モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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プロローグ

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 「もう!もっとスピ―ドは出ませんの!?」

 「アリアナ、今日の天気でこれ以上馬車を急がせるのは危ないよ」

 お兄様のクラークは、わたくしをやんわりとをたしなめた。でも、わたくしはそんなの聞いていられない。

 「ダメですわ、お兄様!だってディーン様はもう学園に着かれてるんですって。わたくしも早く行かないと」

 「別に、ディーンは逃げやしないと思うよ。」

 「そんなことを言ってるのでありませんわ!ディーン様は女性におもてになるのです。おかしな人に言い寄られてるかもしれませんわ!」

 そう、わたくしは心配なのだ。とにかくディーン様はもてる!公爵令息で美形で頭も良い!もてない方がおかしいくらい。

 「大丈夫だよ、アリアナ。ディーンはお前の婚約者じゃないか。それに、お前はとても可愛らしいからね。ディーンが他の女性に目移りする事は無いよ」

 お兄様は「そんなことがあったら僕が許さないよ」と言いながら、わたくしを愛おしそうに見た。でもわたくしは心配で仕方なかった。

 「まだ、学園は遠いんですの?」

 馬車の外は大雨の様だ。強い風の音も鳴っている。

 「夕方までに着かないと、今日中にディーン様には会えませんわ!」

 そう言って、御者にもっとスピードを出すように言おうと思い、前方の小窓を開けた時だった。
 ドーン!と言う鼓膜を破るような音と、真っ白い閃光が辺りを包んだ。

 「キャー!」

 わたくしはそのまま意識を失った。



 怖い怖い、苦しいよ・・・こんなのは嫌だ・・・助けて・・・誰か助けてってば・・・

 そんな風に思いながら、私は暗闇の中から浮上するように意識が戻ってくるのを感じた。

 (夢・・・)

 だったのだろうか?なんだか凄く恐ろしい目に逢っていたような気がする・・・。

 ぼんやりそう思いながら目を開けた途端、

 「アリアナ!気が付いたのかい!?」

 「アリアナ!」

 「おお!アリアナ!」

 男女入れ混じった沢山の大声に驚き、そして自分を取り囲む光景を見て混乱した。

 (え?え?え?どういう事?!)

 どうやらベッドに寝ている私。そしてその周りには、どう見てもヨーロッパの貴族のような恰好をした外国人達が、涙を流しながらこちらを見ていた。

 「アリアナ、良かったですわ~~~」

 女性貴族はそう言って泣き崩れながら、私にとりすがった。

 (は?)

 他に私を取り囲むのは中年の男性貴族、結構イケメンの若い青年貴族、髭を生やした年配貴族、メイドのような恰好をした女性、執事のような恰好をした男性・・・

 (何?何?誰なのこの人たち?)

 パニックになりながら、

 「す、すみませんが・・・皆さんどちらさまですか?」

 そう口に出した途端、周りの空気がピシッと凍り付くのが分かった。

 そして私自身、自分の発した声に驚いていた。何故ならその声は馴染みのある自分の声ではなかったからだ。

 「え?、なんで?私の声が変!」

 思わずそう言うと、今度は周りに狼狽する様子が流れた。

 「ちょっと失礼しますよ、アリアナ様」

 そう言って年配貴族が私に近づき、手を取って脈を測ったり、目を覗きこんだりする。

 「脈はかなり高めですね。アリアナ様、ちょっと舌を見せてください。うん、異常はない。熱もなさそうですが、どこか痛い所や、苦しい所はありませんか?」

 私の身体をを色々チェックする年配貴族を押しのけて、私は混乱のまま思わず身体を起こした。

 「痛かったり、苦しい所はありません!っていうかアリアナって誰ですか?ここはいったい・・・」

 そう言いかけた時、自分の顔の横にふわりと流れる髪を見て驚愕した。

 (これ・・・?)

 自分の頭から生えている、長いふわふわの髪をつかんでまじまじと見た。だって、それは見事なハニーブロンドだったから。

 私はカッと目を見開いて周りを見まわし、サイドテーブルにあった手鏡をひっつかんで顔を映した。
 すると鏡の中には10歳くらいの、可愛い顔立ちだが気が強そうな外国人の女の子が、真剣な表情でこちらを見ていたのだ。

 「う~ん・・・」

 「アリアナーっ」

 私はまた意識を失った・・・。
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