17 / 19
第17話 サシェ作り
しおりを挟む
そして当日。
メアリーと共に孤児院へと訪問し、しばらく子供たちと話をした後、私はある提案をした。
「今からサシェを皆で作ろうと思うの。材料はこちらで全て用意をしてあるわ」
テーブルの上には、サシェ作りに必要なラベンダーなどのハーブや袋、リボンなどが広げてある。
下準備は使用人に任せることが大半なのだけれど、今回は女中たちと一緒にお義母様も下準備を行ってくださったのだ。
「わあ、サシェ作り楽しそう!」
「へえ、こうやるんだ」
皆思い思いに黙々と作業を始めた。
私は、メアリーの隣で作業をしている女の子の手が止まっているのに気がつくと、小声でメアリーに対して耳打ちをした。
「隣の女の子を手伝ってあげて欲しいの」
「何故、私がやらなけばならばいのかしら」
「メアリーは調香が得意なのでしょう? あなたなら上手に教えられると思って」
「それはそうだけれど……」
メアリーは小さく息を吐くと、軽く頬を指で撫でてから隣の席の女の子に声をかけた。
「ねえ、やり方が分からないの?」
「うん。……お、お嬢様……⁉︎ ご、ごめんなさい!」
まだ十歳にもならないくらいの栗色の髪の女の子は、メアリーに対して身体を震わせている。明らかに怖がっているようね。
けれど、気楽に受け答えた相手が貴族であったから驚くのは無理もないし心配だわ。
「謝らないで。それより」
メアリーは不織布袋を広げて、ハーブやドライフラワーが載ったお皿を運んできた。
「ねえ、どんな香りが好きなの?」
「わ、私ですか?」
「他に誰がいるというのかしら」
「え、えっと」
怯えている女の子を手助けしようと立ち上がると、丁度、ほぼ同時にその女の子が声を上げる。
「私は……えっと……、あ! あのお花の香りが好きです」
「ああ、マリーゴールドね。それなら……」
メアリーは慣れた手つきで、空の小皿にマリーゴールドのドライハーブと香油の入った小瓶をいくつか取り出した。
「ドライハーブだけでは弱いから、香油も使うと良いわね。何種類か見繕ってみたから好きな物を選ぶといいわ」
「わあ……!」
女の子は目を輝かせた。
メアリーは相変わらず無愛想で言い方も決して優しくはないけれど、それでも屋敷にいた時よりも幾分か顔色が良くなったように見える。
そしてサシェは完成し、女の子は笑顔でメアリーと私に対して深くお辞儀をした。
「本当にありがとうございました。とっても良い香りで身につけるのが楽しみです。私の宝物にします!」
「そんな大層なことはしていないわ」
「いいえ、その……とても親切にしてれて、本当にありがとうございました!」
そう言って女の子は再び深くお辞儀をすると、軽い足取りで退室して行った。
メアリーと共に孤児院へと訪問し、しばらく子供たちと話をした後、私はある提案をした。
「今からサシェを皆で作ろうと思うの。材料はこちらで全て用意をしてあるわ」
テーブルの上には、サシェ作りに必要なラベンダーなどのハーブや袋、リボンなどが広げてある。
下準備は使用人に任せることが大半なのだけれど、今回は女中たちと一緒にお義母様も下準備を行ってくださったのだ。
「わあ、サシェ作り楽しそう!」
「へえ、こうやるんだ」
皆思い思いに黙々と作業を始めた。
私は、メアリーの隣で作業をしている女の子の手が止まっているのに気がつくと、小声でメアリーに対して耳打ちをした。
「隣の女の子を手伝ってあげて欲しいの」
「何故、私がやらなけばならばいのかしら」
「メアリーは調香が得意なのでしょう? あなたなら上手に教えられると思って」
「それはそうだけれど……」
メアリーは小さく息を吐くと、軽く頬を指で撫でてから隣の席の女の子に声をかけた。
「ねえ、やり方が分からないの?」
「うん。……お、お嬢様……⁉︎ ご、ごめんなさい!」
まだ十歳にもならないくらいの栗色の髪の女の子は、メアリーに対して身体を震わせている。明らかに怖がっているようね。
けれど、気楽に受け答えた相手が貴族であったから驚くのは無理もないし心配だわ。
「謝らないで。それより」
メアリーは不織布袋を広げて、ハーブやドライフラワーが載ったお皿を運んできた。
「ねえ、どんな香りが好きなの?」
「わ、私ですか?」
「他に誰がいるというのかしら」
「え、えっと」
怯えている女の子を手助けしようと立ち上がると、丁度、ほぼ同時にその女の子が声を上げる。
「私は……えっと……、あ! あのお花の香りが好きです」
「ああ、マリーゴールドね。それなら……」
メアリーは慣れた手つきで、空の小皿にマリーゴールドのドライハーブと香油の入った小瓶をいくつか取り出した。
「ドライハーブだけでは弱いから、香油も使うと良いわね。何種類か見繕ってみたから好きな物を選ぶといいわ」
「わあ……!」
女の子は目を輝かせた。
メアリーは相変わらず無愛想で言い方も決して優しくはないけれど、それでも屋敷にいた時よりも幾分か顔色が良くなったように見える。
そしてサシェは完成し、女の子は笑顔でメアリーと私に対して深くお辞儀をした。
「本当にありがとうございました。とっても良い香りで身につけるのが楽しみです。私の宝物にします!」
「そんな大層なことはしていないわ」
「いいえ、その……とても親切にしてれて、本当にありがとうございました!」
そう言って女の子は再び深くお辞儀をすると、軽い足取りで退室して行った。
0
お気に入りに追加
220
あなたにおすすめの小説
【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢
美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」
かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。
誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。
そこで彼女はある1人の人物と出会う。
彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。
ーー蜂蜜みたい。
これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。
手のひら返しが凄すぎて引くんですけど
マルローネ
恋愛
男爵令嬢のエリナは侯爵令息のクラウドに婚約破棄をされてしまった。
地位が低すぎるというのがその理由だったのだ。
悲しみに暮れたエリナは新しい恋に生きることを誓った。
新しい相手も見つかった時、侯爵令息のクラウドが急に手のひらを返し始める。
その理由はエリナの父親の地位が急に上がったのが原因だったのだが……。
【 完結 】「平民上がりの庶子」と言っただなんて誰が言ったんですか?悪い冗談はやめて下さい!
しずもり
恋愛
ここはチェン王国の貴族子息子女が通う王立学園の食堂だ。確かにこの時期は夜会や学園行事など無い。でもだからってこの国の第二王子が側近候補たちと男爵令嬢を右腕にぶら下げていきなり婚約破棄を宣言しちゃいますか。そうですか。
お昼休憩って案外と短いのですけど、私、まだお昼食べていませんのよ?
突然、婚約破棄を宣言されたのはチェン王国第二王子ヴィンセントの婚約者マリア・べルージュ公爵令嬢だ。彼女はいつも一緒に行動をしているカミラ・ワトソン伯爵令嬢、グレイシー・テネート子爵令嬢、エリザベス・トルーヤ伯爵令嬢たちと昼食を取る為食堂の席に座った所だった。
そこへ現れたのが側近候補と男爵令嬢を連れた第二王子ヴィンセントでマリアを見つけるなり書類のような物をテーブルに叩きつけたのだった。
よくある婚約破棄モノになりますが「ざまぁ」は微ざまぁ程度です。
*なんちゃって異世界モノの緩い設定です。
*登場人物の言葉遣い等(特に心の中での言葉)は現代風になっている事が多いです。
*ざまぁ、は微ざまぁ、になるかなぁ?ぐらいの要素しかありません。
【完結】美しい人。
❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」
「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」
「ねえ、返事は。」
「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」
彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。
婚約者に嫌われた伯爵令嬢は努力を怠らなかった
有川カナデ
恋愛
オリヴィア・ブレイジャー伯爵令嬢は、未来の公爵夫人を夢見て日々努力を重ねていた。その努力の方向が若干捻れていた頃、最愛の婚約者の口から拒絶の言葉を聞く。
何もかもが無駄だったと嘆く彼女の前に現れた、平民のルーカス。彼の助言のもと、彼女は変わる決意をする。
諸々ご都合主義、気軽に読んでください。数話で完結予定です。
殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。
真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。
そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが…
7万文字くらいのお話です。
よろしくお願いいたしますm(__)m
ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?
望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。
ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。
転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを――
そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。
その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。
――そして、セイフィーラは見てしまった。
目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を――
※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。
※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)
【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く
とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。
まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。
しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。
なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう!
そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。
しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。
すると彼に
「こんな遺書じゃダメだね」
「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」
と思いっきりダメ出しをされてしまった。
それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。
「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」
これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。
そんなお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる