モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

文字の大きさ
上 下
39 / 284
第2章 悪役令嬢は巻き込まれたくない

14

しおりを挟む


 そうして戻ってきた魔法使いの宿舎では、吹き飛ばされ用を為さなくなった扉がもう修繕してあった。


(おそらく、『元に戻す』魔法が得意な魔法使いがやってくれたのだろうな。誰がやってくれたのか調べて、お礼くらいは言わなければ)


 さすがに自室に着いたら下ろしてもらえたので、久しぶりの地面の感触にほっとする。いくらしっかり抱えられていようと、地面の安心感には程遠いのだ。

 そんなフィオラをよそに、ルカはといえば、勝手知ったる他人の部屋とばかりに食事をとるための準備をしていた。
 自分の部屋なので自分でやりたいところだが、残念ながら机を拭くのもままならない身長だ。諦めてルカに任せた。


「よし、フィー。食べようか」


 準備が整い、そう言ったルカは――ひょい、とフィオラを椅子に座った自らの膝に置いた。


「……。……なんのつもりだ」

「え?」


 心底何のことかわからない、という声音で返されて、フィオラはさすがに脱力した。


「しょくじをするのにひざの上にのせるひつようはない」

「だけど、椅子の高さが合わないだろう?」

「それくらいどうとでもする。さすがにこのたいせいはかんかできない」

「いい案だと思ったんだけど……」


 フィオラの表情で、問答の無駄を悟ったのだろう。名残惜しそうにしながらも、ルカは向かいの椅子にフィオラを座らせ直した。最初からそうしてほしかったところだが。

 買ってきた食事は、もっちりしたパンで総菜を挟んだものだ。
 ルカはやはり体が資本の騎士らしく、がっつりした中身を選んでいたが、フィオラはもともと少食なので、野菜などの軽いものにした。それでも半分ほど食べた時点で食べきれないと気付き、それを察したルカに食べてもらうことになってしまった。


(子どもの体は勝手が違うな。この頃の感覚を思い出せないものか……。いや、思い出したところであまり参考にならない気もするが)


 そもそもこの頃は食事も満足する量を与えられていなかったので、自分の限界なんて知らなかった気がする。


「フィーは子どもの時から少食だったんだね。……フィーが好きだからと思ってケーキも買ったんだけど、1つ丸々は食べられそうにないかな」

「おまえも甘いものはきらいじゃないだろう。おまえが食べればいい」

「保存のきかないものだからね、そうするけど……ああ、そうだ」


 いいことを思いついた、とばかりに、ルカはケーキを一匙掬うと。


「はい、あーん」


 蕩けるような笑顔で、フィオラの口元に差し出してきた。


「……なんのつもりだ?」


 さっきも言ったな、と思いながら、そして答えを予期しながらも訊ねずにはいられず、フィオラは問うた。


「一口くらいなら食べられるだろう? だから」

「だからといって、こんなまねをするひつようがあるか?」

「さっきの食事は食器を使わなかったけど、これは使うじゃないか。でも、フィーの手には大きすぎるだろう?」

「言うほど大きくないだろう……」


 甘味用のスプーンだ。今のフィオラでもなんとか扱えそうな大きさのはずだが、謎のやる気に満ちたルカは譲らない。

 さすがになんというかそこまで必要性もないのにこのようなことをされるのは抵抗があるのだが、ルカはスプーンを差し出した姿勢のまま微動だにせず待っている。見る人が見れば見惚れる(ただしフィオラにはにやけきったようにしか見えない)笑顔のおまけつきだ。

 しばらく逡巡したフィオラだったが、ここは折れることにした。


(一口食べれば、ルカの気も済むだろう)


 少し身を乗り出して、ぱくり、とスプーンごとケーキを口に含む。
 口を離して咀嚼していると、差し出されたスプーンが戻っていかないのに気付いた。
 ごくん、と飲み込み(口に物が入ったまま喋るのはよくない)、「どうした?」と訊ねる。

 しかし、返答がない。

 正面を改めて見ると、なんだか呆けたようなルカの顔があった。


「……どうした?」


 もう一度訊ねると、今度は反応があった。
 スプーンを皿に置き、口元に手を当て、何事かブツブツ言う、という不可解極まりないものだったが。


「ルカ? ……なんというか、よくわからないが、大丈夫か?」

「うん、大丈夫。大丈夫だ、大丈夫……」


(その返答がもう大丈夫じゃなさそうだと思うのは気のせいだろうか)


 胡乱な目でルカを見遣っていると、とりあえず平静を取り戻したらしく、姿勢を正して。


「思った以上の破壊力だった……――ところで物は相談なんだけど、もう一口食べてくれたりしないかな?」


 などと言ってきたので、丁重にお断りする。もうその言い方がダメな予感しかしない。


 ルカはその後、スプーンを見ながら何か黙考していたが、最終的には無事に残りのケーキを食べ始めたので、何となくほっとしたフィオラだった。




+ + + + + + + + +


プロローグとシチュエーションがかぶっていますが、あっちは数日後とかの話っぽいので繋がっていません。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

やり直し令嬢の備忘録

西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。 これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい…… 王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。 また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

【完結】転生したら脳筋一家の令嬢でしたが、インテリ公爵令息と結ばれたので万事OKです。

櫻野くるみ
恋愛
ある日前世の記憶が戻ったら、この世界が乙女ゲームの舞台だと思い至った侯爵令嬢のルイーザ。 兄のテオドールが攻略対象になっていたことを思い出すと共に、大変なことに気付いてしまった。 ゲーム内でテオドールは「脳筋枠」キャラであり、家族もまとめて「脳筋一家」だったのである。 私も脳筋ってこと!? それはイヤ!! 前世でリケジョだったルイーザが、脳筋令嬢からの脱却を目指し奮闘したら、推しの攻略対象のインテリ公爵令息と恋に落ちたお話です。 ゆるく軽いラブコメ目指しています。 最終話が長くなってしまいましたが、完結しました。 小説家になろう様でも投稿を始めました。少し修正したところがあります。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。 「これってゲームの強制力?!」 周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。 ※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

処理中です...