牢で出会った私の王子

優摘

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第二章

1,マルヴァ

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「お止めなさい。その者に乱暴は許しません。離しなさい。」

ソフィアは憲兵達に強い口調で命令した。普段、全く声を荒げる事の無い第二妃の態度に、憲兵達はひるみ、老婆を引っ張る手を止めた。

「お前達は、お下がりなさい。私はその者に話があります。・・・キーヴ。」

呼ばれた壮年の男性・・・ソフィアの近衛であるキーヴ・オルファンは、地面に伏している老婆に手を貸し、起き上がらせた。憲兵達に殴られた為か、老婆の頭からは血が流れていた。ソフィアは息を飲んで、眉を寄せた。

「手当をしなくては・・・。わたくしの部屋へ。」

王宮では、まだ、ソフィア自身の息子であるユリウス・セテリオスの誕生を祝う宴席が続いている。老婆はその余興の為に呼ばれた市井の予言者であった。

キーヴに手を借りながら、よろよろと、足をふら付かせつつ、老婆はソフィアの部屋へといざなわれた。ソフィアは、部屋に戻ると、まず、キーヴと筆頭侍女のメリーダ以外の召使いを、全員部屋から下がらせた。

すると、それまで腰が曲がっていた老婆の背筋が伸び、身体が一回り大きくなったように見えた。そして被っていたフードを取ると、その顔は老婆では無く、金髪でシルバーグレーの瞳を持つ男性に変わっていた。

キーヴは、腰にある剣に手をやり、身構えたが、ソフィアが片手を上げ、静かにそれを制止した。

「やはり、貴方だったのですね。・・・ギデオン。」

ソフィアは、ギデオンと呼んだ男を椅子に座らせ、自ら彼の傷の手当てをしながら、悲し気に目を伏せた。

「どうしてあのような事を・・・。ユリウスには何の罪も無いと言うのに。」

ギデオンは無表情に前を向いたまま、静かな声で言った。

「仕方が無い。・・・それがあの子の宿命だ。」

「王は・・・いずれ、ユリウスを恐れる様になるでしょう。その時、私は、あの子を守れるでしょうか・・・?」

ギデオンは立ち上がり、窓から外を眺める。いつの間にか、雨がガラスを叩いていた。

「誰であろうと、ユリウスを殺す事は出来ない。例え、この世界が滅びようとも・・・。」

ソフィアは崩れる様に長椅子に座ると、両手で顔を覆った。室内にはしばらくの間、ソフィアの嗚咽の声だけが響いていた。





「こ、これは、立派なお屋敷っすねぇ。ディーハん時の山小屋と、えらい違いっす。」

ミカルークは、目を大きく見開いて、目の前の屋敷をしげしげと眺めた。

「人が増えて手狭になったからな。それに、セテリオス国と往復するなら、少しでも近い方が良い。」

横にいるサシャフェルトは、満足そうに眼鏡を押し上げた。

「よくこんな所、借りれましたね。」

ミカルークはユリウスに問いかけた。

「ここは叔父上の別荘なんだ。農園を模しているんだって。金持ちの道楽だね。」

そう言って、ユリウスはリオノーラの手を両手で握り、

「先に庭を見に行こう!。」

と、笑いかけながら手を引っ張った。

「はい、ユリウス様」

リオノーラも笑みを返し、ユリウスに従う。二人は屋敷の裏へと走って行った。



ユリウスとリオノーラ達は、ディーハの森の中にあった山小屋を引き上げ、セテリオス国の隣国である、マルヴァに移動してた。前回、セテリオス国での『作戦』の時、一行には新たに仲間が加わった為、山小屋での生活が難しくなったからだ。

ユリウスはディーハで、新しい住処を見つけようとしたのだが・・・。

「ディーハを拠点にしていたのは、ソフィア様の遺言であった『ディーハの姫』を探す為です。リオノーラさんが見つかった以上、ディーハに居る必要はないでしょう。」

というのが、サシャフェルトの意見だった。だから、ユリウスの母の生まれ故郷である、マルヴァ国に移動する事が決まったのである。

隣国とは言え、現在、マルヴァとセテリオスは緊張関係にあり、国交が途絶えている。マルヴァなら、捜索の手も及ばないだろうと、サシャフェルトは説明した。

しかし、彼の本音は別の所にあった。

ユリウスがいかに魔力が強いとは言え、空間移動の魔法は多大な魔力を消費するものである。本来であれば、身体に大きな負担をかけるものだ。

(ユリウス様が、平然としていられるのは、残った魔力で無意識に回復魔法をかけているからだろう・・・。)

サシャフェルトはそう考えていた。
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