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第一章
20,ガリオス・セテリオス
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サシャフェルトは西門に着いていた。4,5人の憲兵が門の警備についていたので近寄って行く。
「お疲れ。もうすぐアシュレイ伯爵が来られると聞いたのだが。」
何気ない様子で話しかけた。
「ああ、あの御仁は良く王を訪ねて来るからな。なんでも、もうすぐ侯爵位を貰えるって話だ。」
「ほう。何か大きな功績でも上げたんだな。」
「そんな話は聞かないがな。」
サシャフェルトはもう少し踏み込んでみる事にした。
「アシュレイ伯爵の娘は、投獄されたと聞いたが・・・。」
「ああ、なんでも、聖女を暗殺しようとしたらしいぜ。とんでもねぇ話さ。」
もう一人の憲兵も、話に入ってきた。
「案外、それが功績だったのかもな。」
「どういうことだよ?」
「知らねぇよ。けど、普通なら処罰もんだってのに、逆に褒美を貰うんだろ?そうとしか思えねぇじゃないか。」
すると、コソコソ話をしていた事に気付いた年かさの憲兵が、こちらを向いて、だみ声を張り上げた。
「おい!。お前ら無駄口を叩いてんじゃねぇよ!。それに、そこのお前、どこの部署のもんだ?。怠けてないで、持ち場に戻れ!。」
サシャフェルトは敬礼をして、その場を離れた。そして、西門が見えなくなった辺りで、物陰に身を潜めた。
リオノーラの事件については、おおよその事が分かった。彼女の冤罪には父親のアシュレイ伯爵が絡んでいる。そして恐らく王も。
(ただし、理由が分からない・・・。)
もう直ぐ、そのアシュレイ伯爵が、この道を通るはずだ。
しばらくして、門の開く音がした。そしてサシャフェルトの潜むすぐ傍を、二人の憲兵と共に、中年の男が通り過ぎた。恐らく彼がアシュレイ伯爵だろう。残忍そうな顔をした、品の無い男だった。
サシャフェルトはその顔を、記憶に刻み付けた。
ユリウスが居る部屋には、男が三人いた。広い部屋の奥にある四人掛けのテーブルを囲み、真剣な口調で何かを話し合っている。二人は知らない顔だった。だが、もう一人は・・・。
ユリウスは思わず、自分の両腕を、抱くようにして掴んだ。身体を丸め、しゃがみ込む。そうしなければ、飛び出してしまいそうな衝動を、抑えられなかったからだ。
(落ち着け!。まだだ・・・。まだ早い。)
大声で笑いたくなり、声が口から漏れそうになるのを、必死で堪えた。こんなに簡単に、六年間焦がれる様に思い続けた相手に会えるものなのか?。
そこに居たのは、セテリウス国王。ガリオス・セテリウス。ユリウスの実の父親であった。
一国の王だと言うのに、ガリオスからは全く威厳が感じられなかった。背中をかがめ、下からねめつける様に他の二人をキョロキョロと見ていた。
「・・・どうするつもりだ。あの者達は、まだ見つからんのか?。」
ガリオスの声には怯えが混じっていた。
「私の部下が国内をくまなく探しています。しかし・・・、何せユリウス殿下は幼い頃から、魔術に長けた方でしたからね・・・。」
年配の男がそう言った。服装からして、この男は恐らく宮廷魔術師だろう。男は、眉間にしわを寄せて頭を振った。
「ベスパの塔に施していた術は、全て解かれていました。しかも、我々に気付かれない様に・・・。我々は、張りぼての外側だけを見させられていたのですよ。全く・・・恐ろしい力です。ユリウス殿下に付けていた魔封じの呪具も、既に外されているでしょうな。」
もう一人の男・・・高官の服をまとった男は、魔術師の言葉に片眉を上げた。
「まさか、その様な事を本気で言ってるのか!?。ユリウス殿下がいかに魔術の才があろうと、たかが子供だ。逃がしたのは、あのゲオルグ殿の娘では無いのか!?。でなければタイミングが良すぎる。」
「あの娘に、そのような事が出来るとは思えませんがね。いずれにせよ、我が国にとって、脅威であると言えるでしょうな。」
魔術師は重々しい溜息をついた。
ガリオスは魔術師を恨めしそうに見つめた。
「だから、あの時殺しておけばよかったのだ。お前が、あ奴をベスパの塔に入れると言うから・・・。」
「ユリウス殿下は、まだ4歳でしたからね。処刑などすれば、国民や貴族の反感を買ったでしょうな。我々としては、塔の中で静かに一生を終えて頂くか、あるいは衰弱死して貰いたかったのですが、少々甘い考えでしたか・・・。」
「何を悠長な事を!。あ、あ、あ奴は今にも、わしを殺そうと狙っているかもしれないんだぞっ!」
ガリオスは頭を抱えて顔を伏せた。身体が小刻みに震えている。
「王宮内の警備は万全ですよ。ご安心を、陛下。」
高官の男の表情には、隠し切れない侮蔑の感情が浮かんでいる。「この王は小物だ」と、その目が言っていた。
「お疲れ。もうすぐアシュレイ伯爵が来られると聞いたのだが。」
何気ない様子で話しかけた。
「ああ、あの御仁は良く王を訪ねて来るからな。なんでも、もうすぐ侯爵位を貰えるって話だ。」
「ほう。何か大きな功績でも上げたんだな。」
「そんな話は聞かないがな。」
サシャフェルトはもう少し踏み込んでみる事にした。
「アシュレイ伯爵の娘は、投獄されたと聞いたが・・・。」
「ああ、なんでも、聖女を暗殺しようとしたらしいぜ。とんでもねぇ話さ。」
もう一人の憲兵も、話に入ってきた。
「案外、それが功績だったのかもな。」
「どういうことだよ?」
「知らねぇよ。けど、普通なら処罰もんだってのに、逆に褒美を貰うんだろ?そうとしか思えねぇじゃないか。」
すると、コソコソ話をしていた事に気付いた年かさの憲兵が、こちらを向いて、だみ声を張り上げた。
「おい!。お前ら無駄口を叩いてんじゃねぇよ!。それに、そこのお前、どこの部署のもんだ?。怠けてないで、持ち場に戻れ!。」
サシャフェルトは敬礼をして、その場を離れた。そして、西門が見えなくなった辺りで、物陰に身を潜めた。
リオノーラの事件については、おおよその事が分かった。彼女の冤罪には父親のアシュレイ伯爵が絡んでいる。そして恐らく王も。
(ただし、理由が分からない・・・。)
もう直ぐ、そのアシュレイ伯爵が、この道を通るはずだ。
しばらくして、門の開く音がした。そしてサシャフェルトの潜むすぐ傍を、二人の憲兵と共に、中年の男が通り過ぎた。恐らく彼がアシュレイ伯爵だろう。残忍そうな顔をした、品の無い男だった。
サシャフェルトはその顔を、記憶に刻み付けた。
ユリウスが居る部屋には、男が三人いた。広い部屋の奥にある四人掛けのテーブルを囲み、真剣な口調で何かを話し合っている。二人は知らない顔だった。だが、もう一人は・・・。
ユリウスは思わず、自分の両腕を、抱くようにして掴んだ。身体を丸め、しゃがみ込む。そうしなければ、飛び出してしまいそうな衝動を、抑えられなかったからだ。
(落ち着け!。まだだ・・・。まだ早い。)
大声で笑いたくなり、声が口から漏れそうになるのを、必死で堪えた。こんなに簡単に、六年間焦がれる様に思い続けた相手に会えるものなのか?。
そこに居たのは、セテリウス国王。ガリオス・セテリウス。ユリウスの実の父親であった。
一国の王だと言うのに、ガリオスからは全く威厳が感じられなかった。背中をかがめ、下からねめつける様に他の二人をキョロキョロと見ていた。
「・・・どうするつもりだ。あの者達は、まだ見つからんのか?。」
ガリオスの声には怯えが混じっていた。
「私の部下が国内をくまなく探しています。しかし・・・、何せユリウス殿下は幼い頃から、魔術に長けた方でしたからね・・・。」
年配の男がそう言った。服装からして、この男は恐らく宮廷魔術師だろう。男は、眉間にしわを寄せて頭を振った。
「ベスパの塔に施していた術は、全て解かれていました。しかも、我々に気付かれない様に・・・。我々は、張りぼての外側だけを見させられていたのですよ。全く・・・恐ろしい力です。ユリウス殿下に付けていた魔封じの呪具も、既に外されているでしょうな。」
もう一人の男・・・高官の服をまとった男は、魔術師の言葉に片眉を上げた。
「まさか、その様な事を本気で言ってるのか!?。ユリウス殿下がいかに魔術の才があろうと、たかが子供だ。逃がしたのは、あのゲオルグ殿の娘では無いのか!?。でなければタイミングが良すぎる。」
「あの娘に、そのような事が出来るとは思えませんがね。いずれにせよ、我が国にとって、脅威であると言えるでしょうな。」
魔術師は重々しい溜息をついた。
ガリオスは魔術師を恨めしそうに見つめた。
「だから、あの時殺しておけばよかったのだ。お前が、あ奴をベスパの塔に入れると言うから・・・。」
「ユリウス殿下は、まだ4歳でしたからね。処刑などすれば、国民や貴族の反感を買ったでしょうな。我々としては、塔の中で静かに一生を終えて頂くか、あるいは衰弱死して貰いたかったのですが、少々甘い考えでしたか・・・。」
「何を悠長な事を!。あ、あ、あ奴は今にも、わしを殺そうと狙っているかもしれないんだぞっ!」
ガリオスは頭を抱えて顔を伏せた。身体が小刻みに震えている。
「王宮内の警備は万全ですよ。ご安心を、陛下。」
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