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第一章
19,滅びの道
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その頃ユリウスは、王宮の中をきょろきょろしながら、歩いていた。姿を隠す魔法を使ってるので、誰とすれ違っても気が付かれはしない。
(へぇ。王宮ってこんなだったんだ。)
昔は暮らしていた場所であった。でも幼かったユリウスの記憶には、あまり残っていない。
王宮には、不審者が入らない様に、守りの術がかけられていたが、破るのは造作無かった。ベスパの塔程の強い術はかけられていないようだった。
ユリウスは近くのドアをそっと開けて、中を覗いてみた。冷え切った部屋には人の気配はない。音を立てずにドアを閉めると、斜め向かいの部屋から、ワゴンを引いたメイドが出てくるのに気づいた。彼は素早く近づき、ドアが閉まる前に、滑るように部屋の中に入った。
その部屋は貴人の使用する茶室であった。華やかではあるが、品よくまとめられた家具がバランスよく設置されている。そして、大きな窓に近い大理石のテーブルで、一組の男女が向かい合って座っていた。
ユリウスは目を細めてにっこり笑った。
(当たり。)
そこに居たのは王太子レオンハルトと聖女ルシアだった。ユリウスは空気を揺らさぬようにゆっくり移動し、二人の会話が聞こえる所まで移動した。
二人の間の空気は重かった。
「リオノーラは、そのような娘ではありません。」
きっぱりとそう言ったルシアに、王太子はわずかに動揺を見せた。ルシアの口調に非難する響きがあったからだろう。
「貴方がリオノーラを信じる気持ちは分かる。しかし、彼女はユリウスと共に、ベスパの塔を脱走した。二人には何かしらの繋がりがあったとしか・・・。」
「ありえませんわ。ユリウス様は幼い頃より幽閉され、誰とも会う事は出来なかったはず。リオノーラが王宮に来たのは、たった一度です。繋がりなど、持ち得るはずがございません。」
「だが、六年間ベスパの塔で大人しくしていたユリウスは、リオノーラがベスパの塔に入ったその日に、脱走した。これはリオノーラが彼を牢から出したとしか思えない!。」
レオンハルトのその言葉を聞いて、ユリウスは思わず吹き出しそうになった。
(ばっかだなぁ、この男。リオにそんな事、出来るわけ無いじゃん。頭が単純すぎて、可哀そうなレベルだよ。こんな奴が僕と半分血の繋がった兄だとはね・・・。)
笑いをこらえていると、ルシアが長い溜息をついた。
「レオンハルト様。もう少し広い視野をお持ちくださいませ。リオノーラにそのような力はありませんでした。ユリウス様との事は、偶然・・・もしくは運命だったのでしょう。」
「君は彼女に毒殺されかけたのだよ?。」
「彼女は無実だと、何度も申し上げました。」
レオンハルトとルシアはしばらく無言で、見つめ合っていた。緊張を伴った重い沈黙。最初に逃げたのはレオンハルトの方だった。彼は、スッと目線を逸らすと、
「とにかく二人は脱走の罪を犯した。今、秘密裏に捜索しているところだ。」
早口でそう言った。対照的にルシアは、落ち着いた様子でお茶をゆっくりと口にした。そして、
「無駄な事です。二人を見つける事は叶わないでしょう。ユリウス様の力を侮ってはいけません。一国を消す力を、あの方はお持ちなのですから。それにもう、歯車は回り始めました。この国は滅びの方へ向かっています。」
レオンハルトが目を見開いて、顔を上げた。
「六年前、王は過ちを犯しました。占い師の予言は、幾筋かある道筋の一つでしかなかったものを・・・。選んだのは王。これはユリウス様のせいではございません。実際、彼が幽閉されていた六年間も、この国はどんどん衰退しているでは無いですか。」
聖女の言葉に、王太子は苦痛をこらえる様に顔を歪めた。
ここ数年、セテリウス国は不況にあえいでいる。数々の政策も失敗に終わり、政治に関わる貴族の中は汚職にまみれている。王太子はそれを改善しようと、何度か王に掛け合ったが取り合っては貰えなかった。
最近ではうるさく言うレオンハルトを疎ましく思っているようだ。聖女という婚約者が居なければ、王太子を廃嫡されていた可能性もあった。さらに、王の寵愛を得ている第三王妃は、自分の子を立太子させようと目論んでいる。
「私は・・・どうすれば良いのだろうか?。」
疲れた声を出すレオンハルトに対し、ルシアは凛とした態度を崩さない。
「真実の敵はどこにあるのかを見極めてください。国を滅ぼすのはユリウス様では無く、世の理を外した者達です。ユリウス様もリオノーラも、その者達の犠牲となったに過ぎません。」
そう言ったルシアは、レオンハルトの方を見ていなかった。彼女の目は、見えていないはずのユリウスをまっすぐ捉えていた。
「このままでは、この国は壊れていきます。しかし、それを防ぐ為に私が居るのです。私はこの国の聖女ですから、命に代えても守ってみせましょう。・・・それに、ユリウス様がリオノーラと共に居るのは、もしかしたら僥倖では無いかと思っています。彼女は誠実で善良な娘です。きっと何かを変えてくれると、私は信じています。」
ユリウスは咄嗟に部屋から『飛んだ』。
一瞬で周りの景色は、違う部屋に変わる。
(気味の悪い女。)
聖女ルシアは油断できない。ユリウスはそう思った。
(僕が犠牲者だって?。ああ、そうだ。そんな事は分かり切っている。)
馬鹿な王のせいで、この国は滅ぶ。それの何が悪い。
(名ばかりの聖女ごときに何が出来る。僕はこんな国、どうでも良い。だけど塔の中に居た5年半のお返しだけはさせてもらう。)
そう思いつつも、ルシアの言った言葉はユリウスの心をかき乱した。
(落ち着け・・・。あんな戯言、どうでも良い。)
『飛んだ』先の部屋で、人の話声が聞こえたので、ユリウスは再び緊張を高めた。
(へぇ。王宮ってこんなだったんだ。)
昔は暮らしていた場所であった。でも幼かったユリウスの記憶には、あまり残っていない。
王宮には、不審者が入らない様に、守りの術がかけられていたが、破るのは造作無かった。ベスパの塔程の強い術はかけられていないようだった。
ユリウスは近くのドアをそっと開けて、中を覗いてみた。冷え切った部屋には人の気配はない。音を立てずにドアを閉めると、斜め向かいの部屋から、ワゴンを引いたメイドが出てくるのに気づいた。彼は素早く近づき、ドアが閉まる前に、滑るように部屋の中に入った。
その部屋は貴人の使用する茶室であった。華やかではあるが、品よくまとめられた家具がバランスよく設置されている。そして、大きな窓に近い大理石のテーブルで、一組の男女が向かい合って座っていた。
ユリウスは目を細めてにっこり笑った。
(当たり。)
そこに居たのは王太子レオンハルトと聖女ルシアだった。ユリウスは空気を揺らさぬようにゆっくり移動し、二人の会話が聞こえる所まで移動した。
二人の間の空気は重かった。
「リオノーラは、そのような娘ではありません。」
きっぱりとそう言ったルシアに、王太子はわずかに動揺を見せた。ルシアの口調に非難する響きがあったからだろう。
「貴方がリオノーラを信じる気持ちは分かる。しかし、彼女はユリウスと共に、ベスパの塔を脱走した。二人には何かしらの繋がりがあったとしか・・・。」
「ありえませんわ。ユリウス様は幼い頃より幽閉され、誰とも会う事は出来なかったはず。リオノーラが王宮に来たのは、たった一度です。繋がりなど、持ち得るはずがございません。」
「だが、六年間ベスパの塔で大人しくしていたユリウスは、リオノーラがベスパの塔に入ったその日に、脱走した。これはリオノーラが彼を牢から出したとしか思えない!。」
レオンハルトのその言葉を聞いて、ユリウスは思わず吹き出しそうになった。
(ばっかだなぁ、この男。リオにそんな事、出来るわけ無いじゃん。頭が単純すぎて、可哀そうなレベルだよ。こんな奴が僕と半分血の繋がった兄だとはね・・・。)
笑いをこらえていると、ルシアが長い溜息をついた。
「レオンハルト様。もう少し広い視野をお持ちくださいませ。リオノーラにそのような力はありませんでした。ユリウス様との事は、偶然・・・もしくは運命だったのでしょう。」
「君は彼女に毒殺されかけたのだよ?。」
「彼女は無実だと、何度も申し上げました。」
レオンハルトとルシアはしばらく無言で、見つめ合っていた。緊張を伴った重い沈黙。最初に逃げたのはレオンハルトの方だった。彼は、スッと目線を逸らすと、
「とにかく二人は脱走の罪を犯した。今、秘密裏に捜索しているところだ。」
早口でそう言った。対照的にルシアは、落ち着いた様子でお茶をゆっくりと口にした。そして、
「無駄な事です。二人を見つける事は叶わないでしょう。ユリウス様の力を侮ってはいけません。一国を消す力を、あの方はお持ちなのですから。それにもう、歯車は回り始めました。この国は滅びの方へ向かっています。」
レオンハルトが目を見開いて、顔を上げた。
「六年前、王は過ちを犯しました。占い師の予言は、幾筋かある道筋の一つでしかなかったものを・・・。選んだのは王。これはユリウス様のせいではございません。実際、彼が幽閉されていた六年間も、この国はどんどん衰退しているでは無いですか。」
聖女の言葉に、王太子は苦痛をこらえる様に顔を歪めた。
ここ数年、セテリウス国は不況にあえいでいる。数々の政策も失敗に終わり、政治に関わる貴族の中は汚職にまみれている。王太子はそれを改善しようと、何度か王に掛け合ったが取り合っては貰えなかった。
最近ではうるさく言うレオンハルトを疎ましく思っているようだ。聖女という婚約者が居なければ、王太子を廃嫡されていた可能性もあった。さらに、王の寵愛を得ている第三王妃は、自分の子を立太子させようと目論んでいる。
「私は・・・どうすれば良いのだろうか?。」
疲れた声を出すレオンハルトに対し、ルシアは凛とした態度を崩さない。
「真実の敵はどこにあるのかを見極めてください。国を滅ぼすのはユリウス様では無く、世の理を外した者達です。ユリウス様もリオノーラも、その者達の犠牲となったに過ぎません。」
そう言ったルシアは、レオンハルトの方を見ていなかった。彼女の目は、見えていないはずのユリウスをまっすぐ捉えていた。
「このままでは、この国は壊れていきます。しかし、それを防ぐ為に私が居るのです。私はこの国の聖女ですから、命に代えても守ってみせましょう。・・・それに、ユリウス様がリオノーラと共に居るのは、もしかしたら僥倖では無いかと思っています。彼女は誠実で善良な娘です。きっと何かを変えてくれると、私は信じています。」
ユリウスは咄嗟に部屋から『飛んだ』。
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(気味の悪い女。)
聖女ルシアは油断できない。ユリウスはそう思った。
(僕が犠牲者だって?。ああ、そうだ。そんな事は分かり切っている。)
馬鹿な王のせいで、この国は滅ぶ。それの何が悪い。
(名ばかりの聖女ごときに何が出来る。僕はこんな国、どうでも良い。だけど塔の中に居た5年半のお返しだけはさせてもらう。)
そう思いつつも、ルシアの言った言葉はユリウスの心をかき乱した。
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