71 / 284
第3章 悪役令嬢は関わりたくない
21
しおりを挟む
どれくらいたっただろう。私はやっと泣き止み、鼓動も通常の速度に落ち着いてきたのが分かった。そして、それと同時に、自分がおもいっきりディーンに抱きついている事に、やっと気付いた。
(や、やばっ・・・!)
恥ずかしさに、一気に頭に血が上って行った。
「すみません!・・・う、わわっ・・・。」
「危ない!」
慌てて体を話した途端、私は馬から落ちそうになり、ディーンが再び体を支えてくれた。
「・・・す、すみません。」
恐らく耳まで真っ赤になっている。
「ご迷惑を・・・。」
「いや、大丈夫。もう一頭の馬を探そう。」
ディーンの声は冷静だ。彼にとっては、なんてない事ないのだろう。
(勝手にしがみついて、勝手に意識して、13歳の男の子相手に・・・。)
羞恥心で爆発しそうだった。
ディーンは私を、自分の前にちゃんと座り直させると、馬をゆっくり進ませ始めた。
少し行くと、滝の音が聞こえてきた。
(こんな所まで戻ってたんだ!)
崖を走り降りた事で、一気に下山したのだ。
(みんな心配しているだろうなぁ。特にお兄様は・・・。)
きっと、急いでこちらに向かっている事だろう。
森を抜けると、イルクァーレ滝の姿が目の前に見えた。
「あっ、あそこに!」
滝の近くの水辺で、馬は水を飲んでいた。どうやらもう落ち着いているようだ。
「良かった。」
私はホッとして、肩の力を抜いた。
ディーンは馬に乗ったまま、滝へと続く小道を降りた。そして、先に馬を降りると、私の手を持って、乗っていた馬から降ろし、木陰に座らせてくれた。
「馬を見てくる。」
そう言って、水を飲んでいる馬に近づくと、怪我をしていないか、調べ始めた。
(そうよね・・・、私を乗せてあんな崖を駆け下りたんだもん。それに暴れていたしなぁ・・・。)
しばらくすると、
「大丈夫そうだ。少し蹄に傷があるけど、これくらいなら・・・。」
そう言って、もう一頭の馬にも水を飲ませながら、怪我をしていないか様子を見始めた。
(優しい人だ・・・。)
そうだ、ディーンはいつだって、誠実で優しい。アリアナを断罪するのも、本当はリリーの為の優しさなのだから・・・。
(・・・今の私とディーンの関係は、いびつだ。)
パーシヴァルの言う様に、もう彼を解放してあげるべきなんだ。
(アリアナ、お願い!。ディーンには、また助けて貰ったよ。・・・もう、ほんとに充分じゃない?)
私はゆっくりと立ち上がり、木陰を出た。近づく私に気付き、彼は真っすぐに私を見た。
「・・・どうした?」
「あの・・・、助けて頂いてありがとうございます。命の恩人です。それでその、こんな時になんですが、大事なお話があるのです。」
「・・・何?」
「あのですね。・・・その、私達・・・。」
(婚約を解消しませんか?)と言おうとした途端、声が出なくなった。
(ま、また!?。ちょっと、アリアナ!?)
どうして!?やっぱり、また邪魔をするの!?
でも、今度は息が出来なくなる事は無かった。そして、私の口から、私では無い誰かが言葉を出し始めたのだ。
「・・・ディーン様・・・。」
(えっ)
「・・・ディーン様に初めてお会いした時、・・・こんなに、きれいな男の子がいるんだって、一目で好きになりました・・・。」
(えっ?えっ?)
「そして、こんなにも優しくて素敵な人が、自分と仲良くなってくれたなら、私は友人など居なくても、幸せになれると思いました・・・。」
(これって・・・・・・アリアナ!?。)
「あさはかでした・・・。あさはかで、ただ、ディーン様をご不快にさせてしまいました。お許しください・・・。」
そう言って、アリアナはゆっくりと頭を下げた。ディーンは何も言わない。柔らかい滝の音だけが聞こえてきた。
私は胸が熱くなった。
(よ、よ、良く頑張った!アリアナぁ~~~!!!)
あんなに、我儘で、傲慢で、ディーンに執着していたアリアナが、ここまで人の気持ちを考えられるようになったのだ。
(アリアナ!あなたの気持ちは無駄にはしないよっ!)
私は顔を上げて、にっこりと笑った。目じりから涙が一筋零れ落ちた。アリアナが流した涙だった。
ディーンを見ると、凄く驚いた顔をしていた。そりゃそうだろう、いきなりこんな事言われたら、びっくりするよね。私は言葉をつづけた。
「ですから、婚約はディーン様のご都合の良い時に、解消してください。公爵家同士の約束は気にしなくても大丈夫です。私がちゃんと父に説明いたします!」
ディーンはしばらく黙っていたが、落ち着いた顔を私に向けた。
「リガーレ公爵の事は?。」
「ぐっ・・・、いえ、大丈夫です!自分で何とかします!」
(そうだ、もうディーンに迷惑かけちゃいけない。)
「そうか・・・分かった。」
ディーンはそう言って後ろを向き、滝を眺めた。遠くの方から、『アリアナ~』と呼ぶ兄の声が聞こえてきた。
「みんなが降りてきたようです。」
「ああ。」
ディーンはまだ滝を見ている。
「あの・・・、行きませんか?」
「君に・・・。」
「えっ?」
ディーンの声は小さくて、なんて言ったのか・・・、最後の方は滝の音に消されてまった。
でも、振り向いたディーンの顔は、今までで一番優しく微笑んでいた。
(や、やばっ・・・!)
恥ずかしさに、一気に頭に血が上って行った。
「すみません!・・・う、わわっ・・・。」
「危ない!」
慌てて体を話した途端、私は馬から落ちそうになり、ディーンが再び体を支えてくれた。
「・・・す、すみません。」
恐らく耳まで真っ赤になっている。
「ご迷惑を・・・。」
「いや、大丈夫。もう一頭の馬を探そう。」
ディーンの声は冷静だ。彼にとっては、なんてない事ないのだろう。
(勝手にしがみついて、勝手に意識して、13歳の男の子相手に・・・。)
羞恥心で爆発しそうだった。
ディーンは私を、自分の前にちゃんと座り直させると、馬をゆっくり進ませ始めた。
少し行くと、滝の音が聞こえてきた。
(こんな所まで戻ってたんだ!)
崖を走り降りた事で、一気に下山したのだ。
(みんな心配しているだろうなぁ。特にお兄様は・・・。)
きっと、急いでこちらに向かっている事だろう。
森を抜けると、イルクァーレ滝の姿が目の前に見えた。
「あっ、あそこに!」
滝の近くの水辺で、馬は水を飲んでいた。どうやらもう落ち着いているようだ。
「良かった。」
私はホッとして、肩の力を抜いた。
ディーンは馬に乗ったまま、滝へと続く小道を降りた。そして、先に馬を降りると、私の手を持って、乗っていた馬から降ろし、木陰に座らせてくれた。
「馬を見てくる。」
そう言って、水を飲んでいる馬に近づくと、怪我をしていないか、調べ始めた。
(そうよね・・・、私を乗せてあんな崖を駆け下りたんだもん。それに暴れていたしなぁ・・・。)
しばらくすると、
「大丈夫そうだ。少し蹄に傷があるけど、これくらいなら・・・。」
そう言って、もう一頭の馬にも水を飲ませながら、怪我をしていないか様子を見始めた。
(優しい人だ・・・。)
そうだ、ディーンはいつだって、誠実で優しい。アリアナを断罪するのも、本当はリリーの為の優しさなのだから・・・。
(・・・今の私とディーンの関係は、いびつだ。)
パーシヴァルの言う様に、もう彼を解放してあげるべきなんだ。
(アリアナ、お願い!。ディーンには、また助けて貰ったよ。・・・もう、ほんとに充分じゃない?)
私はゆっくりと立ち上がり、木陰を出た。近づく私に気付き、彼は真っすぐに私を見た。
「・・・どうした?」
「あの・・・、助けて頂いてありがとうございます。命の恩人です。それでその、こんな時になんですが、大事なお話があるのです。」
「・・・何?」
「あのですね。・・・その、私達・・・。」
(婚約を解消しませんか?)と言おうとした途端、声が出なくなった。
(ま、また!?。ちょっと、アリアナ!?)
どうして!?やっぱり、また邪魔をするの!?
でも、今度は息が出来なくなる事は無かった。そして、私の口から、私では無い誰かが言葉を出し始めたのだ。
「・・・ディーン様・・・。」
(えっ)
「・・・ディーン様に初めてお会いした時、・・・こんなに、きれいな男の子がいるんだって、一目で好きになりました・・・。」
(えっ?えっ?)
「そして、こんなにも優しくて素敵な人が、自分と仲良くなってくれたなら、私は友人など居なくても、幸せになれると思いました・・・。」
(これって・・・・・・アリアナ!?。)
「あさはかでした・・・。あさはかで、ただ、ディーン様をご不快にさせてしまいました。お許しください・・・。」
そう言って、アリアナはゆっくりと頭を下げた。ディーンは何も言わない。柔らかい滝の音だけが聞こえてきた。
私は胸が熱くなった。
(よ、よ、良く頑張った!アリアナぁ~~~!!!)
あんなに、我儘で、傲慢で、ディーンに執着していたアリアナが、ここまで人の気持ちを考えられるようになったのだ。
(アリアナ!あなたの気持ちは無駄にはしないよっ!)
私は顔を上げて、にっこりと笑った。目じりから涙が一筋零れ落ちた。アリアナが流した涙だった。
ディーンを見ると、凄く驚いた顔をしていた。そりゃそうだろう、いきなりこんな事言われたら、びっくりするよね。私は言葉をつづけた。
「ですから、婚約はディーン様のご都合の良い時に、解消してください。公爵家同士の約束は気にしなくても大丈夫です。私がちゃんと父に説明いたします!」
ディーンはしばらく黙っていたが、落ち着いた顔を私に向けた。
「リガーレ公爵の事は?。」
「ぐっ・・・、いえ、大丈夫です!自分で何とかします!」
(そうだ、もうディーンに迷惑かけちゃいけない。)
「そうか・・・分かった。」
ディーンはそう言って後ろを向き、滝を眺めた。遠くの方から、『アリアナ~』と呼ぶ兄の声が聞こえてきた。
「みんなが降りてきたようです。」
「ああ。」
ディーンはまだ滝を見ている。
「あの・・・、行きませんか?」
「君に・・・。」
「えっ?」
ディーンの声は小さくて、なんて言ったのか・・・、最後の方は滝の音に消されてまった。
でも、振り向いたディーンの顔は、今までで一番優しく微笑んでいた。
27
お気に入りに追加
424
あなたにおすすめの小説

【完結】転生したら脳筋一家の令嬢でしたが、インテリ公爵令息と結ばれたので万事OKです。
櫻野くるみ
恋愛
ある日前世の記憶が戻ったら、この世界が乙女ゲームの舞台だと思い至った侯爵令嬢のルイーザ。
兄のテオドールが攻略対象になっていたことを思い出すと共に、大変なことに気付いてしまった。
ゲーム内でテオドールは「脳筋枠」キャラであり、家族もまとめて「脳筋一家」だったのである。
私も脳筋ってこと!?
それはイヤ!!
前世でリケジョだったルイーザが、脳筋令嬢からの脱却を目指し奮闘したら、推しの攻略対象のインテリ公爵令息と恋に落ちたお話です。
ゆるく軽いラブコメ目指しています。
最終話が長くなってしまいましたが、完結しました。
小説家になろう様でも投稿を始めました。少し修正したところがあります。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。

やり直し令嬢の備忘録
西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。
これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい……
王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。
また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~
浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。
「これってゲームの強制力?!」
周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。
※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる