モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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第1章 悪役令嬢は目立ちたくない

第2話 初めて会う婚約者殿

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どれくらい歩いただろう。校舎の中の誰もいない広い廊下で、私はやっと息を吐いた。

 「あ~、怖かった・・・」

 「えっ」

 リリーが立ち止まってこちらを見る。

 (あ、いかん声に出てたか)

 リリーにすれば、突然引っ張って連れてこられれたのだ。困惑しているだろう。

 「あの、アリアナ様・・・?アーボット先生は?」

 「あ、あれは方便です」

 「ええっ?」

 驚いてるリリーが私に何か話しかけようとした時だった。

 「何をしている、アリアナ!」

 静かな声だが、中に怒りを込めた声でそう言いながら、背の高い少年がこちらにやってきた。

 (誰?)

 そう思いながらも、私は思わずその少年に見とれてしまっていた。

 (な・・・、なんという美少年!)

 さらっさらのシルバーブロンドに、吸い込まれそうな濃い藍色の瞳。絵みたいに整った顔。こんなの出来すぎじゃない・・・?。そして、はたっと気づく。

 (待て待て待て・・・?この世界でこの容姿の人物って・・・・)

 体からさーっと血の気が引いていくのが分かった。

 「ディ・・・ディーン・ギャロウェイ!?」

 (私を破滅に追いやる、わが婚約者様じゃないのぉぉぉぉ!!!)

 彼は足早に廊下の向こうからやって来ると、リリーと私を引き離すように間に入り、彼女を背にかばう形で私に向き直った。

 「リリー嬢が女生徒達に連れていかれたと聞いたが、やはり君が首謀者だったんだね」

 「はいっ?」

 何言ってんの、こいつ?

 反論したかったが、私はいきなり遭遇する事になった婚約者ディーンの衝撃で、頭が上手く働いてくれない。

 口から出るのは「うっ」とか「あっ」とかで、言葉が出てこないのだ。

 彼はリリーをかばったまま冷めた目で私を見すえた。その瞬間、私は思い出した。このシチュエイション!

 (やばっ!これイベントだ!)

 そうなのだ、今私がいるこの世界は「ときめきラブワールド」シリーズの、「アンファエルンの光の聖女」という乙女ゲームの世界なのだ。

 このゲーム、私はコンプリートこそしていないものの、寝る間も惜しんでやりこんでいた。だから初期のイベントなんて腐る程見ているのだ。

 (確か、本編ではアリアナが中庭でヒロインを集団でイジメていて、そこにディーンが駆けつけるんだったよね。で、アリアナはディーンに怒られた上にめっちゃ嫌われて、ヒロインとディーンはお互い好感度を上げていく・・・)

 そう言えば、さっきの中庭のシーンも、どっかで見た事があると思ったのだ。

 (ダメだ!このままでは本編通りになって、私は破滅に向かってしまうじゃないか!どうしたら・・・)

 「あ、あのディーン様、これは・・・」

 私はディーンに弁明しようとしたのだが、

 「君のつまらない言い訳など聞きたくもないっ」

 ディーンは冷たい声で私の言葉をバッサリ切った!

 (な!?、このクソ公爵息子!話ぐらい聞けっての!)

 そう思いながらも怒りを必死で抑える。そしてやはりちゃんと説明せねばと思っていると、ディーンの背後に居たリリーが、突然私とディーンの間に回り込んできた。そして、なんとディーンの方に向き直ったのだ。

 「ディーン様!どうしてアリアナ様のお話を聞いて下さらないのですか?」

 その声は明らかに怒っていた。

 「えっ?」

 「えっ?」

 私とディーンの驚いた声が重なる。リリーはさらに続けた。

 「アリアナ様は、私が他の方達に囲まれている所を助けてくださったのです。もうちょっとで手を上げられるところを止めてくださいました。きっとご自身も怖かったでしょうに・・・」

 そう言って、ふっと私の方を振り返った。そしてもう一度ディーンに怒りの表情を向けると、

 「それにディーン様はアリアナ様の婚約者でいらっしゃいますのに、アリアナ様を疑うなんて信じられません!酷過ぎます!」

 リリーが前にいるのでディーンの顔は見えないが、かなり動揺しているようだ。そして私はと言うと、

 (さ・・・さすがだよっ!マジでヤバい!やっぱ、聖女候補のヒロイン、尊すぎる!)

 リリーのあまりの気高さと毅然とした態度に感動していた。

 (凄い!まんまゲームのイメージだっ。ああ・・・めっちゃ好き)

 原作ゲームファンとしては興奮を抑えきれない!だけど、周りに人が集まるのを見て私は少し心配になる。

 (そろそろ止めないと・・・ヒロインって平民だったよね)

 貴族の不興を買ってしまうのは良くないだろう。

 「アリアナ様に謝ってください!ディーン様」

 リリーがさらにそう言ってディーンに詰め寄ったので私は慌てた。例えヒロインとは言え、公爵子息に「謝りなさい」は、ヤバくないか?

 私は急いで、

 「よ、良いのです。誤解が解けたのなら大丈夫です。もう参りましょう!」

 私はそう言ってリリーの肩を叩いた。

 「で、でもアリアナ様・・・」

 「ほんっとうに良いのですっ!ではディーン様、ごきげんよう!」

 私はさっきと同様、強引に話を終わらせると、またリリーの腕をむんずと掴み、ぽかんとしているディーンを置いて走って逃げた。

 (あ~~~~、もう!)

 どうしてこの二人に関わっちゃったの!?一番避けなくちゃいけない相手だと言うのに。

 こん事で上手く破滅から逃れらるのだろうか!?

 リリーを引っ張って走りながら、私は1か月前の事を思い返していた。
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