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第一章
1,運命の音
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リオノーラは牢の中で立っていた・・・。
「ありえない・・・。どうして・・・。」
牢と言っても、いわゆる石壁に鉄格子というものではない。広くは無いし質素ではあるが、部屋にはベッドや家具、洗い場やトイレもが設えられている。部屋が一つの小さな家と言っても良い。ただ唯一、異なっているのは、ドアには厳重に鍵がかけられ、外には出れないと言う事。そして窓にはもちろん鉄格子である。
「戻るなら、もっともっと前にして・・・!」
彼女は椅子にどんっと乱暴に座り、小さなテーブルに肘を乗せた。そして、頭をわしわしとかきむしり、彼女の白に近い灰色の髪が乱れていった。
色の抜けた質素なドレス、髪をとかす歯の抜けた櫛、母の形見の古いバングルだけが、彼女の持ち物だった。
ここはベスパの塔。貴族や王族が罪を犯したときに入れられる場所だ。魔力を持つ貴族が多い事から、魔封じの術も何重にもかけられていると言う。
リオノーラは、この国の聖女を毒殺しようとした罪で断罪され、この牢屋に入れられたのである。
事情聴取も行われず、釈明の場も与えられず、裁判すらも開かれる事が無かった。
そして死ぬまでここを出られないはずだった・・・のだが、
(どうして・・・?、もう3度も・・・。)
彼女は知っていた。1カ月後には新しい判決が下され、そして群衆の前で自分は処刑されることを・・・。
何故なら、彼女はそれを、もう3度も繰り返してきたからだ!
彼女の赤みがかった瞳から、涙が零れ落ちていく。
「お願い!どうせなら、あのお茶会の前まで時を戻して!。そうでないなら、もう楽にさせて・・・。」
リオノーラはそう叫んで、泣きながらベッドに倒れ込んだ。
一度目の処刑の時は、突然だった。リオノーラは何も聞かされず牢から引っ張り出され、公開処刑場で、身に覚えの無い罪状を読み上げられた。そして、問答無用で首を落とされたのだ。普通なら彼女は天に召される筈である。なのに、気が付いたらリオノーラは、一カ月過ごしたこの牢の中に立っていたのだ。
初めは、死んで魂になってここに戻って来たのかと思った。だが、自分に肉体がある事が分かってからは、長い長い白昼夢を見たのだろうかと思った。
そして、看守に日付を聞いて彼女は驚いた。何故ならそれは、最初に牢に入れられた日と同じ日付だったから。
(どういうこと?)
リオノーラは訳が分からなかった。そして毎日が不安だった。
(あれは夢だったの・・・?そんな馬鹿な。だって私はここで暮らした一カ月を覚えている・・・。)
はたして、その一か月後、彼女は再び処刑された。前と全く同じ方法、同じシチュエイションで・・・。
そうしてリオノーラは3度目の最初の日を迎えていた。
(どうして・・・どうして、こんな目に遭うの・・・?)
何度味わっても、処刑される時の恐怖や絶望感は薄れる事が無かった。
(私は何かに呪われているの?。・・・それとも、あまりに理不尽な仕打ちを受けた為に狂ってしまったの・・・?。)
どう考えても答えは出ない。彼女はこの小さな檻で、3度目の処刑を待つしかないのだ。
どれくらい、ベッドに突っ伏していただろう?リオノーラは泣き疲れて眠ってしまっていた。だが、
コツコツと言う、何かを叩くような音で目を覚ました。
(ああ、夕食を持ってきたのかしら・・・。)
食事は日に2度、パンと水、果物等が与えられる。小さなコンロでお茶を沸かすことも出来るが、それだけだ。
いつもは、扉の小さな小窓を開けて、食べ物を受け取るのだが、今日はそんな気にもなれなかった。
(いっそ、このまま餓えて死んでしまったほうが・・・。)
処刑の恐怖を考えると、その方が楽な気がしていた。
だが、よく聴くと、コツコツという音は扉の方からでは無く、ベッドとは反対側にある壁から聞こえてくるのが分かった。
(・・・もしかして、隣に人がいるのかしら?)
この牢獄用に作られた塔は7階建てで、彼女が入れられているのは最上階。
(確か、ここに入れられた時、もう一つ扉があった。)
もしかしたら、他にも投獄されている人がいるのかもしれないと、リオノーラは考えた。
彼女はベッドから立ち上がり、音が聞こえた壁に手を当ててみる。すると向こう側からまた、コツコツと壁を叩くような音が聞こえた。
(やはり誰かいるんだわ。)
ここに来て1カ月・・・いや、正確には2か月の時を過ごした。けれど、他の人が居る気配には、全く気付かなかった。
部屋の壁は、三方は石で出来ている。しかし、この壁だけは何故か木の板が張られていた。木材の壁で部屋を二つに仕切っているというのが正しいかもしれない。
リオノーラは恐る恐る、看守に気付かれないよう、こちらからも壁を叩いてみた。
コッコッコッ
軽い音が響いた。
「ありえない・・・。どうして・・・。」
牢と言っても、いわゆる石壁に鉄格子というものではない。広くは無いし質素ではあるが、部屋にはベッドや家具、洗い場やトイレもが設えられている。部屋が一つの小さな家と言っても良い。ただ唯一、異なっているのは、ドアには厳重に鍵がかけられ、外には出れないと言う事。そして窓にはもちろん鉄格子である。
「戻るなら、もっともっと前にして・・・!」
彼女は椅子にどんっと乱暴に座り、小さなテーブルに肘を乗せた。そして、頭をわしわしとかきむしり、彼女の白に近い灰色の髪が乱れていった。
色の抜けた質素なドレス、髪をとかす歯の抜けた櫛、母の形見の古いバングルだけが、彼女の持ち物だった。
ここはベスパの塔。貴族や王族が罪を犯したときに入れられる場所だ。魔力を持つ貴族が多い事から、魔封じの術も何重にもかけられていると言う。
リオノーラは、この国の聖女を毒殺しようとした罪で断罪され、この牢屋に入れられたのである。
事情聴取も行われず、釈明の場も与えられず、裁判すらも開かれる事が無かった。
そして死ぬまでここを出られないはずだった・・・のだが、
(どうして・・・?、もう3度も・・・。)
彼女は知っていた。1カ月後には新しい判決が下され、そして群衆の前で自分は処刑されることを・・・。
何故なら、彼女はそれを、もう3度も繰り返してきたからだ!
彼女の赤みがかった瞳から、涙が零れ落ちていく。
「お願い!どうせなら、あのお茶会の前まで時を戻して!。そうでないなら、もう楽にさせて・・・。」
リオノーラはそう叫んで、泣きながらベッドに倒れ込んだ。
一度目の処刑の時は、突然だった。リオノーラは何も聞かされず牢から引っ張り出され、公開処刑場で、身に覚えの無い罪状を読み上げられた。そして、問答無用で首を落とされたのだ。普通なら彼女は天に召される筈である。なのに、気が付いたらリオノーラは、一カ月過ごしたこの牢の中に立っていたのだ。
初めは、死んで魂になってここに戻って来たのかと思った。だが、自分に肉体がある事が分かってからは、長い長い白昼夢を見たのだろうかと思った。
そして、看守に日付を聞いて彼女は驚いた。何故ならそれは、最初に牢に入れられた日と同じ日付だったから。
(どういうこと?)
リオノーラは訳が分からなかった。そして毎日が不安だった。
(あれは夢だったの・・・?そんな馬鹿な。だって私はここで暮らした一カ月を覚えている・・・。)
はたして、その一か月後、彼女は再び処刑された。前と全く同じ方法、同じシチュエイションで・・・。
そうしてリオノーラは3度目の最初の日を迎えていた。
(どうして・・・どうして、こんな目に遭うの・・・?)
何度味わっても、処刑される時の恐怖や絶望感は薄れる事が無かった。
(私は何かに呪われているの?。・・・それとも、あまりに理不尽な仕打ちを受けた為に狂ってしまったの・・・?。)
どう考えても答えは出ない。彼女はこの小さな檻で、3度目の処刑を待つしかないのだ。
どれくらい、ベッドに突っ伏していただろう?リオノーラは泣き疲れて眠ってしまっていた。だが、
コツコツと言う、何かを叩くような音で目を覚ました。
(ああ、夕食を持ってきたのかしら・・・。)
食事は日に2度、パンと水、果物等が与えられる。小さなコンロでお茶を沸かすことも出来るが、それだけだ。
いつもは、扉の小さな小窓を開けて、食べ物を受け取るのだが、今日はそんな気にもなれなかった。
(いっそ、このまま餓えて死んでしまったほうが・・・。)
処刑の恐怖を考えると、その方が楽な気がしていた。
だが、よく聴くと、コツコツという音は扉の方からでは無く、ベッドとは反対側にある壁から聞こえてくるのが分かった。
(・・・もしかして、隣に人がいるのかしら?)
この牢獄用に作られた塔は7階建てで、彼女が入れられているのは最上階。
(確か、ここに入れられた時、もう一つ扉があった。)
もしかしたら、他にも投獄されている人がいるのかもしれないと、リオノーラは考えた。
彼女はベッドから立ち上がり、音が聞こえた壁に手を当ててみる。すると向こう側からまた、コツコツと壁を叩くような音が聞こえた。
(やはり誰かいるんだわ。)
ここに来て1カ月・・・いや、正確には2か月の時を過ごした。けれど、他の人が居る気配には、全く気付かなかった。
部屋の壁は、三方は石で出来ている。しかし、この壁だけは何故か木の板が張られていた。木材の壁で部屋を二つに仕切っているというのが正しいかもしれない。
リオノーラは恐る恐る、看守に気付かれないよう、こちらからも壁を叩いてみた。
コッコッコッ
軽い音が響いた。
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