私は近くにいた女生徒に聞いてみた。女生徒は私の顔を見ると、「あっ」と言って、ちょっと気まずそうな顔をした。
「アリアナ様。その・・・アリアナ様に、申し上げて良いのかどうか・・・。」
(ん?)
何?。私に何か、関係があるの?
「なんですか?。大丈夫です。教えてください。」
「その、定かでは無いのですが、なんでも・・・ディーン様とクリフ様が、リリー様を取り合って、殴り合いをなさったとか・・・。」
「はい!?」
(な、何なの!?そのカオス状態!)
ちょ、ちょっと、いつの間にそんな事になっちゃってんのよ!?
(えっ?、まさか、クリフもリリー狙いだった!?。そりゃ、攻略相手だし、好感度上がる様にはなってるんだろうけど、全然そんな素振り見せなかったじゃん!)
一瞬、リリーを取り合う二人の図を想像し、(あ、ちょっと萌えるかも?)と思ったが、急いで頭から追い出した。
(殴り合いって・・・!、二人とも怪我とか大丈夫なの?。)
「す、すみません!通してください。」
私は人垣をかき分けて、中の方へと入っていく。
「すみません、ちょっと。」
と、やっとの思いで抜けると、大きな人垣の輪の中で、右目の周りを青くしたディーンと、口の端から血を流しているクリフが、年配の男の先生から叱られている所だった。
「伝統ある終業パーティで、喧嘩をするなどけしからんことだ。話を聞かせて貰うから、付いて来なさい!」
そう言って、ホールから二人を連れて出て行ってしまった。
(ディーン、クリフ・・・。)
喧嘩の主が居なくなっても、辺りはまだ、ざわざわしている。その中で、私はミリアを見つけ、目が合った。
「アリアナ様!」
「ミリア!。いったい何があったのですか?話によると、二人がリリーを取り合って、喧嘩したって。」
ミリアは眉をしかめて、
「なんですか!?その変な噂は!。そんな事、ありえないですよ。・・・詳しい事情は分からないのですが、クリフ様から殴りかかったみたいで・・・。」
そう言いながら、キョロキョロと辺りを見回す。
「アリアナ様。とにかく、皆を探しましょう。なんだかパーティ気分じゃなくってしまいました。」
「そうですね。わたくしも今日はもう、いっぱいいっぱいで・・・。」
キャパオーバーどころか、オーバーヒートしそうである。
(断罪イベントも終わったし、悪役令嬢もお役御免になって、せっかく、闇の組織の調査に集中できる筈だったのに・・・。ディーンもクリフもどうしちゃったのさ。それに・・・、ああ、もう!、どうして、私がトラヴィスに絡まれて、おまけにエメラインに睨まれなきゃいけないのよ!?。)
こんなんで、新学年は無事に始まってくれるのだろうか?
私は心の中で頭を抱えた。
第4章 終
(よし、挨拶したら、とっとと退散だ。)
最後のターンの後、私はドレスの裾を持ち上げ、膝を落とした。トラヴィスも私に向かって頭を下げる。と、その時、素早く彼は私の耳元でボソリと一言呟いた。
(えっ!?)
頭を上げた私に、トラヴィスは極上の笑みを返し、片手を上げて去って行った。静かだったホールはまた、新しいパートナーを探す人達の声で溢れ出している。でも私は、その場に立ったまま動けない。周りの声も、まるで水の中の居る様に遠くから聞こえるようだ。
トラヴィスが最後に呟いた言葉。それは、
『悪役令嬢役はどうしたの?』
周りの景色が、ぐるぐる回っているような気がした。
「アリアナ・・・。」
肩を叩かれて振り向くと、そこには心配そうな顔をした兄のクラークがいた。周りでは次の曲が始まって、もうダンスが始まっている。
「大丈夫か?。今からは移動しにくいから、このまま踊ってしまおう。」
クラークは私の手を取り、気遣う様にリードを始めた。私はふらつきながらも、クラークの足さばきに合わせていく。
「たまたま近くに居てよかった・・・。殿下と何かあったのかい?」
「・・・いえ・・・。」
嘘つくのは申し訳ないと思いつつ、私は首を横に振った。
だって、これは誰にも言えない事だ。
私は兄とダンスをしながら、他の生徒と歓談しているトラヴィスを見る。その横顔からは、彼の真意は窺い知れない。
乙女ゲーム「アンファエルンの光の聖女」のナンバーワン人気の攻略対象。容姿端麗、頭脳名声、公正無私を誇る完璧な皇太子トラヴィス。だけど・・・、
『悪役令嬢役はどうしたの?』
トラヴィスが、私に囁いた言葉。
(トラヴィスは悪役令嬢役と言った。役って・・・、まさか・・・?。)
彼は知っているんだ。私がアリアナのストーリーを辿ってこなかったことを。
「・・・お兄様、このダンスが終わったら、わたくし帰ります。・・・疲れてしまいました。」
今日は色々あって、キャパオーバーである。せっかく断罪イベントを乗り越えたというのに、どうしてこうなるのか・・・。
送って行こうかと言うクラークの申し出を断り(クラークは生徒会に入ってるし)、私は飲食スペースに戻ろうとした。そこへ行けば、きっと誰かに会えるだろうと思ったからだ。帰るなら、せめて一言、声をかけていかないと・・・。
だが、その途中で、今度は飲食スペースの方から、ガタンッ、バンッと言う何かがぶつかる様な音が聞こえ、「キャー!」と言う、女子の悲鳴なんかも聞こえてきた。
(こ、今度は何事!?)
あっという間に人が集まり、人盛りが出来る。どうやら先生方も駆けつけているようだ。背の低い私には、中の様子が全く見えない。人が多いせいで、リリーやジョーが居るのかも分からなかった。
「すみせん、何があったのですか?」
私は近くにいた女生徒に聞いてみた。女生徒は私の顔を見ると、「あっ」と言って、ちょっと気まずそうな顔をした。
「アリアナ様。その・・・アリアナ様に、申し上げて良いのかどうか・・・。」
(ん?)
何?。私に何か、関係があるの?
「なんですか?。大丈夫です。教えてください。」
「その、定かでは無いのですが、なんでも・・・ディーン様とクリフ様が、リリー様を取り合って、殴り合いをなさったとか・・・。」
「はい!?」
(な、何なの!?そのカオス状態!)
ちょ、ちょっと、いつの間にそんな事になっちゃってんのよ!?
(えっ?、まさか、クリフもリリー狙いだった!?。そりゃ、攻略相手だし、好感度上がる様にはなってるんだろうけど、全然そんな素振り見せなかったじゃん!)
一瞬、リリーを取り合う二人の図を想像し、(あ、ちょっと萌えるかも?)と思ったが、急いで頭から追い出した。
(殴り合いって・・・!、二人とも怪我とか大丈夫なの?。)
「す、すみません!通してください。」
私は人垣をかき分けて、中の方へと入っていく。
「すみません、ちょっと。」
と、やっとの思いで抜けると、大きな人垣の輪の中で、右目の周りを青くしたディーンと、口の端から血を流しているクリフが、年配の男の先生から叱られている所だった。
「伝統ある終業パーティで、喧嘩をするなどけしからんことだ。話を聞かせて貰うから、付いて来なさい!」
そう言って、ホールから二人を連れて出て行ってしまった。
(ディーン、クリフ・・・。)
喧嘩の主が居なくなっても、辺りはまだ、ざわざわしている。その中で、私はミリアを見つけ、目が合った。
「アリアナ様!」
「ミリア!。いったい何があったのですか?話によると、二人がリリーを取り合って、喧嘩したって。」
ミリアは眉をしかめて、
「なんですか!?その変な噂は!。そんな事、ありえないですよ。・・・詳しい事情は分からないのですが、クリフ様から殴りかかったみたいで・・・。」
そう言いながら、キョロキョロと辺りを見回す。
「アリアナ様。とにかく、皆を探しましょう。なんだかパーティ気分じゃなくってしまいました。」
「そうですね。わたくしも今日はもう、いっぱいいっぱいで・・・。」
キャパオーバーどころか、オーバーヒートしそうである。
(断罪イベントも終わったし、悪役令嬢もお役御免になって、せっかく、闇の組織の調査に集中できる筈だったのに・・・。ディーンもクリフもどうしちゃったのさ。それに・・・、ああ、もう!、どうして、私がトラヴィスに絡まれて、おまけにエメラインに睨まれなきゃいけないのよ!?。)
こんなんで、新学年は無事に始まってくれるのだろうか?
私は心の中で頭を抱えた。
第4章 終
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