牢で出会った私の王子

優摘

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第一章

17,剣

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リオノーラは驚愕に目を見開き、ヨハン爺とハンナは顔をしかめて伯爵から顔を背けた。

ミカは呆れかえってしまった。この男は、髪と目の色が違うだけで、リオノーラが自分の娘だという事がわからないのだ。

しかも、ヨハン爺はミカとリオノーラは孫夫婦と紹介した。なのに、その夫の目の前で、その妻を自分の妾にしようとしている。

(とんでもない俗物だな、この伯爵様は・・・。)

こんな男のせいで、ミカの父やサシャの家族、そしてユリウスの母が殺されたのだと思うと、ミカの心の中で憎悪の炎が増した。だが、彼はそれをグッと押し殺した。

(今は・・・まだ我慢だ・・・。)

ミカは困った顔をして、ぺこぺこ頭を下げた。

「旦那、ご冗談はよしてくださいよ。嫁さんに居なくなられたら、俺、困っちゃいますよ~。」

「旦那様、この二人は新婚でして、ご勘弁くださいませ・・・。」

ヨハンもそう言って頭を下げた。

「ふん。こんな小物の所にいるより、俺の所に来た方が贅沢できるぞ。・・・まぁ良い。気が変わったらいつでも来るが良い。お前はなかなかの器量よしだからな。」

アシュレイ伯爵・・・ゲオルグはそう言って、好色な笑みを浮かべた。

リオノーラは喉が詰まったようになり、青ざめたまま俯く事しか出来なかった。

「では、旦那様。そろそろお暇致します。お世話になりました。」

ヨハンの別れの挨拶に、ゲオルグは「ふん。」と見下すような目線だけ寄越し、何も言わずに、その場を離れて行った。

ハンナはリオノーラをギュッと抱きしめ、ミカは脱力したように息を吐いた。

「行くぞ・・・。」

ヨハンは手綱を弾ませ、馬車を出発させた。

屋敷から充分な距離を離れるまで、誰もが黙ったままだった。後ろを振り返っても屋敷が見えなくなった頃、ミカが俯いたままのリオノーラに声をかけた。

「・・・なんというか・・・。リオノーラさん、大丈夫っすか・・・?」

リオノーラは顔を上げた。ミカの予想に反して、彼女は泣いてはいなかった。だが、表情は固く、目にはどこか気遣わし気な様子が見て取れた。

「いえ、父が私に関心が無い事は、昔から分かってましたから・・・。それよりも、ミカさんは、さぞかし嫌な思いをなさったでしょう?。申し訳ございません。」

そう言って頭を下げた。

「えっ、俺っすか?」

「ええ、父は、ミカさん達にとっては憎い相手でしょうから・・・。」

「あっ・・・、いやいや俺は大丈夫っす・・・よ。」

見抜かれてたかと、ミカは頭を掻いて苦笑いを浮かべた。

ヨハンとハンナがチラリとミカに目をやったが、二人は何も言わなかった。





しばらくすると、馬車は街中に入り、ヨハンは裏通りの方へと馬を操った。この辺りは、食堂や飲み屋が多いらしく、人通りも多い。

「どう。」

ヨハンは店の邪魔にならないよう、塀に沿った道の途中で馬車を止めた。

「ここから先は、ちょっと治安がよくねぇんで、お嬢様とハンナは馬車で待ってて下せぇ。」

ヨハンはそう言うと、馬車を降り、荷台の後ろから布にくるまれた荷物を1つ降ろした。布を解くと、鞘に納められた大振りの剣が現れ、リオノーラは息を飲んだ。

「お爺さん!」

「お嬢様。心配しないで待っていてくだせぇ。必ずアンリを連れてきますから。」

優しい声でそう言ったヨハン爺は、ミカの方に目を向けると彼をギロリと睨んだ。

「おい、若造。お前も持ってるんだろ?。さっさと降りて、俺に付いて来い。」

ドスの聞いた声で呼ばれて、ミカは額に汗をかいた。

(おい、おい、この爺さん。やっぱりただの庭師なんかじゃねぇよ。)

ミカは馬車から急いで飛び降りた。

リオノーラは馬車の上で、不安な気持ちで二人を見送った。ハンナは労わる様に、リオノーラの肩に手を置き、

「大丈夫ですよ、お嬢様。ああ見えて、ヨハンは腕は確かですから。」

力強くそう言った。

「でも、お爺さんは庭師なのでは?」

ハンナは苦笑しながら、ヨハンの剣を包んでいた布を手に持つと、丁寧に畳み始めた。

「今はそうですが、昔はそこそこ名の知れた傭兵だったのですよ。」

「そうなのですか・・・?。」

ヨハンにそんな過去があったとは、初めて聞く事だった。それでも、リオノーラの不安は消えなかった。何故なら自分が2度処刑された時に、ぼろぼろになったアンリを見ているからだ。

(私がユリウス様に助けて貰う前も、お爺さんはアンリを助けようとしたに違いない。でも、二度ともアンリは一人で、処刑台のリオノーラを見ながら、自ら命を絶った。)

恐らくヨハンは、あの2回の処刑の前には、アンリを助ける事が出来なかったのだと、リオノーラは考えた。もしかして、ヨハンやハンナの身にも何かあったのかもしれない・・・。

リオノーラは、今すぐ馬車を飛び出して、ヨハンとミカの元に駆けつけたい気持ちを、必死で抑えた。
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