モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

文字の大きさ
上 下
91 / 284
第4章 悪役令嬢は目を付けられたくない

11

しおりを挟む
エライシャ先生は厳しい顔で、パンパンと2回手を打ち鳴らすと、

「ミリアさん、落ち着きなさい。今は今年度を締めくくる、大事なパーティの最中です。争い事は許しません。・・・エルドラさん、話を聞くと、どうやら、あなた達の方に非があるようです。罰として、今からパーティの参加を禁じます。今日は寮に戻って反省していなさい。日を改めてあなた達からは話を聞く事にします。」

「そんな!」

「どうして!?」

エライシャ先生の言葉に、女生徒達から悲鳴の様な声が上がった。このダンスパーティは皆が一年間楽しみにしているものだ。まだ始まって間もない時間に、帰れと言われた事にショックを受けたのだろう。再び泣き出してしまった女子もいた。すると、あの美人先生がすっと前に出た。

「お黙りなさい。」

静かながらも威厳が込もった声に、女生徒達は静かになった。

「エライシャ先生の仰る通りになさい。」

すると、先ほどまで騒いでいた女生徒達は、急に素直にその言葉に従うと、何も言わずに礼をして、パーティ会場から出て行ってしまった。

(何・・・?、この不自然な感じ・・・。)

すかさず美人先生に目をやると、なんと彼女も私の方を見ていた。視線が交わる。彼女は私に向かって、真っ赤な口紅が塗られた唇を弧の様にして笑った。背中にゾッと悪寒が走る。

(この先生・・・。)

でもそれは一瞬で、彼女はエライシャ先生の方へ歩いて行くと、優雅に頭を下げた。

「エライシャ先生。わたくしのクラスの生徒が失礼を致しました。」

「モーガン先生のせいではありませんよ。クラスの生徒の全てを把握するのは、難しい事です。」

エライシャ先生は頭を押さえて溜息をつき、そして私達の方へ目を向けた。

「アリアナさん。」

「は、はい。」

「良い友人を持ちましたね。」

普段めったに笑わないエライシャ先生が、笑みを浮かべていた。

「パーティはまだまだこれからですからね。皆さんとお楽しみになさい。」

「はい、ありがとうございます。」

そうして先生方は去って行き、私達を取り囲んで成り行きを見物していた人垣も、ゆるゆるとほどけて行った。

「アリアナ様、大変でしたね。すみません、私は何も言えなくて・・・。」

レティシアが涙を浮かべて、抱きついてきた。

「いえいえ、ダンスを中断して、こちらに来てくれたんですよね?。ありがとうございます。」

「レティはあの子達をちゃんと睨みつけてたわよ。私も、一発殴ってやりたかったなぁ。」

物騒な事を言いながら、ジョーがこちらにやってきた。何故かグローシアを拘束する様に、腕を回している。

「ど、どうしたの?」

「いえね、グローシアがちょっと危なかったので、引き留めてました。」

「殺す・・・あいつら・・・。アリアナ様を傷つける者は、死をもって制裁する・・・。」

グローシアの目が、完全にすわっている。これはヤバい!

「グローシア!。あの、私は大丈夫ですから。えーっと、その、お兄様とは踊れたのですか?!」

クラークの名前を聞いた途端、正気に戻った様にグローシアの目に光が戻った。そして頬を赤く染めて、

「・・・まだです・・・。騒ぎの中で、ア、アリアナ様の声が聞こえたので・・・。」

「心配して、駆けつけてくれたのね。ありがとう。貴方は、本当に私の騎士だわ。」

私はグローシアの手を両手で握った。グローシアは、ぱぁっと明るい表情になると、私に向かって、騎士の礼をした。

「皆もありがとうございます。庇って頂いて・・・。おかげで助かりました。」

「ほんとに、何だったんでしょうね?あの方達。アリアナ様にあんな言いがかりをつけるなんて。しかも、こんなパーティの最中に。・・・ちょっと異常な感じでしたわ。」

ミリアが険しい口調で顔をしかめた。リリーも、

「本当に。・・・何だか少し、様子がおかしかった気がします。」

そう言って、眉を潜める。聡明な二人は何かを察したのだろう。

「ちょっと操られてる感はあったわよね。ねぇ、でもせっかくのパーティだから、楽しみましょうよ!。私、早くご馳走食べて、ケイシー先輩と踊るんだ。」

ジョーはズバッと核心を突くような事をあっけらかんと言う。

(さすが、ジョーは野生の感というか、なんというのか・・・。それにしてもケイシー様と踊るよりも、ご馳走食べる方が優先なのね・・・。)

ミリアとレティシアも「では、私達ももう少しダンスをしてきます。」と待機場所に向かって行った。ホールは軽快な曲が流れ、沢山の男女が踊っている。皆、それぞれ楽しそうだ。私はそれを目で追いながら、

「ディーン様、私達もさっさと踊っちゃいますか?」

そう言うと、ディーンの顔の表情が固くなった気がしたが、気のせいか?

「・・・さっさと・・・?」

「そうです。でないと他の方が、何時までたってもディーン様と踊れいないでしょう?」

「どうして、私が他の女性と踊らなくてはいけないんだ?」

「えっ?だって、先程から、沢山誘われていたじゃないですか?!」

私がそう言うと、ディーンは「はぁ~。」とため息をついた。

あれ?私、何かマズい事言った?。その様子を見ていたリリーが、くすくす笑っている。

「ふふ・・・ディーン様、色々とたいへんですね。」

(ん?どういう事?)

「私はジョーと一緒に飲食スペースに行きますね。グローシアは、クラーク様と踊るのでしょう?。早く行かないと。」

リリーの言葉に、グローシアが急に慌てだす。

「あっ・・・!。ではアリアナ様、しばし失礼を。有事の際には参ります!」

そう言って、あっという間に消えてしまった。

「アリアナ様はディーン様とごゆっくりなさってください。」

「えっ?」

リリーは悪戯っぽく笑みを浮かべると、手を振って人混みの中に居なくなった。

(ゆっくりって・・・。)

私が思わずディーンを見上げると、ディーンは黙ったまま私に手を差し出した。

(あっ、そうかダンスだ。)

私がディーンの手に自分の手を重ねると、ディーンは私をエスコートし、ダンスホールの空いている場所に移動した。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したら脳筋一家の令嬢でしたが、インテリ公爵令息と結ばれたので万事OKです。

櫻野くるみ
恋愛
ある日前世の記憶が戻ったら、この世界が乙女ゲームの舞台だと思い至った侯爵令嬢のルイーザ。 兄のテオドールが攻略対象になっていたことを思い出すと共に、大変なことに気付いてしまった。 ゲーム内でテオドールは「脳筋枠」キャラであり、家族もまとめて「脳筋一家」だったのである。 私も脳筋ってこと!? それはイヤ!! 前世でリケジョだったルイーザが、脳筋令嬢からの脱却を目指し奮闘したら、推しの攻略対象のインテリ公爵令息と恋に落ちたお話です。 ゆるく軽いラブコメ目指しています。 最終話が長くなってしまいましたが、完結しました。 小説家になろう様でも投稿を始めました。少し修正したところがあります。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

やり直し令嬢の備忘録

西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。 これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい…… 王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。 また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

処理中です...