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第3部 幸せのために

理由

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「……実は、わたくしの実家のバーラ侯爵家は古来から魔法使いを多く輩出している家門なのです。残念ながら、わたくしにはほとんど魔法の才能は受け継がれませんでしたが」

 リリーは意を決したように続ける。

「先ほどの白光は、我が家に伝わる文献に書かれていた創造の力と特徴が一致いたしましたし、その力を使用できるのは女性のみと記述がありましたので、クレア様がお使いにになられたと推測をいたしました」

 リリーの話によると、理由は不明だが魔法の光は大方「青色」であるようだ。

「創造の力とは……どのような魔法なのでしょうか」

 と言っても、その名称から安易に想像することはできた。

「今、この場所で申し上げるのはいささか不安なのですが」
「ならば、完全に人払いをしよう」

 アーサーが軽く右手を上げると同時に何処からか黒の装束を身につけた、以前アーサーにクロと呼ばれた男性が現れた。

「はっ」
「……先ほどの光の件だが、他言無用にするように」
「御意」

 クロは表情を変えずに、ただ淡々とアーサーの指示を待っているようだ。

「それから、私の指示があるまで人払いを頼む」
「御意」

 なんの感情も含まれない淡々とした口調で告げると、次の瞬間にはクロの姿は消えていた。

「確かな史実が載っている文献はほとんど残っていないのですが、創造の力は正確にいうと魔法ではありません」
「魔法では、ない?」
「はい」

 リリーは何故か少し憂いを秘めた瞳で、クレアに視線を向けた。

「魔法は体内の魔力を利用して使うもの。ですが創造の力は……」

 どうやら、この先の言葉を紡ぐのをリリーは躊躇しているようだ。

「どのような内容でも構わない。打ち明けて欲しい」
「はい。承知いたしました」

 リリーはクレアを真っ直ぐに見つめた。

「創造の力は、『負の因子』を利用して発動するものと聞き及んでおります」

 聞き慣れない言葉に、思わず固まってしまう。

「負の因子?」
「はい」

 リリーの話によると、負の因子とはつまり、人が日常的に感じた様々な負の出来事が心に蓄積されたものだそうだ。

「負の出来事……」

 負の出来事とは、「人から暴言を浴びせられる、満足な衣食住を提供してされない、人として尊重されない、虐げられる」等であると、リリーは遠慮がちに説明をした。
 やけに具体的なのは、もしかしたら彼女に意図があってのことなのかもしれない。

「それって、まさに私がこれまで受けてきたことですね……」

 クレアは呟くと、涙が込み上げてくる。
 同時に、これまでクレアが理不尽な目に遭わされていたのは、その負の因子とやらを溜め込ませるためなのではと思い至る。

 瞬間、クレアの心中に脱力感と怒りが渦巻いた。

「まさか、私がこれまで虐げられてきたのは……このためだったの……」

 おそらく皇帝は全てを知っていたのだ。クレアに理不尽な想いを抱かせて長年負の因子を溜め込ませ創造の力を使わせる。
 それこそが皇帝の狙いだったのではと思った。

「人のことを、一体なんだと……」

 クレアは脱力して座り込みそうになるが、気が付いたらアーサーにそっと手首を掴まれてその胸に抱きしめられていた。
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