64 / 96
第2部 自由
夕刻の庭園にて
しおりを挟む
夕刻。
クレアは身支度を終えて侍女長のサラ、侍女のリリーと共に中庭のガゼボへと訪れると、そこにはすでに侍従を連れたアーサーが待っていた。
「申し訳ありません。お待たせをしてしまいましたでしょうか」
クレアに気がついたアーサーは、腰掛けていた椅子から立ち上がり彼女を一目見て一瞬動きを止めた。
「いや、私も今到着したところだ。……ところで」
「はい」
「……とても、よく似合ってる」
瞬間、クレアの顔は耳まで赤く染まり、彼女の背後ではリリーとサラが小さく飛び跳ねてお互いに手を合わせていたのだった。
(似合うって言ってもらえることが、こんなにも嬉しいことだったとは……)
クレアは必死に胸の高鳴りを抑えながら、アーサーのエスコートで庭園へと踏み込んだのだった。
現在の季節は秋であるし、今は夕方なので大分日が沈んではいるが、まだ灯をつけなくてもお互いの姿を確認するのには問題なさそうだ。
ゆっくりとアーサーと共に中庭を歩いていく。
その間ほとんど会話がなく、クレアは必死に話題を探しているとアーサーが口を開いた。
「ときに君の作った香水だが、どうやら効果が発揮されてきたようだな」
丁度クレアもその話題を振ろうかと思っていたので、出掛かっていた言葉を必死に飲み込み頷いた。
「はい。身につけてくれた方は皆『身体の調子がよくなった』と言ってくれています」
「そうか。……それでは、やはり魔法の香水は成功していたのだろうか」
クレアは、思わずピタリと身体の動きを止めた。
もし、アーサーの言葉どおりであれば、あの時の発光から現れた水を使用した香水は完成していたことになる。
それは今更ながら、大変なことではないだろうか。
「アーサー様。……もし可能であれば件の香水を、アンナさ……アンナの実家の魔道具店で販売をしてもよろしいでしょうか」
クレアは習慣でアンナを下女らしからぬ呼び方で呼んだので、慌てて訂正した。
アーサーに不審がられていないだろうかと彼の方に視線を向けたが、特に動じた様子はない。
「そうだな。異論はないが、それには予め様々な根回しをしておく必要があるだろう」
アーサーの話によると、「疲労回復効果の魔法の香水」の作製に万が一でもクレアが関わっていることが世間に知れ渡ることのないようにしなければならないそうだ。
「もし君が、便利な道具の制作に関わっていることが周知されれば、国内に混乱を生じさせるキッカケになるかもしれない。それは、なんとしても避けなければならない」
「……はい」
やはり難しいのだろうか。
もし、あの魔法薬が人々に受け入れられて多量に販売されるようになれば、アンナの実家の魔法道具店は閉店の危機を脱する可能性があるし、地域住民の健康も守れて一石二鳥だと思ったのだが。
「……そうだな。こちらの手札を最大限に利用して、君が関わっていることを伏せることができれば可能だろう」
瞬間、自然とクレアの表情はパッと明るくなっていた。
「アーサー様……!」
「ああ。ただ、まだ薬の効果の情報が圧倒的に不足しているな。安全性に関しては検知器に掛けた際問題はなかったが」
「左様ですね。それは確かめる必要がありますね」
「ああ。ただ皇帝に漏れると厄介なことになりかねないので、あくまでも極秘で動こう。それは俺が手配をする」
「ありがとうございます!」
クレアは嬉しくなり笑顔をこぼすが、反対にアーサーは無表情だった。
どうしたのだろうかと思ったが、よく考えてみると彼は婚約式の後から時折クレアに対してこのような表情をするのだった。
クレアは身支度を終えて侍女長のサラ、侍女のリリーと共に中庭のガゼボへと訪れると、そこにはすでに侍従を連れたアーサーが待っていた。
「申し訳ありません。お待たせをしてしまいましたでしょうか」
クレアに気がついたアーサーは、腰掛けていた椅子から立ち上がり彼女を一目見て一瞬動きを止めた。
「いや、私も今到着したところだ。……ところで」
「はい」
「……とても、よく似合ってる」
瞬間、クレアの顔は耳まで赤く染まり、彼女の背後ではリリーとサラが小さく飛び跳ねてお互いに手を合わせていたのだった。
(似合うって言ってもらえることが、こんなにも嬉しいことだったとは……)
クレアは必死に胸の高鳴りを抑えながら、アーサーのエスコートで庭園へと踏み込んだのだった。
現在の季節は秋であるし、今は夕方なので大分日が沈んではいるが、まだ灯をつけなくてもお互いの姿を確認するのには問題なさそうだ。
ゆっくりとアーサーと共に中庭を歩いていく。
その間ほとんど会話がなく、クレアは必死に話題を探しているとアーサーが口を開いた。
「ときに君の作った香水だが、どうやら効果が発揮されてきたようだな」
丁度クレアもその話題を振ろうかと思っていたので、出掛かっていた言葉を必死に飲み込み頷いた。
「はい。身につけてくれた方は皆『身体の調子がよくなった』と言ってくれています」
「そうか。……それでは、やはり魔法の香水は成功していたのだろうか」
クレアは、思わずピタリと身体の動きを止めた。
もし、アーサーの言葉どおりであれば、あの時の発光から現れた水を使用した香水は完成していたことになる。
それは今更ながら、大変なことではないだろうか。
「アーサー様。……もし可能であれば件の香水を、アンナさ……アンナの実家の魔道具店で販売をしてもよろしいでしょうか」
クレアは習慣でアンナを下女らしからぬ呼び方で呼んだので、慌てて訂正した。
アーサーに不審がられていないだろうかと彼の方に視線を向けたが、特に動じた様子はない。
「そうだな。異論はないが、それには予め様々な根回しをしておく必要があるだろう」
アーサーの話によると、「疲労回復効果の魔法の香水」の作製に万が一でもクレアが関わっていることが世間に知れ渡ることのないようにしなければならないそうだ。
「もし君が、便利な道具の制作に関わっていることが周知されれば、国内に混乱を生じさせるキッカケになるかもしれない。それは、なんとしても避けなければならない」
「……はい」
やはり難しいのだろうか。
もし、あの魔法薬が人々に受け入れられて多量に販売されるようになれば、アンナの実家の魔法道具店は閉店の危機を脱する可能性があるし、地域住民の健康も守れて一石二鳥だと思ったのだが。
「……そうだな。こちらの手札を最大限に利用して、君が関わっていることを伏せることができれば可能だろう」
瞬間、自然とクレアの表情はパッと明るくなっていた。
「アーサー様……!」
「ああ。ただ、まだ薬の効果の情報が圧倒的に不足しているな。安全性に関しては検知器に掛けた際問題はなかったが」
「左様ですね。それは確かめる必要がありますね」
「ああ。ただ皇帝に漏れると厄介なことになりかねないので、あくまでも極秘で動こう。それは俺が手配をする」
「ありがとうございます!」
クレアは嬉しくなり笑顔をこぼすが、反対にアーサーは無表情だった。
どうしたのだろうかと思ったが、よく考えてみると彼は婚約式の後から時折クレアに対してこのような表情をするのだった。
0
お気に入りに追加
1,814
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
虐げられ令嬢、辺境の色ボケ老人の後妻になるはずが、美貌の辺境伯さまに溺愛されるなんて聞いていません!
葵 すみれ
恋愛
成り上がりの男爵家に生まれた姉妹、ヘスティアとデボラ。
美しく貴族らしい金髪の妹デボラは愛されたが、姉のヘスティアはみっともない赤毛の上に火傷の痕があり、使用人のような扱いを受けていた。
デボラは自己中心的で傲慢な性格であり、ヘスティアに対して嫌味や攻撃を繰り返す。
火傷も、デボラが負わせたものだった。
ある日、父親と元婚約者が、ヘスティアに結婚の話を持ちかける。
辺境伯家の老人が、おぼつかないくせに色ボケで、後妻を探しているのだという。
こうしてヘスティアは本人の意思など関係なく、辺境の老人の慰み者として差し出されることになった。
ところが、出荷先でヘスティアを迎えた若き美貌の辺境伯レイモンドは、後妻など必要ないと言い出す。
そう言われても、ヘスティアにもう帰る場所などない。
泣きつくと、レイモンドの叔母の提案で、侍女として働かせてもらえることになる。
いじめられるのには慣れている。
それでもしっかり働けば追い出されないだろうと、役に立とうと決意するヘスティア。
しかし、辺境伯家の人たちは親切で優しく、ヘスティアを大切にしてくれた。
戸惑うヘスティアに、さらに辺境伯レイモンドまでが、甘い言葉をかけてくる。
信じられない思いながらも、ヘスティアは少しずつレイモンドに惹かれていく。
そして、元家族には、破滅の足音が近づいていた――。
※小説家になろうにも掲載しています
断罪されてムカついたので、その場の勢いで騎士様にプロポーズかましたら、逃げれんようなった…
甘寧
恋愛
主人公リーゼは、婚約者であるロドルフ殿下に婚約破棄を告げられた。その傍らには、アリアナと言う子爵令嬢が勝ち誇った様にほくそ笑んでいた。
身に覚えのない罪を着せられ断罪され、頭に来たリーゼはロドルフの叔父にあたる騎士団長のウィルフレッドとその場の勢いだけで婚約してしまう。
だが、それはウィルフレッドもその場の勢いだと分かってのこと。すぐにでも婚約は撤回するつもりでいたのに、ウィルフレッドはそれを許してくれなくて…!?
利用した人物は、ドSで自分勝手で最低な団長様だったと後悔するリーゼだったが、傍から見れば過保護で執着心の強い団長様と言う印象。
周りは生暖かい目で二人を応援しているが、どうにも面白くないと思う者もいて…
侯爵家のお飾り妻をやめたら、王太子様からの溺愛が始まりました。
二位関りをん
恋愛
子爵令嬢メアリーが侯爵家当主ウィルソンに嫁いで、はや1年。その間挨拶くらいしか会話は無く、夜の営みも無かった。
そんな中ウィルソンから子供が出来たと語る男爵令嬢アンナを愛人として迎えたいと言われたメアリーはショックを受ける。しかもアンナはウィルソンにメアリーを陥れる嘘を付き、ウィルソンはそれを信じていたのだった。
ある日、色々あって職業案内所へ訪れたメアリーは秒速で王宮の女官に合格。結婚生活は1年を過ぎ、離婚成立の条件も整っていたため、メアリーは思い切ってウィルソンに離婚届をつきつけた。
そして王宮の女官になったメアリーは、王太子レアードからある提案を受けて……?
※世界観などゆるゆるです。温かい目で見てください
後悔だけでしたらどうぞご自由に
風見ゆうみ
恋愛
女好きで有名な国王、アバホカ陛下を婚約者に持つ私、リーシャは陛下から隣国の若き公爵の婚約者の女性と関係をもってしまったと聞かされます。
それだけでなく陛下は私に向かって、その公爵の元に嫁にいけと言いはなったのです。
本来ならば、私がやらなくても良い仕事を寝る間も惜しんで頑張ってきたというのにこの仕打ち。
悔しくてしょうがありませんでしたが、陛下から婚約破棄してもらえるというメリットもあり、隣国の公爵に嫁ぐ事になった私でしたが、公爵家の使用人からは温かく迎えられ、公爵閣下も冷酷というのは噂だけ?
帰ってこいという陛下だけでも面倒ですのに、私や兄を捨てた家族までもが絡んできて…。
※R15は保険です。
※小説家になろうさんでも公開しています。
※名前にちょっと遊び心をくわえています。気になる方はお控え下さい。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風、もしくはオリジナルです。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字、見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
とある子爵家の長女であるエルミーユは、家長の父と使用人の母から生まれたことと、常人離れした記憶力を持っているせいで、幼い頃から家族に嫌われ、酷い暴言を言われたり、酷い扱いをされる生活を送っていた。
エルミーユには、十歳の時に決められた婚約者がおり、十八歳になったら家を出て嫁ぐことが決められていた。
地獄のような家を出るために、なにをされても気丈に振舞う生活を送り続け、無事に十八歳を迎える。
しかし、まだ婚約者がおらず、エルミーユだけ結婚するのが面白くないと思った、ワガママな異母妹の策略で騙されてしまった婚約者に、婚約破棄を突き付けられてしまう。
突然結婚の話が無くなり、落胆するエルミーユは、とあるパーティーで伯爵家の若き家長、ブラハルトと出会う。
社交界では彼の恐ろしい噂が流れており、彼は孤立してしまっていたが、少し話をしたエルミーユは、彼が噂のような恐ろしい人ではないと気づき、一緒にいてとても居心地が良いと感じる。
そんなブラハルトと、互いの結婚事情について話した後、互いに利益があるから、婚約しようと持ち出される。
喜んで婚約を受けるエルミーユに、ブラハルトは思わぬことを口にした。それは、エルミーユのことは愛さないというものだった。
それでも全然構わないと思い、ブラハルトとの生活が始まったが、愛さないという話だったのに、なぜか溺愛されてしまい……?
⭐︎全56話、最終話まで予約投稿済みです。小説家になろう様にも投稿しております。2/16女性HOTランキング1位ありがとうございます!⭐︎
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!
風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。
結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。
レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。
こんな人のどこが良かったのかしら???
家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる