牢で出会った私の王子

優摘

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第一章

15,伯爵

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「お爺さんや、ハンナまで、このような事になっていたなんて・・・。」

リオノーラの心は重く沈んだ。自分のせいで、多くの人が辛い目に遭ったのだと、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。ミカは周囲に気を配りながら、リオノーラの肩をポンと叩いた。

「リオノーラさん。悪いのは伯爵っす。リオノーラ様のせいじゃない。それに、落ち込んでいる場合では無いですよ。アンリさんを助けるんでしょ。」

「そ、そうですね。しっかりしないと駄目ですよね。」

リオノーラはアンリの事を思い、胸の前でぐっと手握りしめて深呼吸し、心を落ち着かせた。

「そうっす。その調子っす。・・・それから、ちょっと聞きたいんですけどね。あのヨハンってお爺さん、庭師の前は何をしてたんです?」

「知りません。ヨハンお爺さんは、私が生まれた時には、もうここで庭師をされてたみたいですが。」

「ふうん・・・。」

ミカは、ヨハンが消えた裏口を見ながら目を細めた。

小屋の裏でヨハンに声をかけられた時、ミカは直前まで彼の気配を感じる事が出来なかった。それに、彼と対峙した時に感じた威圧感。とても普通の庭師とは思えなかった。
そして、先程の彼の口ぶりからすると、ヨハンがここで庭師として働いてたのは、リオノーラがここに居た事が理由らしい。

(リオノーラさんにはまだ、本人も知らない何か深い事情がありそうだ。)

真剣な顔で、祈る様に手を組んでいるリオノーラを、ミカは目の端で見つめた。


しばらくして、建物の裏口が開く音がした。リオノーラとミカは緊張に身を固める。でも出て来たのは、ヨハン爺と小太りの中年の女性だった。

「ハンナ!」

リオノーラは思わず馬車の陰から飛び出していた。
女性は一瞬驚いた顔になったが、すぐに両手を広げてリオノーラに駆け寄った。

「お嬢様!よくご無事で・・・。」

リオノーラを抱きしめて、彼女はエプロンの端で涙を拭いた。

「ハンナ、ごめんなさい。私のせいで、ここを辞める事になったのでしょう?」

「いいえ、お嬢様が居ないのなら、どうせ居たってしょうがないんですよ。」

ハンナは泣き笑いの顔で、そう言った。

「私達、アンリを助けたいの。ハンナとお爺さんはアンリの居場所を知ってる?」

「ええ、見当はついてますよ。急ぎましょう。」

ヨハン爺はハンナの荷物らしきものを馬車に積み込んだ。リオノーラとミカもハンナと共に、荷台に乗り込む。そして、ヨハン爺が御者台に座った時だった。

「おい!お前たち、まだウロウロしていたのか!?」

野太い男の声が、馬小屋の裏の方から聞こえてきた。その声にリオノーラの肩がビクッと跳ね上がり、身体が小刻みに震えだした。

「・・・お父様・・・。」

「えっ!?」

リオノーラの言った言葉にミカは焦った。
現れたのは見るからに身分の高い服装をした、固太りの男性。リオノーラの父であるアシュレイ伯爵に間違いないだろう。身なりは良いが、目の中に見える小狡そうな光が、彼の品性を下げていた。

アシュレイ伯爵はミカとリオノーラを見て、眉根を寄せた。

「誰だ、お前たちは!!。どうしてここに居る!?」

リオノーラは父から顔を背けた。見られたらお終いだと思ったからだ。

「旦那様、儂の孫夫婦でして・・・。知らせをやったら、手伝いにきてくれたんでさぁ。」

ヨハン爺が、リオノーラと話す時とは全く違う、弱々し気な声でそう言った。

「孫だとぉ?」

「へぇ。今年から街で、二人で働いているんでさぁ。」

アシュレイ伯爵はミカをジロリ睨んだ。

「ど、ども・・・。」

ミカはヘラリと笑って頭を下げる。その姿はまるっきり、街に良くいる普通の若者の様だった。

「・・・ふん。」

アシュレイ公爵は興味なさげに顔を背けると、今度はリオノーラをじろじろと見始めた。

「おい!女。こっちを向け!」

リオノーラの肩が跳ねた。

「こっちを向けと言っとるんだ!言う事を聞け!」

ミカの目から笑みが消えた。いざとなったら、隠していた剣を使うつもりで、彼は手を服の中へと差し込もうとした。だがその時、ヨハン爺と目が合った。ヨハンの目が『やめろ』と言っている。ミカは手を止めた。

リオノーラが震えながら、顔を父親の方に向けた。青ざめて、目の端には涙が滲んでいる。

(ヤ、ヤバいっしょ?!)

ミカは顔には出さずにいたが、心底慌てていた。
しかし、アシュレイ伯爵は顎に手をやって、リオノーラを舐める様な目で見ている。

「おい、お前は幾つだ?」

「えっ!?」

リオノーラは驚いて父親に目を向けた。

「幾つだと聞いてるんだ!」

「じゅ、十七です。」

「ほう、どうだ。俺の屋敷で働かんか?。良い目を見せてやるぞ。」

そう言って下卑た顔で笑った。
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