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第2章 悪役令嬢は巻き込まれたくない
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「来てたな、新しい情報を持ってきたぜ。」
そう言いながらベンチに座ろうとして、彼は私が居る事に気付いた。
「なっ・・・なんだお前は!?」
ベンチに腰かけていたから、中に入ってくるまで私の姿が見えてなかったようだ。
彼は色白でぽっちゃりした、冴えない顔をした少年だった。背はクリフよりも低いのに、体重は倍くらいありそうだ。黒っぽい茶色の髪を長く伸ばし、後ろで一つに束ねている。はっきり言って、その髪型は似合ってない。そして一見柔和そうに見える細い目の奥に狡そうな光が見て取れた。
(こいつかっ!例のウザ声は。)
「おい、お前っ!この学園はガキの遊び場じゃねえぞ!どこから入ってきたんだっ?。じゃまだぞ。さっさと出てけよ。」
はい、カチンときました!
(・・・「ガ・キ」だと!?。このウザ声め、よくも私のイラツボを押してくれたわね!)
私はわざとらしく溜息をついて、
「おかしいですわね?この学園は紳士、淑女の学び舎の筈ですのに・・・。きちんとした言葉使いが出来ない方がいらっしゃるのですね、久しぶりに下品な言葉を聞きましたわ。」
と、頬に手を当てて残念そうに顔を横に振った。
「なんだと!?、てめえ!」
「美しい、静かな朝に相応しくない声です。」
「このガキがっ!生意気だぞ!」
ぽっちゃりウザ声は、口の横から唾を飛ばしながら私に近づいてきた。うっ、気持ち悪っ。
「デイビッド。」
クリフが座っている私の前に入り、近づくウザ声を遮った。
「どけよ、クリフ!このガキ、こらしめてやるっ!」
「アリアナ・コールリッジ公爵令嬢だ。」
「へっ?」
クリフの身体で見えないが、デイビッドは相当間抜けな顔をしていただろう。「あっ」とか「うっ」という動揺した声が聞こえてきた。
どんな頭が悪い奴でも、コールリッジの名前くらいは知ってるわよね。
やっと状況が理解できたのか、デイビッドは慌ててクリフを押しのけて私の前に跪いた。
「こ、これはアリアナ嬢、し、失礼を致しました。」
(だから、あんまり近寄んなって!)
「ご、ご高名なコールリッジ家のご令嬢とは知らず、ついつい・・・クリフが早く言ってくれないもんだから。」
と、ヘラヘラ笑う。卑屈な笑い方だ、ほんっと好きになれない。
「そ、その、おれ・・・いや、私はちょっとクリフと大事な話がありまして・・・、ちょっとこいつを連れて行きますね。おい、クリ・・・。」
「わたしくしっ、」
おそらく「クリフ行くぞっ」と言いかけたデイビッドの言葉に重ねて、私は声を上げた。
「わたくし、今朝の散歩のエスコートをクリフ様にお願いしましたの。」
「あんっ?いえ、あの・・・その・・・俺はクリフと話が・・・」
「デイビッド・アバネシー!、・・・様。」
私はワザとフルネームで呼んでやった。
「コールリッジ家は、人から邪魔されることに慣れていませんの。よろしくて?」
デイビッドの冴えない顔がサッと青ざめる。
「これから中庭の方へ参ろうと思います。ですから、デイビッド様とはここで失礼いたしますわ。」
私はクリフの腕に、両手を添えた。
「さっ、クリフ様参りましょう。では、デイビッド様ごきげんよう。」
見た目は優雅だが、両腕に渾身の力を込めてクリフを引きずるように、私達は四阿を後にした。
さすがに公爵家に逆らうのは止めたようで、デイビッドは付いては来なかった。そしてありがたい事に、私の強引な振る舞いにクリフは何も言わずに付き合ってくれた。
デイビッドから充分離れた所で、私はやっと手の力を緩め、ほうっと息を吐いた。
「珍しいね、君があんな言い方するなんて。」
クリフは私に歩調を合わせてくれているが、顔はどこか遠くを見ているようだ。
「わたくし、身分を傘にきるのは好きではありませんが、有事の際は躊躇なく振りかざすことに決めてるのです。」
「それが今だったと?」
クリフはどこか、怪しむような声で聞いた。
「デイビット・アバネシーは信用できません。」
はっとしてクリフは私を見る。私は足を止めた。
「あくまで勘ですが、彼の父であるアバネシー子爵も信用できるとは思えません。クリフ様、お願いがあります。」
私もクリフの方へ顔を向け、真っすぐ彼の目を見た。ゲームのストーリーは話せない。話したところで、信じて貰えないだろう。でも、せめて私の誠意だけは伝わってくれいっ。
「今後何か悩むことがありましたら、発せられる言葉では無く、クリフ様を思っている方々の心を考えて欲しいのです。」
「心?」
「はい、人は嘘をつきます。でも、誰かの為を思って言う優しい嘘というものもあります。本当の事を言っているからといって、信用できる人とは限らないと思うのです。」
私はゆっくりと、クリフの心に語り掛けるように話した。
「だから、クリフ様はその人の言葉が、どういう気持ちから発せられたものなのかを、お考え頂きたいのです。」
私に言えるのは、所詮このくらいだ。私はヒロインじゃない。だからヒロインのように彼の心に寄り添うような事は言えない。それに、ただのモブの悪役令嬢の言う事なんて、クリフにとっちゃ取るに足らない事だろうけど・・・。
「少なくとも、あの「ウザ声ぽっちゃり男」が、クリフ様の為になる事を言うとは思えないので・・・クっ、クリフ様!?」
突然クリフが口を押えて、身体を折り曲げたので、私は心底驚いた。
(えっ?えっ?どうしたのよ?。)
「クリフ様!どこかお加減が・・・?」
悪いのですか?そう聞こうと思った時、クリフは急に膝を叩いて吹出した。
「ぶっ、はっははははは、ウ、ウザ声ぽっちゃりって・・・くっくっくっ、あいつにぴったり・・・あっはははははは・・・。」
(あ~、そっかクリフは笑い上戸だったわ。)
あまりの彼の笑いっぷりに、私の今までのテンションが一気に下がってしまった。
片手で顔を覆って、クリフはまだ笑い続けている、よっぽどツボに入ったらしい。
(でも、しばらくクリフのこう言う笑い声、聞いてなかったなぁ。)
彼を元気づけるのに、私でも少しは役に立ったかも?そんな風に思って、私も自然に顔がほころんだ時だった。
「アリアナ?」
後ろから聞こえる、冷ややかな声に私の背筋がピッと伸びる。そして背中を冷たい汗が流れ落ちた。
そう言いながらベンチに座ろうとして、彼は私が居る事に気付いた。
「なっ・・・なんだお前は!?」
ベンチに腰かけていたから、中に入ってくるまで私の姿が見えてなかったようだ。
彼は色白でぽっちゃりした、冴えない顔をした少年だった。背はクリフよりも低いのに、体重は倍くらいありそうだ。黒っぽい茶色の髪を長く伸ばし、後ろで一つに束ねている。はっきり言って、その髪型は似合ってない。そして一見柔和そうに見える細い目の奥に狡そうな光が見て取れた。
(こいつかっ!例のウザ声は。)
「おい、お前っ!この学園はガキの遊び場じゃねえぞ!どこから入ってきたんだっ?。じゃまだぞ。さっさと出てけよ。」
はい、カチンときました!
(・・・「ガ・キ」だと!?。このウザ声め、よくも私のイラツボを押してくれたわね!)
私はわざとらしく溜息をついて、
「おかしいですわね?この学園は紳士、淑女の学び舎の筈ですのに・・・。きちんとした言葉使いが出来ない方がいらっしゃるのですね、久しぶりに下品な言葉を聞きましたわ。」
と、頬に手を当てて残念そうに顔を横に振った。
「なんだと!?、てめえ!」
「美しい、静かな朝に相応しくない声です。」
「このガキがっ!生意気だぞ!」
ぽっちゃりウザ声は、口の横から唾を飛ばしながら私に近づいてきた。うっ、気持ち悪っ。
「デイビッド。」
クリフが座っている私の前に入り、近づくウザ声を遮った。
「どけよ、クリフ!このガキ、こらしめてやるっ!」
「アリアナ・コールリッジ公爵令嬢だ。」
「へっ?」
クリフの身体で見えないが、デイビッドは相当間抜けな顔をしていただろう。「あっ」とか「うっ」という動揺した声が聞こえてきた。
どんな頭が悪い奴でも、コールリッジの名前くらいは知ってるわよね。
やっと状況が理解できたのか、デイビッドは慌ててクリフを押しのけて私の前に跪いた。
「こ、これはアリアナ嬢、し、失礼を致しました。」
(だから、あんまり近寄んなって!)
「ご、ご高名なコールリッジ家のご令嬢とは知らず、ついつい・・・クリフが早く言ってくれないもんだから。」
と、ヘラヘラ笑う。卑屈な笑い方だ、ほんっと好きになれない。
「そ、その、おれ・・・いや、私はちょっとクリフと大事な話がありまして・・・、ちょっとこいつを連れて行きますね。おい、クリ・・・。」
「わたしくしっ、」
おそらく「クリフ行くぞっ」と言いかけたデイビッドの言葉に重ねて、私は声を上げた。
「わたくし、今朝の散歩のエスコートをクリフ様にお願いしましたの。」
「あんっ?いえ、あの・・・その・・・俺はクリフと話が・・・」
「デイビッド・アバネシー!、・・・様。」
私はワザとフルネームで呼んでやった。
「コールリッジ家は、人から邪魔されることに慣れていませんの。よろしくて?」
デイビッドの冴えない顔がサッと青ざめる。
「これから中庭の方へ参ろうと思います。ですから、デイビッド様とはここで失礼いたしますわ。」
私はクリフの腕に、両手を添えた。
「さっ、クリフ様参りましょう。では、デイビッド様ごきげんよう。」
見た目は優雅だが、両腕に渾身の力を込めてクリフを引きずるように、私達は四阿を後にした。
さすがに公爵家に逆らうのは止めたようで、デイビッドは付いては来なかった。そしてありがたい事に、私の強引な振る舞いにクリフは何も言わずに付き合ってくれた。
デイビッドから充分離れた所で、私はやっと手の力を緩め、ほうっと息を吐いた。
「珍しいね、君があんな言い方するなんて。」
クリフは私に歩調を合わせてくれているが、顔はどこか遠くを見ているようだ。
「わたくし、身分を傘にきるのは好きではありませんが、有事の際は躊躇なく振りかざすことに決めてるのです。」
「それが今だったと?」
クリフはどこか、怪しむような声で聞いた。
「デイビット・アバネシーは信用できません。」
はっとしてクリフは私を見る。私は足を止めた。
「あくまで勘ですが、彼の父であるアバネシー子爵も信用できるとは思えません。クリフ様、お願いがあります。」
私もクリフの方へ顔を向け、真っすぐ彼の目を見た。ゲームのストーリーは話せない。話したところで、信じて貰えないだろう。でも、せめて私の誠意だけは伝わってくれいっ。
「今後何か悩むことがありましたら、発せられる言葉では無く、クリフ様を思っている方々の心を考えて欲しいのです。」
「心?」
「はい、人は嘘をつきます。でも、誰かの為を思って言う優しい嘘というものもあります。本当の事を言っているからといって、信用できる人とは限らないと思うのです。」
私はゆっくりと、クリフの心に語り掛けるように話した。
「だから、クリフ様はその人の言葉が、どういう気持ちから発せられたものなのかを、お考え頂きたいのです。」
私に言えるのは、所詮このくらいだ。私はヒロインじゃない。だからヒロインのように彼の心に寄り添うような事は言えない。それに、ただのモブの悪役令嬢の言う事なんて、クリフにとっちゃ取るに足らない事だろうけど・・・。
「少なくとも、あの「ウザ声ぽっちゃり男」が、クリフ様の為になる事を言うとは思えないので・・・クっ、クリフ様!?」
突然クリフが口を押えて、身体を折り曲げたので、私は心底驚いた。
(えっ?えっ?どうしたのよ?。)
「クリフ様!どこかお加減が・・・?」
悪いのですか?そう聞こうと思った時、クリフは急に膝を叩いて吹出した。
「ぶっ、はっははははは、ウ、ウザ声ぽっちゃりって・・・くっくっくっ、あいつにぴったり・・・あっはははははは・・・。」
(あ~、そっかクリフは笑い上戸だったわ。)
あまりの彼の笑いっぷりに、私の今までのテンションが一気に下がってしまった。
片手で顔を覆って、クリフはまだ笑い続けている、よっぽどツボに入ったらしい。
(でも、しばらくクリフのこう言う笑い声、聞いてなかったなぁ。)
彼を元気づけるのに、私でも少しは役に立ったかも?そんな風に思って、私も自然に顔がほころんだ時だった。
「アリアナ?」
後ろから聞こえる、冷ややかな声に私の背筋がピッと伸びる。そして背中を冷たい汗が流れ落ちた。
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