6 / 30
第一章
5,理由
しおりを挟む
「命を下したのはセテリオス王です。しかし、それに加担したのは貴方の父、ゲオルグ。そして第三王妃です。」
リオノーラの顔から血の気が引いた。しがない地方都市の男爵であった父が、伯爵位を賜ったのは、確か6年前の話ではなかったか・・・。それに、第三王妃はゲオルグの遠い姻戚であった筈だ。
今や、リオノーラの体は目に見えてがたがたと震え、瞳からは何筋も、涙がこぼれ落ちていた。サシャはその様子を見て、厳しかった顔を少し緩めた。
「あなたを責めている訳ではありません・・・。私達は、責任の大半はセテリオス王にあったと思っています。」
「でもっ・・・!。」
リオノーラは反論する様に身を乗り出したが、何も言葉が続かなかった。
「ユリウス様がお生まれになった時、3つの予言がなされました。」
サシャが話を戻すように、そう言った。リオノーラは俯いていた顔を上げる。
「誕生の祝いの席で良く行われる、余興の様な物です。多くは当たり障りの無い事を、神官や占者が『喜ばし』で言います。」
リオノーラもその事は知っていた。妹のマリアンヌが生まれた時も、宴席に呼ばれた占い師が高らかに声を上げていた。「この娘は長じて美しく育ち、この家に富みをもたらすだろう!」。リオノーラはそれを、誰も顧みないような部屋の隅っこで聞いていたのを覚えている。
「予言の一つ目は、王都の神官によってなされました。『このものは、誰よりも美しく、才能に溢れ、力を持つことになるでしょう』と。二つ目は城のお抱えの占者でした。『長じては、多くの人の心を集め、人の上に立つ事になるでしょう。』そして、3人目は市井から呼ばれた、良く当たると評判をとっていた、老婆の占い師でした。占い師はこう言ったのです。『このものは太古の荒ぶる神の生まれ変わりです。』と。」
サシャはそこで一度言葉を切った。そして一度、伺う様にユリウスを見る。ユリウスは薄っすらと笑みを浮かべて、かすかに頷いた。サシャは続けた。
「そして、『将来、セテリオス王家を絶ち、国を滅ぼし。自身も闇に落ちるだろう。』そう告げたのです。国王は怒り、老婆を宴席から叩き出しました。祝いの席に相応しく無い、不吉な予言ですからね。でも、その時はそんな予言、誰も信じていなかったのですよ。くだらない、老婆のいう事なんて。華やかな貴族のパーティーに対する、ひねくれた貧乏な老婆の、単なる嫌がらせだろうと、皆は思ったのです。」
いつしか山小屋の外では日が暮れ、夕闇が辺りに迫りつつあった。ミカが立ち上がって窓を閉め、ランプを灯し始める。
「しかし、ユリウス様が成長なさるうちに、この方が尋常では無い魔力をお持ちである事を示し始めました。2歳にして、国の特級魔術師を凌ぐ魔力を持つことが分かり、そして3歳には、国内では誰も使えないような魔法を、いとも簡単に使いこなすようになりました。それを見た国王は、心の中で自分の子に恐れを抱く様になり、そして予言の事を思い出したのです。」
ランプの灯りが、サシャの瞳の中で揺れている。ユリウスとミカは黙ったままだ。時折、遠くで何かの獣の声が聞こえていた。
「その頃には国王の寵愛は、第三王妃に移っていました。そして、王の息子に対する恐れを利用して、ユリウス様と第二王妃を排除しようと働きかけたのが、ゲオルグと通じていた第三王妃です。」
リオノーラはハッと息を飲んだ。
「王に、予言の信憑性を訴え、第二王妃が彼女の身辺の者と結託して、王と王太子の命を狙っていると吹き込みました。第二王妃がユリウス様を王に据えようと計画を立てていると、王に信じ込ませたのです。ゲオルグ達の悪巧みは成功しました。ユリウス様は4歳で、ベスパの塔に幽閉される事となったのです。そして第二王妃とその味方は、ほとんどが処刑され、まだ年若かった私とミカは罪人として、辺境で使役する事になりました。」
「・・・僕は、ベスパの塔から5年出られなかった。」
ユリウスは初めて口を開いた。
「塔には、国中の魔術師がかけた魔封じの術がかけられていたし、僕には何重にも魔力を封じる枷が付けられていた。それを、気づかれない様にはずしていくのに、5年もかかっちゃった。」
まるで、楽しかったことでも話すようにクスクスと笑う。
「魔封じの術をかいくぐって、塔の外に出るのに、それから半年かかった。そうして探して、探して、やっとミカとサシャを見つけたんだ。気づかれない様に、ベスパの塔を出たり入ったりするのは大変だったんだよ?」
「あの!」
リオノーラは立ち上がって、頭を深く下げた。
「父のやったこと、本当に申し訳ございません!。私で出来る事でしたら、どんな事でも致します。」
「ほんと!?」
ユリウスは目を輝かせたが、サシャが「落ち着いてください。」と言った。
「リオノーラさんも座ってください。私達は別に、あなたに償って頂こうとは思っていません。」
「でも・・・。」
「どうか落ち着いてください。話にはまだ、続きがあります。」
リオノーラは、そう促されて、椅子に座り直した。だが、心の中は父がユリウスにした事に対する罪悪感で一杯だった。
リオノーラの顔から血の気が引いた。しがない地方都市の男爵であった父が、伯爵位を賜ったのは、確か6年前の話ではなかったか・・・。それに、第三王妃はゲオルグの遠い姻戚であった筈だ。
今や、リオノーラの体は目に見えてがたがたと震え、瞳からは何筋も、涙がこぼれ落ちていた。サシャはその様子を見て、厳しかった顔を少し緩めた。
「あなたを責めている訳ではありません・・・。私達は、責任の大半はセテリオス王にあったと思っています。」
「でもっ・・・!。」
リオノーラは反論する様に身を乗り出したが、何も言葉が続かなかった。
「ユリウス様がお生まれになった時、3つの予言がなされました。」
サシャが話を戻すように、そう言った。リオノーラは俯いていた顔を上げる。
「誕生の祝いの席で良く行われる、余興の様な物です。多くは当たり障りの無い事を、神官や占者が『喜ばし』で言います。」
リオノーラもその事は知っていた。妹のマリアンヌが生まれた時も、宴席に呼ばれた占い師が高らかに声を上げていた。「この娘は長じて美しく育ち、この家に富みをもたらすだろう!」。リオノーラはそれを、誰も顧みないような部屋の隅っこで聞いていたのを覚えている。
「予言の一つ目は、王都の神官によってなされました。『このものは、誰よりも美しく、才能に溢れ、力を持つことになるでしょう』と。二つ目は城のお抱えの占者でした。『長じては、多くの人の心を集め、人の上に立つ事になるでしょう。』そして、3人目は市井から呼ばれた、良く当たると評判をとっていた、老婆の占い師でした。占い師はこう言ったのです。『このものは太古の荒ぶる神の生まれ変わりです。』と。」
サシャはそこで一度言葉を切った。そして一度、伺う様にユリウスを見る。ユリウスは薄っすらと笑みを浮かべて、かすかに頷いた。サシャは続けた。
「そして、『将来、セテリオス王家を絶ち、国を滅ぼし。自身も闇に落ちるだろう。』そう告げたのです。国王は怒り、老婆を宴席から叩き出しました。祝いの席に相応しく無い、不吉な予言ですからね。でも、その時はそんな予言、誰も信じていなかったのですよ。くだらない、老婆のいう事なんて。華やかな貴族のパーティーに対する、ひねくれた貧乏な老婆の、単なる嫌がらせだろうと、皆は思ったのです。」
いつしか山小屋の外では日が暮れ、夕闇が辺りに迫りつつあった。ミカが立ち上がって窓を閉め、ランプを灯し始める。
「しかし、ユリウス様が成長なさるうちに、この方が尋常では無い魔力をお持ちである事を示し始めました。2歳にして、国の特級魔術師を凌ぐ魔力を持つことが分かり、そして3歳には、国内では誰も使えないような魔法を、いとも簡単に使いこなすようになりました。それを見た国王は、心の中で自分の子に恐れを抱く様になり、そして予言の事を思い出したのです。」
ランプの灯りが、サシャの瞳の中で揺れている。ユリウスとミカは黙ったままだ。時折、遠くで何かの獣の声が聞こえていた。
「その頃には国王の寵愛は、第三王妃に移っていました。そして、王の息子に対する恐れを利用して、ユリウス様と第二王妃を排除しようと働きかけたのが、ゲオルグと通じていた第三王妃です。」
リオノーラはハッと息を飲んだ。
「王に、予言の信憑性を訴え、第二王妃が彼女の身辺の者と結託して、王と王太子の命を狙っていると吹き込みました。第二王妃がユリウス様を王に据えようと計画を立てていると、王に信じ込ませたのです。ゲオルグ達の悪巧みは成功しました。ユリウス様は4歳で、ベスパの塔に幽閉される事となったのです。そして第二王妃とその味方は、ほとんどが処刑され、まだ年若かった私とミカは罪人として、辺境で使役する事になりました。」
「・・・僕は、ベスパの塔から5年出られなかった。」
ユリウスは初めて口を開いた。
「塔には、国中の魔術師がかけた魔封じの術がかけられていたし、僕には何重にも魔力を封じる枷が付けられていた。それを、気づかれない様にはずしていくのに、5年もかかっちゃった。」
まるで、楽しかったことでも話すようにクスクスと笑う。
「魔封じの術をかいくぐって、塔の外に出るのに、それから半年かかった。そうして探して、探して、やっとミカとサシャを見つけたんだ。気づかれない様に、ベスパの塔を出たり入ったりするのは大変だったんだよ?」
「あの!」
リオノーラは立ち上がって、頭を深く下げた。
「父のやったこと、本当に申し訳ございません!。私で出来る事でしたら、どんな事でも致します。」
「ほんと!?」
ユリウスは目を輝かせたが、サシャが「落ち着いてください。」と言った。
「リオノーラさんも座ってください。私達は別に、あなたに償って頂こうとは思っていません。」
「でも・・・。」
「どうか落ち着いてください。話にはまだ、続きがあります。」
リオノーラは、そう促されて、椅子に座り直した。だが、心の中は父がユリウスにした事に対する罪悪感で一杯だった。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる