2 / 30
第一章
1,運命の音
しおりを挟む
リオノーラは牢の中で立っていた・・・。
「ありえない・・・。どうして・・・。」
牢と言っても、いわゆる石壁に鉄格子というものではない。広くは無いし質素ではあるが、部屋にはベッドや家具、洗い場やトイレもが設えられている。部屋が一つの小さな家と言っても良い。ただ唯一、異なっているのは、ドアには厳重に鍵がかけられ、外には出れないと言う事。そして窓にはもちろん鉄格子である。
「戻るなら、もっともっと前にして・・・!」
彼女は椅子にどんっと乱暴に座り、小さなテーブルに肘を乗せた。そして、頭をわしわしとかきむしり、彼女の白に近い灰色の髪が乱れていった。
色の抜けた質素なドレス、髪をとかす歯の抜けた櫛、母の形見の古いバングルだけが、彼女の持ち物だった。
ここはベスパの塔。貴族や王族が罪を犯したときに入れられる場所だ。魔力を持つ貴族が多い事から、魔封じの術も何重にもかけられていると言う。
リオノーラは、この国の聖女を毒殺しようとした罪で断罪され、この牢屋に入れられたのである。
事情聴取も行われず、釈明の場も与えられず、裁判すらも開かれる事が無かった。
そして死ぬまでここを出られないはずだった・・・のだが、
(どうして・・・?、もう3度も・・・。)
彼女は知っていた。1カ月後には新しい判決が下され、そして群衆の前で自分は処刑されることを・・・。
何故なら、彼女はそれを、もう3度も繰り返してきたからだ!
彼女の赤みがかった瞳から、涙が零れ落ちていく。
「お願い!どうせなら、あのお茶会の前まで時を戻して!。そうでないなら、もう楽にさせて・・・。」
リオノーラはそう叫んで、泣きながらベッドに倒れ込んだ。
一度目の処刑の時は、突然だった。リオノーラは何も聞かされず牢から引っ張り出され、公開処刑場で、身に覚えの無い罪状を読み上げられた。そして、問答無用で首を落とされたのだ。普通なら彼女は天に召される筈である。なのに、気が付いたらリオノーラは、一カ月過ごしたこの牢の中に立っていたのだ。
初めは、死んで魂になってここに戻って来たのかと思った。だが、自分に肉体がある事が分かってからは、長い長い白昼夢を見たのだろうかと思った。
そして、看守に日付を聞いて彼女は驚いた。何故ならそれは、最初に牢に入れられた日と同じ日付だったから。
(どういうこと?)
リオノーラは訳が分からなかった。そして毎日が不安だった。
(あれは夢だったの・・・?そんな馬鹿な。だって私はここで暮らした一カ月を覚えている・・・。)
はたして、その一か月後、彼女は再び処刑された。前と全く同じ方法、同じシチュエイションで・・・。
そうしてリオノーラは3度目の最初の日を迎えていた。
(どうして・・・どうして、こんな目に遭うの・・・?)
何度味わっても、処刑される時の恐怖や絶望感は薄れる事が無かった。
(私は何かに呪われているの?。・・・それとも、あまりに理不尽な仕打ちを受けた為に狂ってしまったの・・・?。)
どう考えても答えは出ない。彼女はこの小さな檻で、3度目の処刑を待つしかないのだ。
どれくらい、ベッドに突っ伏していただろう?リオノーラは泣き疲れて眠ってしまっていた。だが、
コツコツと言う、何かを叩くような音で目を覚ました。
(ああ、夕食を持ってきたのかしら・・・。)
食事は日に2度、パンと水、果物等が与えられる。小さなコンロでお茶を沸かすことも出来るが、それだけだ。
いつもは、扉の小さな小窓を開けて、食べ物を受け取るのだが、今日はそんな気にもなれなかった。
(いっそ、このまま餓えて死んでしまったほうが・・・。)
処刑の恐怖を考えると、その方が楽な気がしていた。
だが、よく聴くと、コツコツという音は扉の方からでは無く、ベッドとは反対側にある壁から聞こえてくるのが分かった。
(・・・もしかして、隣に人がいるのかしら?)
この牢獄用に作られた塔は7階建てで、彼女が入れられているのは最上階。
(確か、ここに入れられた時、もう一つ扉があった。)
もしかしたら、他にも投獄されている人がいるのかもしれないと、リオノーラは考えた。
彼女はベッドから立ち上がり、音が聞こえた壁に手を当ててみる。すると向こう側からまた、コツコツと壁を叩くような音が聞こえた。
(やはり誰かいるんだわ。)
ここに来て1カ月・・・いや、正確には2か月の時を過ごした。けれど、他の人が居る気配には、全く気付かなかった。
部屋の壁は、三方は石で出来ている。しかし、この壁だけは何故か木の板が張られていた。木材の壁で部屋を二つに仕切っているというのが正しいかもしれない。
リオノーラは恐る恐る、看守に気付かれないよう、こちらからも壁を叩いてみた。
コッコッコッ
軽い音が響いた。
「ありえない・・・。どうして・・・。」
牢と言っても、いわゆる石壁に鉄格子というものではない。広くは無いし質素ではあるが、部屋にはベッドや家具、洗い場やトイレもが設えられている。部屋が一つの小さな家と言っても良い。ただ唯一、異なっているのは、ドアには厳重に鍵がかけられ、外には出れないと言う事。そして窓にはもちろん鉄格子である。
「戻るなら、もっともっと前にして・・・!」
彼女は椅子にどんっと乱暴に座り、小さなテーブルに肘を乗せた。そして、頭をわしわしとかきむしり、彼女の白に近い灰色の髪が乱れていった。
色の抜けた質素なドレス、髪をとかす歯の抜けた櫛、母の形見の古いバングルだけが、彼女の持ち物だった。
ここはベスパの塔。貴族や王族が罪を犯したときに入れられる場所だ。魔力を持つ貴族が多い事から、魔封じの術も何重にもかけられていると言う。
リオノーラは、この国の聖女を毒殺しようとした罪で断罪され、この牢屋に入れられたのである。
事情聴取も行われず、釈明の場も与えられず、裁判すらも開かれる事が無かった。
そして死ぬまでここを出られないはずだった・・・のだが、
(どうして・・・?、もう3度も・・・。)
彼女は知っていた。1カ月後には新しい判決が下され、そして群衆の前で自分は処刑されることを・・・。
何故なら、彼女はそれを、もう3度も繰り返してきたからだ!
彼女の赤みがかった瞳から、涙が零れ落ちていく。
「お願い!どうせなら、あのお茶会の前まで時を戻して!。そうでないなら、もう楽にさせて・・・。」
リオノーラはそう叫んで、泣きながらベッドに倒れ込んだ。
一度目の処刑の時は、突然だった。リオノーラは何も聞かされず牢から引っ張り出され、公開処刑場で、身に覚えの無い罪状を読み上げられた。そして、問答無用で首を落とされたのだ。普通なら彼女は天に召される筈である。なのに、気が付いたらリオノーラは、一カ月過ごしたこの牢の中に立っていたのだ。
初めは、死んで魂になってここに戻って来たのかと思った。だが、自分に肉体がある事が分かってからは、長い長い白昼夢を見たのだろうかと思った。
そして、看守に日付を聞いて彼女は驚いた。何故ならそれは、最初に牢に入れられた日と同じ日付だったから。
(どういうこと?)
リオノーラは訳が分からなかった。そして毎日が不安だった。
(あれは夢だったの・・・?そんな馬鹿な。だって私はここで暮らした一カ月を覚えている・・・。)
はたして、その一か月後、彼女は再び処刑された。前と全く同じ方法、同じシチュエイションで・・・。
そうしてリオノーラは3度目の最初の日を迎えていた。
(どうして・・・どうして、こんな目に遭うの・・・?)
何度味わっても、処刑される時の恐怖や絶望感は薄れる事が無かった。
(私は何かに呪われているの?。・・・それとも、あまりに理不尽な仕打ちを受けた為に狂ってしまったの・・・?。)
どう考えても答えは出ない。彼女はこの小さな檻で、3度目の処刑を待つしかないのだ。
どれくらい、ベッドに突っ伏していただろう?リオノーラは泣き疲れて眠ってしまっていた。だが、
コツコツと言う、何かを叩くような音で目を覚ました。
(ああ、夕食を持ってきたのかしら・・・。)
食事は日に2度、パンと水、果物等が与えられる。小さなコンロでお茶を沸かすことも出来るが、それだけだ。
いつもは、扉の小さな小窓を開けて、食べ物を受け取るのだが、今日はそんな気にもなれなかった。
(いっそ、このまま餓えて死んでしまったほうが・・・。)
処刑の恐怖を考えると、その方が楽な気がしていた。
だが、よく聴くと、コツコツという音は扉の方からでは無く、ベッドとは反対側にある壁から聞こえてくるのが分かった。
(・・・もしかして、隣に人がいるのかしら?)
この牢獄用に作られた塔は7階建てで、彼女が入れられているのは最上階。
(確か、ここに入れられた時、もう一つ扉があった。)
もしかしたら、他にも投獄されている人がいるのかもしれないと、リオノーラは考えた。
彼女はベッドから立ち上がり、音が聞こえた壁に手を当ててみる。すると向こう側からまた、コツコツと壁を叩くような音が聞こえた。
(やはり誰かいるんだわ。)
ここに来て1カ月・・・いや、正確には2か月の時を過ごした。けれど、他の人が居る気配には、全く気付かなかった。
部屋の壁は、三方は石で出来ている。しかし、この壁だけは何故か木の板が張られていた。木材の壁で部屋を二つに仕切っているというのが正しいかもしれない。
リオノーラは恐る恐る、看守に気付かれないよう、こちらからも壁を叩いてみた。
コッコッコッ
軽い音が響いた。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。


三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる