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第二章
2,憂慮
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以前、ユリウスの魔力で時が戻った時、平気そうにはしていたが、ユリウスの顔色は悪かった。回復にまわす魔力も使い切ってしまっていたのだろう。
(年齢の割に、成長が遅いのは、魔力の消費に、身体が悲鳴をあげているからでは無いだろうか・・・?。)
ベスパの塔に幽閉されていた時は、装着されていた魔法具によって、常に魔力を消耗していた。それに塔自体にかけられていた術は、ユリウスの身体と精神にまで、負荷をかけていた筈だ。
(マルヴァなら、セテリオス国とも近い。空間移動の際も、魔力の使用を抑えられるだろう。)
まだ、事は始まったばかりなのだから・・・と、サシャフェルトは、新たな拠点となる、この家を見渡した。
「なぁ、ここってエインズワース侯爵の所有地だろう。また暗示魔法を使ったのか?」
ミカルークがサシャフェルトの肩に肘を乗せた。
ディーハの山小屋を使う時、身元の怪しい自分達が疑われないよう、持ち主に暗示魔法を使っていた。この魔法は、サシャフェルトが鉱山で使役させられていた間に、唯一覚えたものである。サシャフェルトの持つ魔力は少ないので、定期的に街を訪れ、暗示をかけ直さなくてはならなかった。
「いや、今回はちゃんと正規に借りている。」
「侯爵は信用できそうな方か?。」
「どうだろうな・・・。むしろ向こうが、私達を信用できるのか、試しているところだろう。」
マルヴァ国の侯爵、ジェイク・エインズワースは、ユリウスの母であるソフィア・セテリオスの実の弟である。
6年前の粛清で、ソフィアが処刑された時、ジェイク・エインズワースは激怒し、マルヴァ国王を通してセテリオス国王に対し猛烈に抗議を行った。だが、セテリオス国王は、それを全て無視したらしい。
それ以来、両国の関係は冷え切ってしまった。その為、マルヴァを通じで他国と交易していたセテリオス国は、経済的にダメージを受けていた。
「エインズワース侯爵はソフィア様とは仲の良い姉弟だったらしいから、ユリウス様との面会は、思ったよりもスムーズだった。ベスパの塔が倒壊した事も、情報としてご存知だったから、それに乗じて脱出したと説明したのだが・・・。」
「信じて貰えなかったか?」
「いや、分からない・・・。恐らく侯爵は、ソフィア様から何かを聞いている。その上で、ユリウス様を見極めようとしているのだと思う。」
サシャは思慮深い目をした、エインズワース侯爵の顔を思い出していた。口元が、思い出の中のソフィア様と少し似ている気がした。
「叔父と甥なのにな・・・。最後に会ったのは殿下が4歳の時なんだろう?」
「ああ、塔に幽閉される年の、誕生日の時だ。」
自分達も、祝いの席にいた記憶がある。あれから、全てが変わってしまった・・・。
過去の記憶に沈んでいた二人に、ハンナが声をかけた。
「ミカさん、サシャさん、早速、炊事場を使いたいんだけど、火を起こす薪が足らないんだよ。あと、もう少し食材やら調味料も買い足したいんだけどね。」
「あっ!じゃあ、俺が馬車を出しますよ。一緒に街へ行くっすか?」
「お願いできるかしらね?。」
ミカルークとハンナは、アンリ救出の時から、すっかり気安くなっていた。二人は並んで、たわいも無い事を話しながら、馬小屋の方へ向かっていく。
サシャフェルトは入り口のホールから、2階へと続く階段を登った。2階は主に寝室と客室だ。廊下を進んでいくと、手前のドアが開き、中からアンリが出て来た。
「ああ、サシャさん、丁度良かった。お嬢様のお部屋を、どこにしようか迷ってたのですが・・・。」
「まだ、誰の部屋も決まってませんので、お好きな部屋を使ってください。」
すると、アンリはジロリとサシャフェルトを睨んだ。
「出来れば、ユリウス様と一番、離れた部屋にして欲しいのですけど。あの方は、ちょっとお嬢様にべたべたしすぎだと思います。」
アンリの言葉にサシャフェルトは苦笑した。
「殿下はご覧になった通り、まだ子供ですよ。心配しすぎだと思いますが。」
アンリは片眉をキッと吊り上げた。
「子供!?。小柄な方ですが、もう11歳ですよね!?。年頃のお嬢様に甘える年齢では無いと思いますけど!?。」
ぴしゃりとそう言うと、アンリは速足で、階段を下りて行った。恐らく、リオノーラを探しに行ったのだろう。
廊下の突き当りの窓まで行って、下を見ると、ユリウスとリオノーラが手を繋いだまま、庭の池を覗きこんでした。魚でも探しているのだろうか?。二人の姿は、まるで仲の良い姉弟のようだ。
サシャフェルトは以前、ユリウスが何気に行った言葉を思いだした。ヨハン、ハンナ、アンリの三人が、仲間として加わった時だった。
『これでもう、リオは逃げられないね。人質は多い方が良い。』
リオノーラを慕う様なそぶりで、ユリウスは全く彼女を信用していないのだ。いや、そもそもユリウスは、自分やミカも含めて、誰も信用などしていないのだろう。そう考えて、溜息をついた。
(年齢の割に、成長が遅いのは、魔力の消費に、身体が悲鳴をあげているからでは無いだろうか・・・?。)
ベスパの塔に幽閉されていた時は、装着されていた魔法具によって、常に魔力を消耗していた。それに塔自体にかけられていた術は、ユリウスの身体と精神にまで、負荷をかけていた筈だ。
(マルヴァなら、セテリオス国とも近い。空間移動の際も、魔力の使用を抑えられるだろう。)
まだ、事は始まったばかりなのだから・・・と、サシャフェルトは、新たな拠点となる、この家を見渡した。
「なぁ、ここってエインズワース侯爵の所有地だろう。また暗示魔法を使ったのか?」
ミカルークがサシャフェルトの肩に肘を乗せた。
ディーハの山小屋を使う時、身元の怪しい自分達が疑われないよう、持ち主に暗示魔法を使っていた。この魔法は、サシャフェルトが鉱山で使役させられていた間に、唯一覚えたものである。サシャフェルトの持つ魔力は少ないので、定期的に街を訪れ、暗示をかけ直さなくてはならなかった。
「いや、今回はちゃんと正規に借りている。」
「侯爵は信用できそうな方か?。」
「どうだろうな・・・。むしろ向こうが、私達を信用できるのか、試しているところだろう。」
マルヴァ国の侯爵、ジェイク・エインズワースは、ユリウスの母であるソフィア・セテリオスの実の弟である。
6年前の粛清で、ソフィアが処刑された時、ジェイク・エインズワースは激怒し、マルヴァ国王を通してセテリオス国王に対し猛烈に抗議を行った。だが、セテリオス国王は、それを全て無視したらしい。
それ以来、両国の関係は冷え切ってしまった。その為、マルヴァを通じで他国と交易していたセテリオス国は、経済的にダメージを受けていた。
「エインズワース侯爵はソフィア様とは仲の良い姉弟だったらしいから、ユリウス様との面会は、思ったよりもスムーズだった。ベスパの塔が倒壊した事も、情報としてご存知だったから、それに乗じて脱出したと説明したのだが・・・。」
「信じて貰えなかったか?」
「いや、分からない・・・。恐らく侯爵は、ソフィア様から何かを聞いている。その上で、ユリウス様を見極めようとしているのだと思う。」
サシャは思慮深い目をした、エインズワース侯爵の顔を思い出していた。口元が、思い出の中のソフィア様と少し似ている気がした。
「叔父と甥なのにな・・・。最後に会ったのは殿下が4歳の時なんだろう?」
「ああ、塔に幽閉される年の、誕生日の時だ。」
自分達も、祝いの席にいた記憶がある。あれから、全てが変わってしまった・・・。
過去の記憶に沈んでいた二人に、ハンナが声をかけた。
「ミカさん、サシャさん、早速、炊事場を使いたいんだけど、火を起こす薪が足らないんだよ。あと、もう少し食材やら調味料も買い足したいんだけどね。」
「あっ!じゃあ、俺が馬車を出しますよ。一緒に街へ行くっすか?」
「お願いできるかしらね?。」
ミカルークとハンナは、アンリ救出の時から、すっかり気安くなっていた。二人は並んで、たわいも無い事を話しながら、馬小屋の方へ向かっていく。
サシャフェルトは入り口のホールから、2階へと続く階段を登った。2階は主に寝室と客室だ。廊下を進んでいくと、手前のドアが開き、中からアンリが出て来た。
「ああ、サシャさん、丁度良かった。お嬢様のお部屋を、どこにしようか迷ってたのですが・・・。」
「まだ、誰の部屋も決まってませんので、お好きな部屋を使ってください。」
すると、アンリはジロリとサシャフェルトを睨んだ。
「出来れば、ユリウス様と一番、離れた部屋にして欲しいのですけど。あの方は、ちょっとお嬢様にべたべたしすぎだと思います。」
アンリの言葉にサシャフェルトは苦笑した。
「殿下はご覧になった通り、まだ子供ですよ。心配しすぎだと思いますが。」
アンリは片眉をキッと吊り上げた。
「子供!?。小柄な方ですが、もう11歳ですよね!?。年頃のお嬢様に甘える年齢では無いと思いますけど!?。」
ぴしゃりとそう言うと、アンリは速足で、階段を下りて行った。恐らく、リオノーラを探しに行ったのだろう。
廊下の突き当りの窓まで行って、下を見ると、ユリウスとリオノーラが手を繋いだまま、庭の池を覗きこんでした。魚でも探しているのだろうか?。二人の姿は、まるで仲の良い姉弟のようだ。
サシャフェルトは以前、ユリウスが何気に行った言葉を思いだした。ヨハン、ハンナ、アンリの三人が、仲間として加わった時だった。
『これでもう、リオは逃げられないね。人質は多い方が良い。』
リオノーラを慕う様なそぶりで、ユリウスは全く彼女を信用していないのだ。いや、そもそもユリウスは、自分やミカも含めて、誰も信用などしていないのだろう。そう考えて、溜息をついた。
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