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第3部 幸せのために

糸が解けていくような感覚

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「──申し訳ございません」

 物陰から現れたのは、クレアの侍女であるリリーであった。
 リリーはクレアがアーサーと庭園を散策している様を遠くから眺め二人に不穏な事態が起きていないかを常にチェックしていたはずだ。

 リリーは深く頭を垂れ、自発的には一言も発しなかった。

「頭を上げてよい」
「はい。ありがとうございます、殿下」

 瞬間、クレアは顔色が蒼白になり自分自身が血の気が引いていくのを認識した。

(先ほどの光を……リリーに見られてしまったわ…。どうしましょう、なんて説明をすればよいのか……」

 アーサーはチラリとクレアの方に視線を向けると、小さく頷く。

「先ほどの光を見たか」
「……はい」
「そうか」

 ここで、下手に誤魔化すことはあまり得策とはいえないだろう。
 何よりもアーサーは敢えて「光をみたか」と具体的に聞いたのだ。それを誤魔化すことは虚偽の申告をするということとなり、リリーの立場が悪くなることに繋がりかねないからだ。

 アーサーはそれは分かっているのだろうが、状況が状況なだけに白黒ハッキリとさせたいのだろう。

「……ここで見たことは他言無用だ。分かれば行ってよい」

 クレアは思わずアーサーの方に視線を向けた。
 アーサーはリリーに特になんのペナルティを負わせず解放すると言ったのだ。それはおそらくリリーならば信用に足りると判断したからなのだろう。

 リリーは一礼をしてから立ち去ろうとしたが、立ち止まってクルリとこちらへと向き直した。

「失礼を重々承知の上で、お伺いをしたいことがございます」

 アーサーは真っ直ぐとリリーに視線を向けた。リリーは顔を背けはしなかったが、緊張をしているのか全身が小刻みに震えている。

「なんだ」
「……クレア様は、『創造の力』をお使いになられるのでしょうか」

 リリーの言葉の意味をどう受け取ってよいのかが分からず、クレアはしばらく身を固めていたが、「創造」という言葉が徐々に飲み込めてくると、何か自分の中で絡まっていた糸が解けていくような感覚を覚えたのだった。
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