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第16話 提案
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あれから妹のメアリーは、実家で半年程謹慎をして過ごしていた。
それに対して、妹はとても不満だったらしく毎日不平を漏らしていたらしいけれど、両親が厳しく接した甲斐もあり最近では態度が大分改まったらしい。
また「魅惑の香水」は、最近王都で流行っているレシピで、人の心を惑わす効果がある香水だと聞いた。
それは難しい手順を踏まなくても、調香の基本の技術さえ身についていれば大方の人なら作れてしまうようなのだ。
そのため最近王都では、魅惑の香水を使用した事件が増えていて、元々法官であるロラン様の部署にも予てから問い合せがあり、そのためにあの時に強めの香水が振りかけてあった便箋が「魅惑の香水」なのではと、私に婚約破棄を告げたあの日に思い至ったのことだった。
魅惑の香水を作ったり使用すること自体は今のところ、法を犯すことではないのだけれど、世間で危険な代物だと言う認識が強まり、近々香水自体が取り締られて法的に整備もされていくらしい。
また、ロラン様がナイズリー家の毎年恒例のパーティーの規模を縮小して行った「メアリーの誘導作戦」は功を奏し、メアリーは殆ど周囲の人たちに悟られることなく王宮の司法部へと連れていかれ、一週間ほど事情聴取を行った後に解放されたのだった。
けれど今だに謹慎は継続していて、メアリーは両親の許可がなければ自由に外出することができないらしい。
「メアリー」
「……お姉様」
今日は、先日に私から手紙で訪問すると伝え、侯爵であられるお義父様に許可をいただいた上で一時的に実家にと戻ってきていた。
室内は窓が開けられていて新鮮な空気が常に入り込んで爽快なはずなのに、どこか澱んでいるように感じられる。それはメアリーの周囲の空気が重いからなのだろうか。
「久しぶりね。結婚式以来かしら」
「ええ……」
メアリーは簡素なベージュのデイドレスを身につけていて、近づいても以前のような香水の香りは漂わなかった。
「元気そうで安心したわ」
「ええ。……それで、今日は何の要件で来たのかしら」
その表情には力がなく、私を見るその目もどこか虚ろだった。
「今日はメアリーに会いに来たのよ」
「私は望んでいないわ」
「そう……」
メアリーは随分と反省したとのことだったけれど、流石に私への対応はあまり変わっていないように感じた。
けれどそれも無理がないのかもしれない。何しろ例のパーティー以降、メアリーとは碌に会ったり会話をしていないのもあり、空いてしまった溝はそのままなのだから。結婚式の時ですら殆ど会話が出来なかった程だし……。
「そう言えばロバーツ卿には、キチンと謝罪をしたとのことだったわね」
「……ええ」
「全く関係のないロバーツ卿を巻き込んだのですからね」
ロバーツ卿は私たちの姉であるミラお姉様の婿、つまりアンリ小男爵の友人だった。
メアリーは、以前に我が家で開いたパーティーにご参加いただいた際にロバーツ卿と会話を交わしていたらしい。
後に使用人に住所等を調べさせて、代筆業者に書かせた例の封書を送ったとのことだった。
「……とても申し訳ないことをしたと、思っているわ」
「そう思っているのなら、こちらに参加してもらえないかしら」
「……何?」
私が差し出した封筒を怪訝な表情で受けとると、メアリーは無造作に中身を取り出した。それはメッセージカードで、ある事柄が書き込まれている。
「……孤児院の訪問?」
「ええ。慈善活動を行うことは、貴族の大切な努めの一つですからね。以前にはよくメアリーも一緒に訪問していたでしょう? 既にお父様の許可も取ってあるから」
メアリーの謹慎は近日中に解かれるとのことだったけれど、今回は特別に外出の許可を前もってお父様に交渉して取っておいたのだ。
「どうしても行かなくてはいけないの?」
「ええ、お父様も是非参加するようにと仰っていたわ」
「そんなの強制じゃない」
メアリーは唇を尖らせていたけれど、どうにか承諾をさせることができたのだった。
それに対して、妹はとても不満だったらしく毎日不平を漏らしていたらしいけれど、両親が厳しく接した甲斐もあり最近では態度が大分改まったらしい。
また「魅惑の香水」は、最近王都で流行っているレシピで、人の心を惑わす効果がある香水だと聞いた。
それは難しい手順を踏まなくても、調香の基本の技術さえ身についていれば大方の人なら作れてしまうようなのだ。
そのため最近王都では、魅惑の香水を使用した事件が増えていて、元々法官であるロラン様の部署にも予てから問い合せがあり、そのためにあの時に強めの香水が振りかけてあった便箋が「魅惑の香水」なのではと、私に婚約破棄を告げたあの日に思い至ったのことだった。
魅惑の香水を作ったり使用すること自体は今のところ、法を犯すことではないのだけれど、世間で危険な代物だと言う認識が強まり、近々香水自体が取り締られて法的に整備もされていくらしい。
また、ロラン様がナイズリー家の毎年恒例のパーティーの規模を縮小して行った「メアリーの誘導作戦」は功を奏し、メアリーは殆ど周囲の人たちに悟られることなく王宮の司法部へと連れていかれ、一週間ほど事情聴取を行った後に解放されたのだった。
けれど今だに謹慎は継続していて、メアリーは両親の許可がなければ自由に外出することができないらしい。
「メアリー」
「……お姉様」
今日は、先日に私から手紙で訪問すると伝え、侯爵であられるお義父様に許可をいただいた上で一時的に実家にと戻ってきていた。
室内は窓が開けられていて新鮮な空気が常に入り込んで爽快なはずなのに、どこか澱んでいるように感じられる。それはメアリーの周囲の空気が重いからなのだろうか。
「久しぶりね。結婚式以来かしら」
「ええ……」
メアリーは簡素なベージュのデイドレスを身につけていて、近づいても以前のような香水の香りは漂わなかった。
「元気そうで安心したわ」
「ええ。……それで、今日は何の要件で来たのかしら」
その表情には力がなく、私を見るその目もどこか虚ろだった。
「今日はメアリーに会いに来たのよ」
「私は望んでいないわ」
「そう……」
メアリーは随分と反省したとのことだったけれど、流石に私への対応はあまり変わっていないように感じた。
けれどそれも無理がないのかもしれない。何しろ例のパーティー以降、メアリーとは碌に会ったり会話をしていないのもあり、空いてしまった溝はそのままなのだから。結婚式の時ですら殆ど会話が出来なかった程だし……。
「そう言えばロバーツ卿には、キチンと謝罪をしたとのことだったわね」
「……ええ」
「全く関係のないロバーツ卿を巻き込んだのですからね」
ロバーツ卿は私たちの姉であるミラお姉様の婿、つまりアンリ小男爵の友人だった。
メアリーは、以前に我が家で開いたパーティーにご参加いただいた際にロバーツ卿と会話を交わしていたらしい。
後に使用人に住所等を調べさせて、代筆業者に書かせた例の封書を送ったとのことだった。
「……とても申し訳ないことをしたと、思っているわ」
「そう思っているのなら、こちらに参加してもらえないかしら」
「……何?」
私が差し出した封筒を怪訝な表情で受けとると、メアリーは無造作に中身を取り出した。それはメッセージカードで、ある事柄が書き込まれている。
「……孤児院の訪問?」
「ええ。慈善活動を行うことは、貴族の大切な努めの一つですからね。以前にはよくメアリーも一緒に訪問していたでしょう? 既にお父様の許可も取ってあるから」
メアリーの謹慎は近日中に解かれるとのことだったけれど、今回は特別に外出の許可を前もってお父様に交渉して取っておいたのだ。
「どうしても行かなくてはいけないの?」
「ええ、お父様も是非参加するようにと仰っていたわ」
「そんなの強制じゃない」
メアリーは唇を尖らせていたけれど、どうにか承諾をさせることができたのだった。
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