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第二章
5,エインズワース侯爵
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ユリウスとサシャフェルトは、エインズワース侯爵家からの、帰りの馬車の中にいた。ユリウスは侯爵家を出てから、しばらくは話をしていたが、今は窓から流れていく外の景色をボーっと眺めている。
「殿下、お疲れですか?。」
サシャフェルトは、先ほどから喋らなくなったユリウスの表情が、いつもと違う様に思えた。(何を、お考えなのだろう?)と気になっていたが、そのまま尋ねるのは躊躇われたのだ。
しかしユリウスは、サシャの問いには答えず、
「サシャ。叔父上の事をどう思った?。」
窓の外を眺めたまま、ぼそっと呟いた。
「エインズワース侯爵は、誠実で信頼できる方だと思います。ただ、油断できない相手とも感じました。だから、こちらの思惑通りに動いてくれるかどうかは、まだ判断が難しいかと思います。」
「うん、そうだね。」
ユリウスはようやく、サシャの方へ顔を向けた。
「僕をセテリオス国の王子として祭り上げて、自分の利益に使おうとするような奴なら、もっとやりやすかったんだけどな。僕が強い魔力持持ってる事も知ってるからさ、「か弱くて不憫な甥」って線も難しいよね?。」
ユリウスの顔は大まじめだ。サシャフェルトは一度、咳払いをし、
「そもそも、そんな芝居に騙される様な方では無いと感じましたが。」
「そっか・・。そうだよねぇ。」
ユリウスは眉間にしわを寄せて、腕を組んだ。そういう仕草は、大人のマネをしている可愛い子供に見えた。
エインズワース侯爵邸で、彼と面会する様になって3日。ジェイク・エインズワースは6年前の粛清の事を詳しく聞きたがった。
特に、彼の妹であり、ユリウスの母であるソフィア妃の事については、繰り返し問われた。主としてサシャフェルトが説明をしていたが、侯爵はユリウスに質問をする事が多かった。それによって、ユリウスの人となりと、本音を引き出そうとしている様だった。
突然の不幸に見舞われた甥に、同情してくれてはいるが、手放しでユリウスの手に乗ってくれるような、甘い人物では無いと感じた。
サシャフェルトは今日の会合の事を思い出していた。エインズワース侯爵は、ソフィアの遺言である、『ディーハの姫を探しなさい』という言葉。この事について、特に深く聞いてきた。
「それで、ユリウスはそのリオノーラ嬢が『ディーハの姫』であると考えているのだね。」
「考えているのではなく、間違いなくリオがそうなのです。僕には分かるのです。」
ユリウスは微笑みながら、返事した。
侯爵には、時が巻き戻った話は伏せていた。時間に干渉する程の強い魔力は、もはや畏怖の対象だ。相手を警戒させ、忌避されないとも限らない。
「ユリウス。君が誕生を祝う会で、不吉な予言された事は、この国にも伝わっている。だが、あんなものはただの迷信であると、私は思っているよ。実際、セテリオス王も、その周りの方達も、その時はそう思った筈だ。だから6年前の騒動の時、私はマルヴァ王に頼んでまで、君とソフィアを助けようとした。・・・結局は力が及ばなかったが・・・。その事は、今でも申し訳なく思っている。」
侯爵は静かな口調で、懺悔するかのように言った。
「だが、私はソフィアが『ディーハの姫』を探す様に言ったことが気になっている。少なくとも、ソフィアは予言を信じていたと言う事だ。」
「それは、実際に、王によって粛清が行われたからです。」
サシャフェルトが口を挟んだ。
「そうだ。最初は気にしていなかった王が、突然、予言を恐れ、君を幽閉した。これはどうしてだと思う?。」
侯爵がユリウスを値踏みするように見た。ユリウスの目は落ち着いていて、まったく感情の揺らぎは見て取れなかった。
「周りの者の言葉に騙されたのだと思います。それに僕の魔力が思っていた以上に強かったので、不安になったのでしょう。父は気の弱い質なので・・・。」
「ほう・・・、周りの者ね。」
侯爵は意味ありげに、そう返すと、お茶を一口すすった。
「私の得た情報によると、粛清の時、セテリオス王と懇意にしていたのは、宮廷魔術師のヘルマン卿、官吏のベイシュ侯爵、そしてアシュレイ男爵だ。君の言う通りなら、この3人の誰が王を騙した者となる。さて、『ディーハの姫』なるリオノーラ嬢の名前は、どうやらリオノーラ・アシュレイらしい・・・。これはどういう事かな?。」
ユリウスはニッコリ笑った。
「叔父上、今はヘルマンは筆頭宮廷魔術師。ベイシュは宰相。アシュレイは男爵では無く伯爵です。そしてリオはアシュレイ伯爵の娘です。」
「正確にはアシュレイ伯爵の庶子です。そして、母親が他界してからは、長い間、不遇の生活を送っていたようです。」
サシャフェルトが説明を足す様に口を出した。
「なるほど・・・、では、そのリオノーラ嬢は、セテリオス国の聖女に毒を盛ろうとしたらしいが、これはどういう事か?。」
侯爵の目の奥から、圧力のようなものを感じてサシャフェルトの緊張が増した。だが、ユリウスは笑みを浮かべたまま、さらりと答えた。
「冤罪です。リオは罠にかけられて、罪を着せられただけです。」
彼は両手でカップを持って、お茶をコクッと飲んだ。
「殿下、お疲れですか?。」
サシャフェルトは、先ほどから喋らなくなったユリウスの表情が、いつもと違う様に思えた。(何を、お考えなのだろう?)と気になっていたが、そのまま尋ねるのは躊躇われたのだ。
しかしユリウスは、サシャの問いには答えず、
「サシャ。叔父上の事をどう思った?。」
窓の外を眺めたまま、ぼそっと呟いた。
「エインズワース侯爵は、誠実で信頼できる方だと思います。ただ、油断できない相手とも感じました。だから、こちらの思惑通りに動いてくれるかどうかは、まだ判断が難しいかと思います。」
「うん、そうだね。」
ユリウスはようやく、サシャの方へ顔を向けた。
「僕をセテリオス国の王子として祭り上げて、自分の利益に使おうとするような奴なら、もっとやりやすかったんだけどな。僕が強い魔力持持ってる事も知ってるからさ、「か弱くて不憫な甥」って線も難しいよね?。」
ユリウスの顔は大まじめだ。サシャフェルトは一度、咳払いをし、
「そもそも、そんな芝居に騙される様な方では無いと感じましたが。」
「そっか・・。そうだよねぇ。」
ユリウスは眉間にしわを寄せて、腕を組んだ。そういう仕草は、大人のマネをしている可愛い子供に見えた。
エインズワース侯爵邸で、彼と面会する様になって3日。ジェイク・エインズワースは6年前の粛清の事を詳しく聞きたがった。
特に、彼の妹であり、ユリウスの母であるソフィア妃の事については、繰り返し問われた。主としてサシャフェルトが説明をしていたが、侯爵はユリウスに質問をする事が多かった。それによって、ユリウスの人となりと、本音を引き出そうとしている様だった。
突然の不幸に見舞われた甥に、同情してくれてはいるが、手放しでユリウスの手に乗ってくれるような、甘い人物では無いと感じた。
サシャフェルトは今日の会合の事を思い出していた。エインズワース侯爵は、ソフィアの遺言である、『ディーハの姫を探しなさい』という言葉。この事について、特に深く聞いてきた。
「それで、ユリウスはそのリオノーラ嬢が『ディーハの姫』であると考えているのだね。」
「考えているのではなく、間違いなくリオがそうなのです。僕には分かるのです。」
ユリウスは微笑みながら、返事した。
侯爵には、時が巻き戻った話は伏せていた。時間に干渉する程の強い魔力は、もはや畏怖の対象だ。相手を警戒させ、忌避されないとも限らない。
「ユリウス。君が誕生を祝う会で、不吉な予言された事は、この国にも伝わっている。だが、あんなものはただの迷信であると、私は思っているよ。実際、セテリオス王も、その周りの方達も、その時はそう思った筈だ。だから6年前の騒動の時、私はマルヴァ王に頼んでまで、君とソフィアを助けようとした。・・・結局は力が及ばなかったが・・・。その事は、今でも申し訳なく思っている。」
侯爵は静かな口調で、懺悔するかのように言った。
「だが、私はソフィアが『ディーハの姫』を探す様に言ったことが気になっている。少なくとも、ソフィアは予言を信じていたと言う事だ。」
「それは、実際に、王によって粛清が行われたからです。」
サシャフェルトが口を挟んだ。
「そうだ。最初は気にしていなかった王が、突然、予言を恐れ、君を幽閉した。これはどうしてだと思う?。」
侯爵がユリウスを値踏みするように見た。ユリウスの目は落ち着いていて、まったく感情の揺らぎは見て取れなかった。
「周りの者の言葉に騙されたのだと思います。それに僕の魔力が思っていた以上に強かったので、不安になったのでしょう。父は気の弱い質なので・・・。」
「ほう・・・、周りの者ね。」
侯爵は意味ありげに、そう返すと、お茶を一口すすった。
「私の得た情報によると、粛清の時、セテリオス王と懇意にしていたのは、宮廷魔術師のヘルマン卿、官吏のベイシュ侯爵、そしてアシュレイ男爵だ。君の言う通りなら、この3人の誰が王を騙した者となる。さて、『ディーハの姫』なるリオノーラ嬢の名前は、どうやらリオノーラ・アシュレイらしい・・・。これはどういう事かな?。」
ユリウスはニッコリ笑った。
「叔父上、今はヘルマンは筆頭宮廷魔術師。ベイシュは宰相。アシュレイは男爵では無く伯爵です。そしてリオはアシュレイ伯爵の娘です。」
「正確にはアシュレイ伯爵の庶子です。そして、母親が他界してからは、長い間、不遇の生活を送っていたようです。」
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「なるほど・・・、では、そのリオノーラ嬢は、セテリオス国の聖女に毒を盛ろうとしたらしいが、これはどういう事か?。」
侯爵の目の奥から、圧力のようなものを感じてサシャフェルトの緊張が増した。だが、ユリウスは笑みを浮かべたまま、さらりと答えた。
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