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第2部 自由

心からの叫び

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「生意気な、妾の子の分際で」

 クレアの心中で長いこと渦巻いていた感情が、ブルーノが投げかけた言葉により明確に姿を現した。
 自覚した途端、(ああ、そういうことだったのね)とクレアは妙に冷静に納得した。

「ひとつ、よろしいでしょうか」

 そうは言ったが、ブルーノの様子ではクレアに発言権が与えられるとはとても思えないのでブルーノの返答を待たずに口を開く。

「妾の子であることは、何か悪いことなのでしょうか」
「何っ⁉︎」

 ブルーノは勢いよく立ち上がり、大きく目を見開いた。だがクレアは物おじせずに真っ直ぐ彼の瞳を見た。

「そもそも、皇家の血を絶やさないために、皇帝は正妃以外の妃を娶っているはずです。それなのに正妃以外の子供は認めないというのは、皇族として如何なものかと」

 それは、クレアの心の中の叫びだった。
 クレアは、成長するにつれて講師から彼女がここに連れて来られた経緯の説明は受けていた。
 クレアが人質の王女になってしまったのは全くの不可抗力なのに、皇女や皇子らからは何かにつけて「人質のくせに」と言われる。その度に理不尽さが心中に溜まっていった。

 最初からクレアが愚弄される理由などないはずなのに、皆口を揃えて同じように罵倒する。

 自分のことなら我慢ができた。だが目前でアーサーが愚弄されているのを目の当たりにすると、これまで堪えていた想いが一気に溢れ出てきたようだった。
 アーサーの境遇とクレアの境遇が重なったように感じたのだ。

「お前! 皇太子の婚約者になったからって調子に乗るな‼︎」
「わたくしはそのようなつもりは、一切ございません」

 物おじせず背筋をピンと立てたクレアの姿は、淑女の鑑のようである。
 その様子を受けてなのか、ブルーノはクレアを睨めつけながらも言葉を紡ぐことができないでいた。

「クレア、帰ろう」

 アーサーはクレアの肩に手を置いた。彼の温かい体温を感じられると、乱れていた心が落ち着いていくように感じる。

「はい、アーサー様」
 
 クレアはアーサーの手を取って、立ち上がったのだった。
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