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第一章
4,粛清
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リオノーラは夢を見ていた。投獄されてからいつも見る夢・・・。華やかな王宮のサロン。優しい聖女の微笑み。突然割れるカップの音。自分に向ける婚約者の冷たい眼差し。そして私を見ずに笑う妹の口元・・・。
リオノーラはうなされながら目を覚ました。
(ああ・・・いつもの夢・・・。)
そう思って、辺りを見回し、ここが牢の中では無いことに気付く。
「ど、どこ!?ここは・・・あっ」
そうして、自分が目を回して倒れるまでの記憶が、一気に蘇ってきた。リオノーラの顔が真っ赤に染まる。
(あ、あ、あ・・・)
ユリウスにキスされたことも思い出し、リオノーラは恥ずかしさに両手で顔を覆った。
(ど、どうして!?。あんな急に。わ、私・・・。)
ユリウスの柔らかそうな金髪と、透き通った青い目が目の前にちらつく。
(落ち着いて、彼はまだ小さい子共よ。)
唇にされたとは言え、そういうキスでは無い筈・・・。
(天使にキスされたと思えば良いかしら・・・。)
そう思って、リオノーラは自分を納得させた。
ベッドから起き上がり、部屋の様子を見る。
山小屋の一室であろう狭くて簡素な部屋には、ベッド以外の家具が何もなかった。外はどうなんだろうと思い、窓に近づいて手をかけたが、落とし戸は力を込めても上がらなかった。
「窓は開かないよ・・・。」
振り返ると、いつの間にかユリウスが扉を開けて立っていた。
「逃げられたら困るでしょ?。」
「えっ?」
ユリウスはすたすたと近づき、手を伸ばしてリオノーラの頬に触れた。思わず先ほどの事を思い出し、リオノーラはビクッとする。
「安心して。もうキスはしないから。ミカに怒られちゃった。」
と、まるで悪戯を見つかった時の様に、ぺろりと舌を出して肩をすくめる。
「あ、あの・・・?」
リオノーラには色々聞きたい事が頭の中でぐるぐるしていたが、何から聞いて良いのか分からない。
「ご飯にしよう。その時に色々説明するから。」
そう言って、ユリウスはリオノーラの手を引っ張った。
扉を出ると、最初に入った居間のような部屋で、ミカが食べ物をテーブルの上に並べていた。
「あ、リオノーラさん。目が覚めたんすか?」
どこかの露店で買ってきたと思われる、串に刺した肉と、パン。そして袋に入ったままの小さくて固そうなリンゴ。
「貴族のお嬢さんには、物足りないと思うんすけど、こんなもんしか無くて・・・。」
そう、申し訳なさそうに言うので、リオノーラは慌てて両手を上げて振った。
「いえいえ、牢の中の食事と比べたら、大御馳走ですわ!。お気を使わないでください。」
そして、ミカを手伝って取り皿を並べ始めた。その様子を見てミカは、
「ありがとうっす。」
と、ニカッと笑った。
夕食を取り始めてから、リオノーラは恐る恐るユリウスを見た。目が合うと、彼はにっこりと笑い返してくれる。その可愛らしさに思わずドギマギしてしまった。それでもリオノーラは勇気を出して聞いてみた。
「あの・・・、皆様はどうしてユリウス様を殿下とお呼びになっているのでしょう?」
3人の手が一瞬止まって、リオノーラは焦った。何かマズい事を聞いてしまったのだろうか?そう思って、青ざめる。
「あの・・・あの・・・」
すみませんと、謝ろうとしたリオノーラに片手をあげて、サシャが遮った。そして、
「リオノーラ様は今、おいくつですか?」
そう聞いてきた。
「あの・・・、はい。今年で17になりました。」
「17ですか・・・、と言う事は6年前は11歳。ぎりぎり知らなくてもおかしくは無いか・・・。それともゲオルグは、娘には悪行を隠し通しているのかな・・・?。」
悪行と聞いて、リオノーラはドキッとする。なぜならゲオルグとはリオノーラの父の名前だったから。彼が、父の事をゲオルグと、名前で呼び捨てにした事も、リオノーラの不安をあおった。
「聞いていないですか?。6年前の事件を。セテリオス王国建国以来の粛清と言われた大事件です。と言っても・・・全て仕組まれたものでしたが・・・。」
サシャが口元だけで笑った。ミカは困ったような顔でリオノーラとサシャをかわるがわる見ている。そしてユリウスは、表情も変えず黙々と食事を続けていた。
「ユリウス様は、セテリオス国王の息子・・・第二王妃ソフィア様のお子様で、王国の第二王子です。」
「えっ!?」
リオノーラは驚いた。セテリオス王国に第二王子が居たなんて事は、全く聞いたことが無かったからだ。
リオノーラが貴族の社交界に入った時には、王の子供は正妃の息子で、王太子であるレオンハルト、そして第三王妃のお子であるローシェ王子とエリーナ姫だけだった。
(第二王妃は早くに亡くなられたとしか・・・。)
だとしたら、どうしてユリウスがこのような所にと、リオノーラは不思議に思った。通常なら、城の宮殿で、何不自由ない生活を送っている筈だろう。
その問いに答える様に、サシャは話を続けた。
「6年前、ユリウス様は突然、ベスパの塔に幽閉されました。」
「ええっ!?」
「そして、それを防ごうとした、お母上である第二王妃、そしてその側近、従者、侍女、メイドに至るまで、全ての者が命を奪われました。・・・あなたが処刑されたのと同じ方法で。」
リオノーラは、自分が断頭台に登った時の事を思い出し、ハッとする。そして小刻みに身体が震えだした。
リオノーラはうなされながら目を覚ました。
(ああ・・・いつもの夢・・・。)
そう思って、辺りを見回し、ここが牢の中では無いことに気付く。
「ど、どこ!?ここは・・・あっ」
そうして、自分が目を回して倒れるまでの記憶が、一気に蘇ってきた。リオノーラの顔が真っ赤に染まる。
(あ、あ、あ・・・)
ユリウスにキスされたことも思い出し、リオノーラは恥ずかしさに両手で顔を覆った。
(ど、どうして!?。あんな急に。わ、私・・・。)
ユリウスの柔らかそうな金髪と、透き通った青い目が目の前にちらつく。
(落ち着いて、彼はまだ小さい子共よ。)
唇にされたとは言え、そういうキスでは無い筈・・・。
(天使にキスされたと思えば良いかしら・・・。)
そう思って、リオノーラは自分を納得させた。
ベッドから起き上がり、部屋の様子を見る。
山小屋の一室であろう狭くて簡素な部屋には、ベッド以外の家具が何もなかった。外はどうなんだろうと思い、窓に近づいて手をかけたが、落とし戸は力を込めても上がらなかった。
「窓は開かないよ・・・。」
振り返ると、いつの間にかユリウスが扉を開けて立っていた。
「逃げられたら困るでしょ?。」
「えっ?」
ユリウスはすたすたと近づき、手を伸ばしてリオノーラの頬に触れた。思わず先ほどの事を思い出し、リオノーラはビクッとする。
「安心して。もうキスはしないから。ミカに怒られちゃった。」
と、まるで悪戯を見つかった時の様に、ぺろりと舌を出して肩をすくめる。
「あ、あの・・・?」
リオノーラには色々聞きたい事が頭の中でぐるぐるしていたが、何から聞いて良いのか分からない。
「ご飯にしよう。その時に色々説明するから。」
そう言って、ユリウスはリオノーラの手を引っ張った。
扉を出ると、最初に入った居間のような部屋で、ミカが食べ物をテーブルの上に並べていた。
「あ、リオノーラさん。目が覚めたんすか?」
どこかの露店で買ってきたと思われる、串に刺した肉と、パン。そして袋に入ったままの小さくて固そうなリンゴ。
「貴族のお嬢さんには、物足りないと思うんすけど、こんなもんしか無くて・・・。」
そう、申し訳なさそうに言うので、リオノーラは慌てて両手を上げて振った。
「いえいえ、牢の中の食事と比べたら、大御馳走ですわ!。お気を使わないでください。」
そして、ミカを手伝って取り皿を並べ始めた。その様子を見てミカは、
「ありがとうっす。」
と、ニカッと笑った。
夕食を取り始めてから、リオノーラは恐る恐るユリウスを見た。目が合うと、彼はにっこりと笑い返してくれる。その可愛らしさに思わずドギマギしてしまった。それでもリオノーラは勇気を出して聞いてみた。
「あの・・・、皆様はどうしてユリウス様を殿下とお呼びになっているのでしょう?」
3人の手が一瞬止まって、リオノーラは焦った。何かマズい事を聞いてしまったのだろうか?そう思って、青ざめる。
「あの・・・あの・・・」
すみませんと、謝ろうとしたリオノーラに片手をあげて、サシャが遮った。そして、
「リオノーラ様は今、おいくつですか?」
そう聞いてきた。
「あの・・・、はい。今年で17になりました。」
「17ですか・・・、と言う事は6年前は11歳。ぎりぎり知らなくてもおかしくは無いか・・・。それともゲオルグは、娘には悪行を隠し通しているのかな・・・?。」
悪行と聞いて、リオノーラはドキッとする。なぜならゲオルグとはリオノーラの父の名前だったから。彼が、父の事をゲオルグと、名前で呼び捨てにした事も、リオノーラの不安をあおった。
「聞いていないですか?。6年前の事件を。セテリオス王国建国以来の粛清と言われた大事件です。と言っても・・・全て仕組まれたものでしたが・・・。」
サシャが口元だけで笑った。ミカは困ったような顔でリオノーラとサシャをかわるがわる見ている。そしてユリウスは、表情も変えず黙々と食事を続けていた。
「ユリウス様は、セテリオス国王の息子・・・第二王妃ソフィア様のお子様で、王国の第二王子です。」
「えっ!?」
リオノーラは驚いた。セテリオス王国に第二王子が居たなんて事は、全く聞いたことが無かったからだ。
リオノーラが貴族の社交界に入った時には、王の子供は正妃の息子で、王太子であるレオンハルト、そして第三王妃のお子であるローシェ王子とエリーナ姫だけだった。
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だとしたら、どうしてユリウスがこのような所にと、リオノーラは不思議に思った。通常なら、城の宮殿で、何不自由ない生活を送っている筈だろう。
その問いに答える様に、サシャは話を続けた。
「6年前、ユリウス様は突然、ベスパの塔に幽閉されました。」
「ええっ!?」
「そして、それを防ごうとした、お母上である第二王妃、そしてその側近、従者、侍女、メイドに至るまで、全ての者が命を奪われました。・・・あなたが処刑されたのと同じ方法で。」
リオノーラは、自分が断頭台に登った時の事を思い出し、ハッとする。そして小刻みに身体が震えだした。
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