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第一章
23,雷鳴
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「ユリウス様は、私をベスパの塔から救い出してくださった方なのです。」
リオノーラはユリウスに駆け寄り、跪いて彼の手を取った。
「ありがとうございます。ユリウス様。おかげでアンリも、そしてハンナとお爺さんも助ける事が出来ました。」
心からの感謝の気持ちを込めて、ユリウスの手に額を付けた。
リオノーラは思った。
ユリウス様と出会う前・・・時が戻る前の世界では、ヨハンは追手に捕まってしまったのだろうと。恐らく、アンリを救う事が出来なかったのだと・・・。
(だからアンリは、あんなにも、やつれた姿で命を絶ったのだわ。もしかしたら、ハンナだって、どうなっていたか分からない・・・。)
リオノーラの目に、涙が滲んだ。(神様みたいな方だ)と、ユリウスに対する感嘆の気持ちでいっぱいだった。
ユリウスは、きょとんとした表情でリオノーラの様子を見ていたが、やがて、にっこりと天使の様な微笑みを浮かべると、
「良かったね、リオ。この人達、リオの仲間?」
そう尋ねた。
「はい・・・、アンリもハンナも、お爺さんも。」
「ふうん、良いね。」
屈託なく笑うと、ヨハン達に目を向けた。
「どうする?。リオはこれからずっと、僕と一緒にいるんだけど。」
真っ先にアンリが答えた。
「私は、何があろうと、お嬢様のお側にいます。」
ハンナも頷き、落ち着いた目でユリウスを見返した。
「わたくしは、かつて、リオノーラ様の母君である、エレイン様の侍女でございました。お嬢様の行く所でしたら、何処へなりと参ります。」
ユリウスは頷き、ヨハンに向かって目を細めた。「お前はどうする?」と、その目は問うていた。
「儂は既に、エレイン様とリオノーラ様に剣を捧げている身でありますゆえ・・・。」
頭を下げたヨハンの耳に、「へぇ、そうなんだ!」と、くすくす笑うユリウスの笑う声が響いた。
「じゃ、三人とも姫の家臣だね。・・・お前達に覚悟があるなら、一緒に来ると良い。」
そう自分達に向かって言ったユリウスの声の響きに、ヨハンは一瞬ゾクリとした。
(子供のくせに、恐ろしいお方だ・・・)
それでも、ヨハンはリオノーラから離れるつもりはなかった。年老いた自分に、どれだけの事が出来るか分からないが、リオノーラを守る事は、かつての主に誓った事である。それがヨハンの「覚悟」だった。きっとアンリもハンナも同じ気持ちだろう。
ヨハンは黙ったまま、肯定の印に、もう一度深く頭を下げた。
「ところで、ユリウス様。ここは何処なんです?。ディーハの森では無さそうですが。」
サシャフェルトが無表情にそう聞いた。最初に来た時の、アシュレイ伯爵家の近くの森でもなさそうだった。
ユリウスは愉快そうに笑うと、「こっちに来て。」と皆を手招きした。
岩肌の、崖の上から眺めると、少し遠くに、セテリオス城の王宮が良く見えた。そして、ユリウスとリオノーラが居たベスパの塔も。
「えっ?!。ここってまだセテリオス国なんすか?」
ミカルークが目を丸くする。てっきりディーハに戻ったと思っていたのだ。
「うん、隣国との国境にある山の上だよ。すっごく眺めが良いでしょ!?」
ユリウスはまるでピクニックに来たかのように、弾んだ声をあげる。そして、リオノーラのそばに行くと、彼女の身体に腕をまわし、ぎゅうっと抱きついた。リオノーラの胸元でふわりと金色の髪が揺れる。
「リオノーラにも見せてあげたかったんだ。」
「え?」
ユリウスはリオノーラに抱きついたまま、彼女の顔を見上げた。そして見惚れる様な美しい笑顔を向けると、遠く眼下に見えるベスパの塔を指さした。
「滅びの始まり」
するとその瞬間、晴れていた空から、見た事も無い大きな稲妻が、空間を引き裂く様に亀裂を作り、轟音と共にベスパの塔を直撃した。
「きゃあ!」
「えっ?。何!?。雷?」
驚いたアンリとハンナが、耳を塞いでうずくまり、空と地上を交互に見た。リオノーラは咄嗟に、ユリウスを庇う様に、座り込んでいた。
ヨハンと、ミカルークとサシャフェルトの三人は、声をあげる事も出来ず、ただ目の前に起きた事を眺める事しか出来なかった。
遠く離れた、この岩山に、塔が崩れ落ちていく音が、まるで雷鳴のように響き続けた。
第一章 完
リオノーラはユリウスに駆け寄り、跪いて彼の手を取った。
「ありがとうございます。ユリウス様。おかげでアンリも、そしてハンナとお爺さんも助ける事が出来ました。」
心からの感謝の気持ちを込めて、ユリウスの手に額を付けた。
リオノーラは思った。
ユリウス様と出会う前・・・時が戻る前の世界では、ヨハンは追手に捕まってしまったのだろうと。恐らく、アンリを救う事が出来なかったのだと・・・。
(だからアンリは、あんなにも、やつれた姿で命を絶ったのだわ。もしかしたら、ハンナだって、どうなっていたか分からない・・・。)
リオノーラの目に、涙が滲んだ。(神様みたいな方だ)と、ユリウスに対する感嘆の気持ちでいっぱいだった。
ユリウスは、きょとんとした表情でリオノーラの様子を見ていたが、やがて、にっこりと天使の様な微笑みを浮かべると、
「良かったね、リオ。この人達、リオの仲間?」
そう尋ねた。
「はい・・・、アンリもハンナも、お爺さんも。」
「ふうん、良いね。」
屈託なく笑うと、ヨハン達に目を向けた。
「どうする?。リオはこれからずっと、僕と一緒にいるんだけど。」
真っ先にアンリが答えた。
「私は、何があろうと、お嬢様のお側にいます。」
ハンナも頷き、落ち着いた目でユリウスを見返した。
「わたくしは、かつて、リオノーラ様の母君である、エレイン様の侍女でございました。お嬢様の行く所でしたら、何処へなりと参ります。」
ユリウスは頷き、ヨハンに向かって目を細めた。「お前はどうする?」と、その目は問うていた。
「儂は既に、エレイン様とリオノーラ様に剣を捧げている身でありますゆえ・・・。」
頭を下げたヨハンの耳に、「へぇ、そうなんだ!」と、くすくす笑うユリウスの笑う声が響いた。
「じゃ、三人とも姫の家臣だね。・・・お前達に覚悟があるなら、一緒に来ると良い。」
そう自分達に向かって言ったユリウスの声の響きに、ヨハンは一瞬ゾクリとした。
(子供のくせに、恐ろしいお方だ・・・)
それでも、ヨハンはリオノーラから離れるつもりはなかった。年老いた自分に、どれだけの事が出来るか分からないが、リオノーラを守る事は、かつての主に誓った事である。それがヨハンの「覚悟」だった。きっとアンリもハンナも同じ気持ちだろう。
ヨハンは黙ったまま、肯定の印に、もう一度深く頭を下げた。
「ところで、ユリウス様。ここは何処なんです?。ディーハの森では無さそうですが。」
サシャフェルトが無表情にそう聞いた。最初に来た時の、アシュレイ伯爵家の近くの森でもなさそうだった。
ユリウスは愉快そうに笑うと、「こっちに来て。」と皆を手招きした。
岩肌の、崖の上から眺めると、少し遠くに、セテリオス城の王宮が良く見えた。そして、ユリウスとリオノーラが居たベスパの塔も。
「えっ?!。ここってまだセテリオス国なんすか?」
ミカルークが目を丸くする。てっきりディーハに戻ったと思っていたのだ。
「うん、隣国との国境にある山の上だよ。すっごく眺めが良いでしょ!?」
ユリウスはまるでピクニックに来たかのように、弾んだ声をあげる。そして、リオノーラのそばに行くと、彼女の身体に腕をまわし、ぎゅうっと抱きついた。リオノーラの胸元でふわりと金色の髪が揺れる。
「リオノーラにも見せてあげたかったんだ。」
「え?」
ユリウスはリオノーラに抱きついたまま、彼女の顔を見上げた。そして見惚れる様な美しい笑顔を向けると、遠く眼下に見えるベスパの塔を指さした。
「滅びの始まり」
するとその瞬間、晴れていた空から、見た事も無い大きな稲妻が、空間を引き裂く様に亀裂を作り、轟音と共にベスパの塔を直撃した。
「きゃあ!」
「えっ?。何!?。雷?」
驚いたアンリとハンナが、耳を塞いでうずくまり、空と地上を交互に見た。リオノーラは咄嗟に、ユリウスを庇う様に、座り込んでいた。
ヨハンと、ミカルークとサシャフェルトの三人は、声をあげる事も出来ず、ただ目の前に起きた事を眺める事しか出来なかった。
遠く離れた、この岩山に、塔が崩れ落ちていく音が、まるで雷鳴のように響き続けた。
第一章 完
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