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第一章
5,理由
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「命を下したのはセテリオス王です。しかし、それに加担したのは貴方の父、ゲオルグ。そして第三王妃です。」
リオノーラの顔から血の気が引いた。しがない地方都市の男爵であった父が、伯爵位を賜ったのは、確か6年前の話ではなかったか・・・。それに、第三王妃はゲオルグの遠い姻戚であった筈だ。
今や、リオノーラの体は目に見えてがたがたと震え、瞳からは何筋も、涙がこぼれ落ちていた。サシャはその様子を見て、厳しかった顔を少し緩めた。
「あなたを責めている訳ではありません・・・。私達は、責任の大半はセテリオス王にあったと思っています。」
「でもっ・・・!。」
リオノーラは反論する様に身を乗り出したが、何も言葉が続かなかった。
「ユリウス様がお生まれになった時、3つの予言がなされました。」
サシャが話を戻すように、そう言った。リオノーラは俯いていた顔を上げる。
「誕生の祝いの席で良く行われる、余興の様な物です。多くは当たり障りの無い事を、神官や占者が『喜ばし』で言います。」
リオノーラもその事は知っていた。妹のマリアンヌが生まれた時も、宴席に呼ばれた占い師が高らかに声を上げていた。「この娘は長じて美しく育ち、この家に富みをもたらすだろう!」。リオノーラはそれを、誰も顧みないような部屋の隅っこで聞いていたのを覚えている。
「予言の一つ目は、王都の神官によってなされました。『このものは、誰よりも美しく、才能に溢れ、力を持つことになるでしょう』と。二つ目は城のお抱えの占者でした。『長じては、多くの人の心を集め、人の上に立つ事になるでしょう。』そして、3人目は市井から呼ばれた、良く当たると評判をとっていた、老婆の占い師でした。占い師はこう言ったのです。『このものは太古の荒ぶる神の生まれ変わりです。』と。」
サシャはそこで一度言葉を切った。そして一度、伺う様にユリウスを見る。ユリウスは薄っすらと笑みを浮かべて、かすかに頷いた。サシャは続けた。
「そして、『将来、セテリオス王家を絶ち、国を滅ぼし。自身も闇に落ちるだろう。』そう告げたのです。国王は怒り、老婆を宴席から叩き出しました。祝いの席に相応しく無い、不吉な予言ですからね。でも、その時はそんな予言、誰も信じていなかったのですよ。くだらない、老婆のいう事なんて。華やかな貴族のパーティーに対する、ひねくれた貧乏な老婆の、単なる嫌がらせだろうと、皆は思ったのです。」
いつしか山小屋の外では日が暮れ、夕闇が辺りに迫りつつあった。ミカが立ち上がって窓を閉め、ランプを灯し始める。
「しかし、ユリウス様が成長なさるうちに、この方が尋常では無い魔力をお持ちである事を示し始めました。2歳にして、国の特級魔術師を凌ぐ魔力を持つことが分かり、そして3歳には、国内では誰も使えないような魔法を、いとも簡単に使いこなすようになりました。それを見た国王は、心の中で自分の子に恐れを抱く様になり、そして予言の事を思い出したのです。」
ランプの灯りが、サシャの瞳の中で揺れている。ユリウスとミカは黙ったままだ。時折、遠くで何かの獣の声が聞こえていた。
「その頃には国王の寵愛は、第三王妃に移っていました。そして、王の息子に対する恐れを利用して、ユリウス様と第二王妃を排除しようと働きかけたのが、ゲオルグと通じていた第三王妃です。」
リオノーラはハッと息を飲んだ。
「王に、予言の信憑性を訴え、第二王妃が彼女の身辺の者と結託して、王と王太子の命を狙っていると吹き込みました。第二王妃がユリウス様を王に据えようと計画を立てていると、王に信じ込ませたのです。ゲオルグ達の悪巧みは成功しました。ユリウス様は4歳で、ベスパの塔に幽閉される事となったのです。そして第二王妃とその味方は、ほとんどが処刑され、まだ年若かった私とミカは罪人として、辺境で使役する事になりました。」
「・・・僕は、ベスパの塔から5年出られなかった。」
ユリウスは初めて口を開いた。
「塔には、国中の魔術師がかけた魔封じの術がかけられていたし、僕には何重にも魔力を封じる枷が付けられていた。それを、気づかれない様にはずしていくのに、5年もかかっちゃった。」
まるで、楽しかったことでも話すようにクスクスと笑う。
「魔封じの術をかいくぐって、塔の外に出るのに、それから半年かかった。そうして探して、探して、やっとミカとサシャを見つけたんだ。気づかれない様に、ベスパの塔を出たり入ったりするのは大変だったんだよ?」
「あの!」
リオノーラは立ち上がって、頭を深く下げた。
「父のやったこと、本当に申し訳ございません!。私で出来る事でしたら、どんな事でも致します。」
「ほんと!?」
ユリウスは目を輝かせたが、サシャが「落ち着いてください。」と言った。
「リオノーラさんも座ってください。私達は別に、あなたに償って頂こうとは思っていません。」
「でも・・・。」
「どうか落ち着いてください。話にはまだ、続きがあります。」
リオノーラは、そう促されて、椅子に座り直した。だが、心の中は父がユリウスにした事に対する罪悪感で一杯だった。
リオノーラの顔から血の気が引いた。しがない地方都市の男爵であった父が、伯爵位を賜ったのは、確か6年前の話ではなかったか・・・。それに、第三王妃はゲオルグの遠い姻戚であった筈だ。
今や、リオノーラの体は目に見えてがたがたと震え、瞳からは何筋も、涙がこぼれ落ちていた。サシャはその様子を見て、厳しかった顔を少し緩めた。
「あなたを責めている訳ではありません・・・。私達は、責任の大半はセテリオス王にあったと思っています。」
「でもっ・・・!。」
リオノーラは反論する様に身を乗り出したが、何も言葉が続かなかった。
「ユリウス様がお生まれになった時、3つの予言がなされました。」
サシャが話を戻すように、そう言った。リオノーラは俯いていた顔を上げる。
「誕生の祝いの席で良く行われる、余興の様な物です。多くは当たり障りの無い事を、神官や占者が『喜ばし』で言います。」
リオノーラもその事は知っていた。妹のマリアンヌが生まれた時も、宴席に呼ばれた占い師が高らかに声を上げていた。「この娘は長じて美しく育ち、この家に富みをもたらすだろう!」。リオノーラはそれを、誰も顧みないような部屋の隅っこで聞いていたのを覚えている。
「予言の一つ目は、王都の神官によってなされました。『このものは、誰よりも美しく、才能に溢れ、力を持つことになるでしょう』と。二つ目は城のお抱えの占者でした。『長じては、多くの人の心を集め、人の上に立つ事になるでしょう。』そして、3人目は市井から呼ばれた、良く当たると評判をとっていた、老婆の占い師でした。占い師はこう言ったのです。『このものは太古の荒ぶる神の生まれ変わりです。』と。」
サシャはそこで一度言葉を切った。そして一度、伺う様にユリウスを見る。ユリウスは薄っすらと笑みを浮かべて、かすかに頷いた。サシャは続けた。
「そして、『将来、セテリオス王家を絶ち、国を滅ぼし。自身も闇に落ちるだろう。』そう告げたのです。国王は怒り、老婆を宴席から叩き出しました。祝いの席に相応しく無い、不吉な予言ですからね。でも、その時はそんな予言、誰も信じていなかったのですよ。くだらない、老婆のいう事なんて。華やかな貴族のパーティーに対する、ひねくれた貧乏な老婆の、単なる嫌がらせだろうと、皆は思ったのです。」
いつしか山小屋の外では日が暮れ、夕闇が辺りに迫りつつあった。ミカが立ち上がって窓を閉め、ランプを灯し始める。
「しかし、ユリウス様が成長なさるうちに、この方が尋常では無い魔力をお持ちである事を示し始めました。2歳にして、国の特級魔術師を凌ぐ魔力を持つことが分かり、そして3歳には、国内では誰も使えないような魔法を、いとも簡単に使いこなすようになりました。それを見た国王は、心の中で自分の子に恐れを抱く様になり、そして予言の事を思い出したのです。」
ランプの灯りが、サシャの瞳の中で揺れている。ユリウスとミカは黙ったままだ。時折、遠くで何かの獣の声が聞こえていた。
「その頃には国王の寵愛は、第三王妃に移っていました。そして、王の息子に対する恐れを利用して、ユリウス様と第二王妃を排除しようと働きかけたのが、ゲオルグと通じていた第三王妃です。」
リオノーラはハッと息を飲んだ。
「王に、予言の信憑性を訴え、第二王妃が彼女の身辺の者と結託して、王と王太子の命を狙っていると吹き込みました。第二王妃がユリウス様を王に据えようと計画を立てていると、王に信じ込ませたのです。ゲオルグ達の悪巧みは成功しました。ユリウス様は4歳で、ベスパの塔に幽閉される事となったのです。そして第二王妃とその味方は、ほとんどが処刑され、まだ年若かった私とミカは罪人として、辺境で使役する事になりました。」
「・・・僕は、ベスパの塔から5年出られなかった。」
ユリウスは初めて口を開いた。
「塔には、国中の魔術師がかけた魔封じの術がかけられていたし、僕には何重にも魔力を封じる枷が付けられていた。それを、気づかれない様にはずしていくのに、5年もかかっちゃった。」
まるで、楽しかったことでも話すようにクスクスと笑う。
「魔封じの術をかいくぐって、塔の外に出るのに、それから半年かかった。そうして探して、探して、やっとミカとサシャを見つけたんだ。気づかれない様に、ベスパの塔を出たり入ったりするのは大変だったんだよ?」
「あの!」
リオノーラは立ち上がって、頭を深く下げた。
「父のやったこと、本当に申し訳ございません!。私で出来る事でしたら、どんな事でも致します。」
「ほんと!?」
ユリウスは目を輝かせたが、サシャが「落ち着いてください。」と言った。
「リオノーラさんも座ってください。私達は別に、あなたに償って頂こうとは思っていません。」
「でも・・・。」
「どうか落ち着いてください。話にはまだ、続きがあります。」
リオノーラは、そう促されて、椅子に座り直した。だが、心の中は父がユリウスにした事に対する罪悪感で一杯だった。
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