モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい（完結）

第４章 悪役令嬢は目を付けられたくない

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軽快な音楽。人々の楽しそうなざわめき。美味しそうなご馳走と焼き菓子、ケーキ、ジュースが並んだテーブル。色とりどりのドレスとタキシード。

（ん？。これは？）

なんだか、現実味が無くてフワフワしている。だって、こんな世界はあり得ない。

（夢だ。私、夢を見てるんだな。）

どうして分かったかって？。
だって、ここにいる人達も、ご馳走も、建物だって、ゲームに出てくるイラストの様で、カラフルだけど、ぺったりしていて、立体感が無い。
まるでアニメ映画の中に、私だけ実写でいるようなのだ。

（なんだ？これ。）

私は水色のドレスを着て、椅子に座っている。もちろん、婚約者のディーン様を待っているのだ。彼は、まだ会場に来ていないのだろうか？

（いやいや、これって夢だよね？）

夢だと分かっている自分と、現実の様に思っている自分が、交差している様なおかしな感覚。

今日はアンファエルン学園の1年生の終業式。夕方からはダンスパーティだ。私はディーン様とダンスを踊るのを楽しみにしていた。邪魔なリリーのドレスは、使用人に命令して、絵具で汚してやった。ドレス無しではパーティに来れないだろう。

（いやいや、何を考えてるのよ！。ドレスを汚すなんて、サイテーでしょうが！）

「どういう事！？」

怒りと困惑のあまり、声を出すと喋る事が出来た。

「夢だよね？これ。私、リリーのドレスを汚したりなんかしないよ。」

いつの間にか、アニメの様だった風景は、ちゃんとした実写の世界になっていた。

「え？何？現実？」

私は椅子から立ち上がって、辺りを見回すと、入口の方から見知った顔が歩いてくるのが見えた。

（ディーン・・・）

ディーン様だ。なんて、美しいんだろう。リリーに邪魔される事無く、やっとディーン様とダンスが踊れる・・・。

「だぁかぁらっ！そうじゃなくってぇ！」

私は飲み込まれそうになる思考を、取り戻すように声を出した。

（私の中に誰か居る！・・・そうよ、そんなのアリアナに決まってるじゃない。アリアナの気持ちが勝手に私を支配しようとしてる。）

頭を振って、顔を上げると目の前にディーンが立っていた。

「ディーン様・・・」

私は次の言葉が出なかった。何故なら、ディーンの顔は今まで見た中でも一番冷たく、目は怒りに燃えていた。そう、まるでこの世界で最初に会った時の様。

（どうして？。ディーンとは友達として、ちゃんと仲良くなれたのに・・・。婚約だって、・・・婚約は・・・あれ？。）

「アリアナ。」

金属の様に冷たく、無機質な声で私の名を呼ぶディーンの声に、私の体は凍り付いた。

（なんか、知ってる。この場面知ってるよ！。これって、1年最後のメインイベントじゃん！）

「ちょ、ちょっと、ディーン様、待って・・・。」

「アリアナ！。僕は君を、リリー嬢に対する嫌がらせ、暴言、器物損壊などの罪について、ここに告発する！。証人はこの場所にいる全ての人だっ。そして、それと同時に、君との婚約も今この時をおいて破棄させてもらう！。これは提案じゃない。決定だ！」

ディーンは私に真っすぐ人差し指を突き付け、周りにも聞こえるような大きな声でそう言った。

「嘘だぁ～～～～！！！！」

私は耳をふさいでしゃがみ込んだ。すると、私の手を取って誰かが引っ張った。振り向くとそこにはグスタフが立っていて、

「さぁ、アリアナ嬢。私と結婚しましょう。幸せにしてあげますよ、うっひっひ。」

そう言って、いやらしい目を私に向けた。

（ひっ！）

逃げようとして振り返ると、今度は目の前にイーサンが立っていた。彼は私の腰を抱いて引き寄せると、段々顔を近づけて来る。

「ご褒美をくれるんだろ？」

（や、や、や、やめ・・・）


「やめろぉ～！」


叫びながら手を振り回し、気が付くと、私はベッドの上で起き上がっていた。全身に汗をびっしょりかいて、肩で息をしてる。

（夢・・・だよね。夢に決まってる・・・けど。）

私は額の汗を、寝間着の袖で拭って、溜息をついた。

「な、・・・なんちゅう悪夢なのっ。」

私はもう一度、大きく息を吐いた。