77 / 96
第3部 幸せのために
理由
しおりを挟む
「……実は、わたくしの実家のバーラ侯爵家は古来から魔法使いを多く輩出している家門なのです。残念ながら、わたくしにはほとんど魔法の才能は受け継がれませんでしたが」
リリーは意を決したように続ける。
「先ほどの白光は、我が家に伝わる文献に書かれていた創造の力と特徴が一致いたしましたし、その力を使用できるのは女性のみと記述がありましたので、クレア様がお使いにになられたと推測をいたしました」
リリーの話によると、理由は不明だが魔法の光は大方「青色」であるようだ。
「創造の力とは……どのような魔法なのでしょうか」
と言っても、その名称から安易に想像することはできた。
「今、この場所で申し上げるのはいささか不安なのですが」
「ならば、完全に人払いをしよう」
アーサーが軽く右手を上げると同時に何処からか黒の装束を身につけた、以前アーサーにクロと呼ばれた男性が現れた。
「はっ」
「……先ほどの光の件だが、他言無用にするように」
「御意」
クロは表情を変えずに、ただ淡々とアーサーの指示を待っているようだ。
「それから、私の指示があるまで人払いを頼む」
「御意」
なんの感情も含まれない淡々とした口調で告げると、次の瞬間にはクロの姿は消えていた。
「確かな史実が載っている文献はほとんど残っていないのですが、創造の力は正確にいうと魔法ではありません」
「魔法では、ない?」
「はい」
リリーは何故か少し憂いを秘めた瞳で、クレアに視線を向けた。
「魔法は体内の魔力を利用して使うもの。ですが創造の力は……」
どうやら、この先の言葉を紡ぐのをリリーは躊躇しているようだ。
「どのような内容でも構わない。打ち明けて欲しい」
「はい。承知いたしました」
リリーはクレアを真っ直ぐに見つめた。
「創造の力は、『負の因子』を利用して発動するものと聞き及んでおります」
聞き慣れない言葉に、思わず固まってしまう。
「負の因子?」
「はい」
リリーの話によると、負の因子とはつまり、人が日常的に感じた様々な負の出来事が心に蓄積されたものだそうだ。
「負の出来事……」
負の出来事とは、「人から暴言を浴びせられる、満足な衣食住を提供してされない、人として尊重されない、虐げられる」等であると、リリーは遠慮がちに説明をした。
やけに具体的なのは、もしかしたら彼女に意図があってのことなのかもしれない。
「それって、まさに私がこれまで受けてきたことですね……」
クレアは呟くと、涙が込み上げてくる。
同時に、これまでクレアが理不尽な目に遭わされていたのは、その負の因子とやらを溜め込ませるためなのではと思い至る。
瞬間、クレアの心中に脱力感と怒りが渦巻いた。
「まさか、私がこれまで虐げられてきたのは……このためだったの……」
おそらく皇帝は全てを知っていたのだ。クレアに理不尽な想いを抱かせて長年負の因子を溜め込ませ創造の力を使わせる。
それこそが皇帝の狙いだったのではと思った。
「人のことを、一体なんだと……」
クレアは脱力して座り込みそうになるが、気が付いたらアーサーにそっと手首を掴まれてその胸に抱きしめられていた。
リリーは意を決したように続ける。
「先ほどの白光は、我が家に伝わる文献に書かれていた創造の力と特徴が一致いたしましたし、その力を使用できるのは女性のみと記述がありましたので、クレア様がお使いにになられたと推測をいたしました」
リリーの話によると、理由は不明だが魔法の光は大方「青色」であるようだ。
「創造の力とは……どのような魔法なのでしょうか」
と言っても、その名称から安易に想像することはできた。
「今、この場所で申し上げるのはいささか不安なのですが」
「ならば、完全に人払いをしよう」
アーサーが軽く右手を上げると同時に何処からか黒の装束を身につけた、以前アーサーにクロと呼ばれた男性が現れた。
「はっ」
「……先ほどの光の件だが、他言無用にするように」
「御意」
クロは表情を変えずに、ただ淡々とアーサーの指示を待っているようだ。
「それから、私の指示があるまで人払いを頼む」
「御意」
なんの感情も含まれない淡々とした口調で告げると、次の瞬間にはクロの姿は消えていた。
「確かな史実が載っている文献はほとんど残っていないのですが、創造の力は正確にいうと魔法ではありません」
「魔法では、ない?」
「はい」
リリーは何故か少し憂いを秘めた瞳で、クレアに視線を向けた。
「魔法は体内の魔力を利用して使うもの。ですが創造の力は……」
どうやら、この先の言葉を紡ぐのをリリーは躊躇しているようだ。
「どのような内容でも構わない。打ち明けて欲しい」
「はい。承知いたしました」
リリーはクレアを真っ直ぐに見つめた。
「創造の力は、『負の因子』を利用して発動するものと聞き及んでおります」
聞き慣れない言葉に、思わず固まってしまう。
「負の因子?」
「はい」
リリーの話によると、負の因子とはつまり、人が日常的に感じた様々な負の出来事が心に蓄積されたものだそうだ。
「負の出来事……」
負の出来事とは、「人から暴言を浴びせられる、満足な衣食住を提供してされない、人として尊重されない、虐げられる」等であると、リリーは遠慮がちに説明をした。
やけに具体的なのは、もしかしたら彼女に意図があってのことなのかもしれない。
「それって、まさに私がこれまで受けてきたことですね……」
クレアは呟くと、涙が込み上げてくる。
同時に、これまでクレアが理不尽な目に遭わされていたのは、その負の因子とやらを溜め込ませるためなのではと思い至る。
瞬間、クレアの心中に脱力感と怒りが渦巻いた。
「まさか、私がこれまで虐げられてきたのは……このためだったの……」
おそらく皇帝は全てを知っていたのだ。クレアに理不尽な想いを抱かせて長年負の因子を溜め込ませ創造の力を使わせる。
それこそが皇帝の狙いだったのではと思った。
「人のことを、一体なんだと……」
クレアは脱力して座り込みそうになるが、気が付いたらアーサーにそっと手首を掴まれてその胸に抱きしめられていた。
0
お気に入りに追加
1,839
あなたにおすすめの小説

【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません
ゆうき
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。
そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。
婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。
どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。
実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。
それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。
これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。
☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆

【完結済】どうして無能な私を愛してくれるの?~双子の妹に全て劣り、婚約者を奪われた男爵令嬢は、侯爵子息様に溺愛される~
ゆうき
恋愛
優秀な双子の妹の足元にも及ばない男爵令嬢のアメリアは、屋敷ではいない者として扱われ、話しかけてくる数少ない人間である妹には馬鹿にされ、母には早く出て行けと怒鳴られ、学園ではいじめられて生活していた。
長年に渡って酷い仕打ちを受けていたアメリアには、侯爵子息の婚約者がいたが、妹に奪われて婚約破棄をされてしまい、一人ぼっちになってしまっていた。
心が冷え切ったアメリアは、今の生活を受け入れてしまっていた。
そんな彼女には魔法薬師になりたいという目標があり、虐げられながらも勉強を頑張る毎日を送っていた。
そんな彼女のクラスに、一人の侯爵子息が転校してきた。
レオと名乗った男子生徒は、何故かアメリアを気にかけて、アメリアに積極的に話しかけてくるようになった。
毎日のように話しかけられるようになるアメリア。その溺愛っぷりにアメリアは戸惑い、少々困っていたが、段々と自分で気づかないうちに、彼の優しさに惹かれていく。
レオと一緒にいるようになり、次第に打ち解けて心を許すアメリアは、レオと親密な関係になっていくが、アメリアを馬鹿にしている妹と、その友人がそれを許すはずもなく――
これは男爵令嬢であるアメリアが、とある秘密を抱える侯爵子息と幸せになるまでの物語。
※こちらの作品はなろう様にも投稿しております!3/8に女性ホットランキング二位になりました。読んでくださった方々、ありがとうございます!

【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜
ゆうき
恋愛
とある子爵家の長女であるエルミーユは、家長の父と使用人の母から生まれたことと、常人離れした記憶力を持っているせいで、幼い頃から家族に嫌われ、酷い暴言を言われたり、酷い扱いをされる生活を送っていた。
エルミーユには、十歳の時に決められた婚約者がおり、十八歳になったら家を出て嫁ぐことが決められていた。
地獄のような家を出るために、なにをされても気丈に振舞う生活を送り続け、無事に十八歳を迎える。
しかし、まだ婚約者がおらず、エルミーユだけ結婚するのが面白くないと思った、ワガママな異母妹の策略で騙されてしまった婚約者に、婚約破棄を突き付けられてしまう。
突然結婚の話が無くなり、落胆するエルミーユは、とあるパーティーで伯爵家の若き家長、ブラハルトと出会う。
社交界では彼の恐ろしい噂が流れており、彼は孤立してしまっていたが、少し話をしたエルミーユは、彼が噂のような恐ろしい人ではないと気づき、一緒にいてとても居心地が良いと感じる。
そんなブラハルトと、互いの結婚事情について話した後、互いに利益があるから、婚約しようと持ち出される。
喜んで婚約を受けるエルミーユに、ブラハルトは思わぬことを口にした。それは、エルミーユのことは愛さないというものだった。
それでも全然構わないと思い、ブラハルトとの生活が始まったが、愛さないという話だったのに、なぜか溺愛されてしまい……?
⭐︎全56話、最終話まで予約投稿済みです。小説家になろう様にも投稿しております。2/16女性HOTランキング1位ありがとうございます!⭐︎

王宮で虐げられた令嬢は追放され、真実の愛を知る~あなた方はもう家族ではありません~
葵 すみれ
恋愛
「お姉さま、ずるい! どうしてお姉さまばっかり!」
男爵家の庶子であるセシールは、王女付きの侍女として選ばれる。
ところが、実際には王女や他の侍女たちに虐げられ、庭園の片隅で泣く毎日。
それでも家族のためだと耐えていたのに、何故か太り出して醜くなり、豚と罵られるように。
とうとう侍女の座を妹に奪われ、嘲笑われながら城を追い出されてしまう。
あんなに尽くした家族からも捨てられ、セシールは街をさまよう。
力尽きそうになったセシールの前に現れたのは、かつて一度だけ会った生意気な少年の成長した姿だった。
そして健康と美しさを取り戻したセシールのもとに、かつての家族の変わり果てた姿が……
※小説家になろうにも掲載しています

王太子殿下が私を諦めない
風見ゆうみ
恋愛
公爵令嬢であるミア様の侍女である私、ルルア・ウィンスレットは伯爵家の次女として生まれた。父は姉だけをバカみたいに可愛がるし、姉は姉で私に婚約者が決まったと思ったら、婚約者に近付き、私から奪う事を繰り返していた。
今年でもう21歳。こうなったら、一生、ミア様の侍女として生きる、と決めたのに、幼なじみであり俺様系の王太子殿下、アーク・ミドラッドから結婚を申し込まれる。
きっぱりとお断りしたのに、アーク殿下はなぜか諦めてくれない。
どうせ、姉にとられるのだから、最初から姉に渡そうとしても、なぜか、アーク殿下は私以外に興味を示さない? 逆に自分に興味を示さない彼に姉が恋におちてしまい…。
※史実とは関係ない、異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。

婚約破棄はこちらからお願いしたいのですが、創造スキルの何がいけないのでしょう?
ゆずこしょう
恋愛
「本日でメレナーデ・バイヤーとは婚約破棄し、オレリー・カシスとの婚約をこの場で発表する。」
カルーア国の建国祭最終日の夜会で大事な話があると集められた貴族たちを前にミル・カルーア王太子はメレアーデにむかって婚約破棄を言い渡した。

つかぬことをお伺いいたしますが、私はお飾りの妻ですよね?
蓮
恋愛
少しネガティブな天然鈍感辺境伯令嬢と目つきが悪く恋愛に関してはポンコツコミュ障公爵令息のコミュニケーションエラー必至の爆笑(?)すれ違いラブコメ!
ランツベルク辺境伯令嬢ローザリンデは優秀な兄弟姉妹に囲まれて少し自信を持てずにいた。そんなローザリンデを夜会でエスコートしたいと申し出たのはオルデンブルク公爵令息ルートヴィヒ。そして複数回のエスコートを経て、ルートヴィヒとの結婚が決まるローザリンデ。しかし、ルートヴィヒには身分違いだが恋仲の女性がいる噂をローザリンデは知っていた。
エーベルシュタイン女男爵であるハイデマリー。彼女こそ、ルートヴィヒの恋人である。しかし上級貴族と下級貴族の結婚は許されていない上、ハイデマリーは既婚者である。
ローザリンデは自分がお飾りの妻だと理解した。その上でルートヴィヒとの結婚を受け入れる。ランツベルク家としても、筆頭公爵家であるオルデンブルク家と繋がりを持てることは有益なのだ。
しかし結婚後、ルートヴィヒの様子が明らかにおかしい。ローザリンデはルートヴィヒからお菓子、花、アクセサリー、更にはドレスまでことあるごとにプレゼントされる。プレゼントの量はどんどん増える。流石にこれはおかしいと思ったローザリンデはある日の夜会で聞いてみる。
「つかぬことをお伺いいたしますが、私はお飾りの妻ですよね?」
するとルートヴィヒからは予想外の返事があった。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

こんなはずではなかったと、泣きつかれても遅いのですが?
ルイス
恋愛
世界には二つの存在しか居ない、と本気で思っている婚約者のアレク・ボゴス侯爵。愛する者とそれ以外の者だ。
私は彼の婚約者だったけど、愛する者にはなれなかった。アレク・ボゴス侯爵は幼馴染のエリーに釘付けだったから。
だから、私たちは婚約を解消することになった。これで良かったんだ……。
ところが、アレク・ボゴス侯爵は私に泣きついて来るようになる。こんなはずではなかった! と。いえ、もう遅いのですが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる