牢で出会った私の王子

優摘

文字の大きさ
上 下
23 / 30
第一章

23,雷鳴

しおりを挟む
「ユリウス様は、私をベスパの塔から救い出してくださった方なのです。」

リオノーラはユリウスに駆け寄り、跪いて彼の手を取った。

「ありがとうございます。ユリウス様。おかげでアンリも、そしてハンナとお爺さんも助ける事が出来ました。」

心からの感謝の気持ちを込めて、ユリウスの手に額を付けた。

リオノーラは思った。

ユリウス様と出会う前・・・時が戻る前の世界では、ヨハンは追手に捕まってしまったのだろうと。恐らく、アンリを救う事が出来なかったのだと・・・。

(だからアンリは、あんなにも、やつれた姿で命を絶ったのだわ。もしかしたら、ハンナだって、どうなっていたか分からない・・・。)

リオノーラの目に、涙が滲んだ。(神様みたいな方だ)と、ユリウスに対する感嘆の気持ちでいっぱいだった。

ユリウスは、きょとんとした表情でリオノーラの様子を見ていたが、やがて、にっこりと天使の様な微笑みを浮かべると、

「良かったね、リオ。この人達、リオの仲間?」

そう尋ねた。

「はい・・・、アンリもハンナも、お爺さんも。」

「ふうん、良いね。」

屈託なく笑うと、ヨハン達に目を向けた。

「どうする?。リオはこれからずっと、僕と一緒にいるんだけど。」

真っ先にアンリが答えた。

「私は、何があろうと、お嬢様のお側にいます。」

ハンナも頷き、落ち着いた目でユリウスを見返した。

「わたくしは、かつて、リオノーラ様の母君である、エレイン様の侍女でございました。お嬢様の行く所でしたら、何処へなりと参ります。」

ユリウスは頷き、ヨハンに向かって目を細めた。「お前はどうする?」と、その目は問うていた。

「儂は既に、エレイン様とリオノーラ様に剣を捧げている身でありますゆえ・・・。」

頭を下げたヨハンの耳に、「へぇ、そうなんだ!」と、くすくす笑うユリウスの笑う声が響いた。

「じゃ、三人とも姫の家臣だね。・・・お前達に覚悟があるなら、一緒に来ると良い。」

そう自分達に向かって言ったユリウスの声の響きに、ヨハンは一瞬ゾクリとした。

(子供のくせに、恐ろしいお方だ・・・)

それでも、ヨハンはリオノーラから離れるつもりはなかった。年老いた自分に、どれだけの事が出来るか分からないが、リオノーラを守る事は、かつての主に誓った事である。それがヨハンの「覚悟」だった。きっとアンリもハンナも同じ気持ちだろう。

ヨハンは黙ったまま、肯定の印に、もう一度深く頭を下げた。


「ところで、ユリウス様。ここは何処なんです?。ディーハの森では無さそうですが。」

サシャフェルトが無表情にそう聞いた。最初に来た時の、アシュレイ伯爵家の近くの森でもなさそうだった。

ユリウスは愉快そうに笑うと、「こっちに来て。」と皆を手招きした。

岩肌の、崖の上から眺めると、少し遠くに、セテリオス城の王宮が良く見えた。そして、ユリウスとリオノーラが居たベスパの塔も。

「えっ?!。ここってまだセテリオス国なんすか?」

ミカルークが目を丸くする。てっきりディーハに戻ったと思っていたのだ。

「うん、隣国との国境にある山の上だよ。すっごく眺めが良いでしょ!?」

ユリウスはまるでピクニックに来たかのように、弾んだ声をあげる。そして、リオノーラのそばに行くと、彼女の身体に腕をまわし、ぎゅうっと抱きついた。リオノーラの胸元でふわりと金色の髪が揺れる。

「リオノーラにも見せてあげたかったんだ。」

「え?」

ユリウスはリオノーラに抱きついたまま、彼女の顔を見上げた。そして見惚れる様な美しい笑顔を向けると、遠く眼下に見えるベスパの塔を指さした。


「滅びの始まり」


するとその瞬間、晴れていた空から、見た事も無い大きな稲妻が、空間を引き裂く様に亀裂を作り、轟音と共にベスパの塔を直撃した。

「きゃあ!」

「えっ?。何!?。雷?」

驚いたアンリとハンナが、耳を塞いでうずくまり、空と地上を交互に見た。リオノーラは咄嗟に、ユリウスを庇う様に、座り込んでいた。

ヨハンと、ミカルークとサシャフェルトの三人は、声をあげる事も出来ず、ただ目の前に起きた事を眺める事しか出来なかった。


遠く離れた、この岩山に、塔が崩れ落ちていく音が、まるで雷鳴のように響き続けた。




第一章 完
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

世にも平和な物語

越知 学
恋愛
これは現実と空想の境界ラインに立つ140字物語。 何でもありの空想上の恋愛でさえ現実主義が抜けていない私は、その境界を仁王立ちで跨いでいる。 ありふれていそうで、どこか現実味に欠けているデジャブのような感覚をお届けします。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

処理中です...