モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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第2章 悪役令嬢は巻き込まれたくない

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「どうします?この娘。いっそバラしますか。」

「いや、良く見りゃこいつは相当な器量良しだぜ。裏でさばけば結構な値段で売れそうだ。」

「ガキじゃねーすか。」

「こういうツルペタのガキがお好みの方もいらっしゃるんだよ、世の中には。」

「ほーっ、酔狂なこって。」

(やーめーてーよっ!バラされんのも絶対嫌だけど、ガキがお好みの方って・・・絶対ロリコンじゃん!?)

例の公爵を思い出して身震いするわっ。

(しかも、こいつら何気に私の事ディスってる!悪かったわねっ、ツルペタで!)

直接言ってやりたいが、無理だった。何故なら私は後ろ手に縛られ、さるぐつわを嚙まされて床に転がされているからだ。

目をつぶっているので、奴らは気絶していると思っているだろう。ちくしょう!全部聞こえてるんだからね!

「おい、こいつを隣の部屋に放り込んどけ!縄は解いても良いが、鍵はしっかり閉めとけよっ。」

「へい。」

まるで荷物のように持ち上げられ、私はどうやら隣の部屋とやらに放り込まれた。

(痛った!もうちょっと優しく運びなさいよ!優しく!)

そう思ったけど、気絶のフリがばれると面倒なので、声には出せない。

手下らしき男は、私の手を縛っている縄をナイフで切ると、部屋を出ていった。そして、

ガチャリ

鍵をかけたのだろう、鈍い音が聞こえた。

(全くもう!猿ぐつわも解いていきなさいよっ!)

私はゆっくり目を開け、辺りの様子を確かめる。殺風景な石造りの部屋には何も無い。天井近くに小さな明かり取りの窓があるだけで、そこから月の光がぼんやりと差し込んでいた。

自力で猿ぐつわを解き、私は身体を起こした。

「痛っ。」

さっき床でぶつけた肩や腰に痛みが走る。

「ほんとレディーに対して、扱いがなってないのよ・・・。」

小さい声で毒づいてみる。

ああ、でもこれからどうしたら良いんだろう?

私はヒロインじゃない。私を助けるイベントは用意されていないのだ。

(どうして。こんな事になってしまったんだろう?どこで選択肢を間違えた?)

私は窓からの細い月明りを眺めながら、長い長い溜息をついた。





-20日前-



「アリアナ様、凄いですわ。学年一番だなんて。しかも全科目満点なんて、学園でも初めての事らしいですよ。」

「ありがとう、ミリー。でも運が良かっただけですよ。」

謙遜しつつも、小鼻が膨らみそうになるのを必死でこらえる。

(目立たないようにとは思ってたけど、やっぱりトップは気持ちいいわ。)

最初、成績順位を見た時はちょっと焦ったが、やっぱりこの私がテストで手を抜くなんて、ありえない。

(頭脳こそ、わがアイデンティティよ。)

ちなみに2位はディーン、3位がリリーで4位がミリア、5位がクリフである。

そしてジョージアは12位と良い所につけているが、レティシアは本人が心配していたように、78位とあまり良くなかった。

テストの結果が貼りだされて以来、私は湖に落ちた生徒というよりも、学年1位の生徒として、周りから認識されるようになったようだ。

しかも、名門コールリッジ公爵家の令嬢という事も周知されたようで、最近は違うクラスの生徒からも丁寧に挨拶されるようになった。

「アリアナ様はさすがよね~。でも、ミリーもリリーも凄かったじゃない!3位と4位なんだもん。学年で5番以内が3人もいるなんて、このグループ凄くない?!。」

ジョーは5個目のフルーツケーキを口に放り込んだ。

「う~ん、このケーキ、凄く美味しいですわ。アリアナ様。」

「ああ、それは、グローシアのお父様から頂いたものですわ。」

「あ~、あの方のですか・・・。」

ジョージアの複雑そうな顔に私は苦笑いするしかない。ミリアは眉間にしわを寄せ、レティシアとリリーも困ったように顔を見合わせた。

グローシア・ボルネス侯爵令嬢。

湖で私にオールを投げつけた女生徒のことだ。

彼女の生家のボルネス家は、実はかなり由緒正しい侯爵家である。

しかし、さすがに国一番の有力者であるコールリッジ公爵家の令嬢を湖に落とした上、風邪をひかせたとあっては只ではすまなかった。

(何せ、皇帝ですらコールリッジ家には強く言えない程だもんねぇ。)

学校から知らせを受けたボルネス侯爵は、自ら夫人も引き連れて、大量のお詫びの品を持ってアリアナの実家まで謝罪に来たそうなのだが・・・。

(ほんと、マジで焦ったわ・・・。)

なぜなら、「お父様は烈火の如くお怒りで、ボスネス侯爵と会おうともしなかったのよ」と、母が送ってくれた手紙に書いてあったからだ。

両親に溺愛されてるアリアナだ。下手すりゃ相手の首が飛びかねない。

私は急いで父に手紙を書いた。

相手に悪気はなかったと(いやあったけどね)湖に落ちたのは自分の過失であると(いや、相手のせいだけどね)。

私の寛大な処置は相手側からいたく感謝された。

侯爵と夫人は娘を連れて寮までやってきて、3人で地面に頭をこすりつけんばかりだったところを急いで止めたくらいだ。

そして今度はお礼の品だと言って、お菓子やら、お茶、異国の珍しい反物、壺やらを大量に置いていった。

寮のリビングはその品でいっぱいで、正直置く所が無くて私も兄も閉口しているのだ。

おかげでしばらく、おやつには困らなさそうだが・・・。

「あの方、まだアリアナ様に付きまとってますの?」

ミリアが真剣に嫌そうな顔をするので、私は自分が悪いわけでは無いのに、何となく後ろめたい気分になってしまう。

「付きまとうっていうか・・・、本人は陰で見守っているつもりのようです・・・。」

「アリアナ様には私達が居るんですもの!あの方の守りなんていりませんわっ!」

ミリアはムスッとした顔でお茶を飲んだ。グローシアからのお菓子には見向きもしない。

(ああ、なんか色々こじれてるなぁ・・・。)

私はそっとため息をついた。
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