牢で出会った私の王子

優摘

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第一章

13,魔法具

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「リオノーラさん、じゃ、行きましょうか?」

リオノーラは今、ミカルークと共にアシュレイ伯爵家・・・かつての自分の家の敷地内にある農園に潜んでいた。

「は、はい。」

「大丈夫っす。見つかっても、俺がなんとかしますから。」

ミカルークはリオノーラを安心させるため、下手なウィンクをしながら、手招きをした。

アシュレイ伯爵家は街の郊外にある為、庭は広く、敷地内には畑もある。庭師であるヨハン爺がいつもそこで働いている筈だ。




リオノーラ達がユリウスの力で、セテリオス王国まで『飛んで』きたのは、つい先ほどの事だ。簡単に場所を告げただけで、ユリウスは4人を連れて、アシュレイ家の近くの森まで連れてきた。

(凄い・・ディーハからの距離をたった一瞬で。)

改めて、ユリウスの能力の強大さに、リオノーラは驚いた。

セテリオス国に着いてから、ユリウスはリオノーラに魔法をかけた。彼女の目立つ髪色を隠すためだ。

「おかしい・・・。」

「えっ?」

「魔法が上手くかからない。」

「どういう事ですか?」

サシャフェルトが怪訝な顔を向けた。

「何かが邪魔をしてる。リオ、魔法具か何か持ってる?」

「い、いえ、何も。」

ユリウスは目を細めて探る様に、リオノーラを眺めた。そして、

「それだ。」

リオノーラが腕にはめているバングルを指さした。

「それが、僕の魔力を逸らしてる。」

サシャフェルトがリオノーラのバングルを覗きこむように見た。

「微かに魔力を感じます。この程度の魔力なら、殿下の魔法を逸らす事など出来ないはずですが・・・、魔法具自体が能力を隠している可能性もあります。リオノーラさん、そのバングルは何処で手に入れましたか?」

「こ、これは母の形見で・・・。私が生まれた時に、母が付けてくれたと聞きました。」

「生まれた時に?」

サシャフェルトが片眉を上げる。

「はい。不思議な事ですが、私が成長すると共に、手首に合わせて大きさが変わるのです。」

「ほう・・・。」

サシャフェルトは腕を組んで、考える様な仕草をした。そして、

「・・・いずれにせよ、相当な力を持つ代物です。殿下、魔法は無理そうですか?」

「いや・・・上手くすり抜けさせる・・・。」

ユリウスは再び目を細めると、右手の指を何かを操る様に、細かく動かし始めた。

「ここをかわして・・・うん、こっちを違う方向へ・・・。」

ぶつぶつと何かを言い始めて数秒。リオノーラの髪の色が、白から茶色に変わった。

「えっ!?」

リオノーラは驚きながら、自分の長い髪の毛を手に取り、まじまじと見つめる。

「目の色も、変わりましたね。」

ミカルークが腰を屈めて、覗きこむ。

赤い目は明るい栗色に変わっていた。

「・・・OK・・・。でもあまり時間はもたないかも。サシャの言う様に、この魔法具、かなり強い。」

ユリウスは額に浮かんだ汗を、手の甲で拭った。

「なるほどね・・・、だからリオはベスパの塔で耐えられたのかな?」

「どういうことですか?」

「あの塔は、色んな術がかけられている。本来、強い魔力を持つ貴族を封じ込める塔だから。四六時中魔力を吸い上げられるし、気持ちを萎えさせるような圧力をかけてくるんだ・・・。並み程度の魔力の持ち主じゃ、一カ月も持たないよ。僕は途中から全部、逸らせるようになったけどね。」

ユリウスはニヤリと笑った。

「リオにかけた魔法の効力は、多分およそ三時間程度だ。ミカ、それまでに片を付けろ。」

「はい。」

「僕とサシャは城に行く。久しぶりだから、楽しみだよ。」

と、ユリウスは心底楽し気にくすくすと笑う。王城に忍び込む事は、かなり危険な筈なのに、まるで友達の家にでも、遊びに行くかのようだ。

「じゃ、リオ。三時間後にまた、ここで会おう。」

そう言って、リオにぎゅっと抱きつくと、にっこり笑ってサシャと共に消えた。

(お気をつけて・・・。)



森を抜けると、こじんまりした畑に、色んな野菜が育っていた。ここはもう、アシュレイ家の屋敷にある庭の端だ。畑は、庭師のヨハン爺が、ほとんど一人で世話をしている。
農具などを仕舞っている小屋の陰に隠れ、二人は辺りの様子を伺った。
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