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第2部 自由
力の発動
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「綺麗な水……」
クレアは、アンナとアンナの母親が戻ってくるまで先ほどのレシピノートを確認することにした。
やはり「花びらと綺麗な水」という非常にざっくりとした材料しか載っていない。
なんでも、その材料を「魔力混入装置」にかければ数十秒から数分で出来上がるそうだ。
また、補足をすると魔力自体は微量であっても生き物であれば秘められているものなので、毎日装置の上部にある皿のような部品に手を翳せば魔力を蓄積することができるらしい。
「作り方は……」
作り方は至ってシンプルだ。
水の中に花びらを浮かべて、魔力混入装置にかければ完成するらしい。
「何かメモが貼ってあるわ」
レシピノートの隅に正方形のメモが貼り付けてあり、それには「本来なら特別な薬品と精油で作るはずだけれど……」と書いてあった。
おそらく、アンナの母親のマリが貼り付けたものだろう。
「綺麗な水って、どういうものかしら」
クレアはそれを思い浮かべてみることにした。
綺麗な水は、きっととても透明で澄んでいるのだろう。加えて、飲み口はスッキリと爽やかで命の息吹を感じさせてもらえるものである。
(そして、もちろん無臭で、井戸から汲んで飲んでいたお水のように冷たくて美味しくて、けれどそれよりももっと綺麗で……)
瞼を閉じて思い浮かべていると、胸の奥が熱く感じた。
そうと思った途端に、クレア自身から眩い発光が生じる──!
思わず強く目を閉じ、しばらく時間を置いてから瞼を開くと、クレアの手元には水差しが握られていた。
「これは……何かしら……」
先ほどまでは何も握っていなかったはずなのに、一体これはどうしたことか。
クレアの手に握られているのは透明なガラス製の水差しで、それは女性が両腕で抱えられるほどの大きさである。
あまりのことで思考が停止しかけたが、このまま力を抜いたら水差しを落としてしまうと思い、それを握る手に力を込めた。
「これは、まさか……先ほどの光から生まれた……?」
そう言葉にすると、急に不可思議な現象が現実味を帯びたように感じる。
思い返してみると以前にもこのような光が発した後、不思議な現象が起きたのだ。
それは、婚約式で着用する衣装を切り裂かれたことを目の当たりにし、不思議な力で復元したあの時と状況が一致しないだろか。
「クレア様、お待たせをいたしました」
クレアが思考を巡らせていると、アンナとアンナの母親が戻って来た。
手に持つ水差しの説明をどうするかと迷う暇もなく二人が戻って来たので、水差しの対処ができなかったのだった。
「あら、ナディアさん、それはなんだい?」
マリがいち早く気がついた。
クレアはどう答えようかと目を泳がすと、持参したガラス瓶に視線を移した。
(そうだわ……!)
「実は、お水を予め持ってきていたので、これを先ほどの香水の材料に使えないかと思いまして」
「あら、そうなの」
アンナはクレアの方に視線を向けたが、少し不思議そうな表情をしただけで特に疑問には思っていないようだ。
なんとか切り抜けられたと胸を撫で下ろしていると、アンナの母親が「それなら使わせてもらおうかね」と言って腕を差し出したので手渡した。
(よく考えてみると、よく分からないお水を渡すのはあまりよくないかしら……)
だが、クレアが思考を巡らせている間にあっという間に準備が整えられて、魔力混入装置に先ほどの水がセットされていた。
装置は人が抱えられるくらいの大きさで、その中央にキラリと光る石がはめ込まれている。
「花びらは……、そうだわ。先ほどアンナが持ってきてくれた花びらを使おうかしら」
そうして、水面の上に何枚か花びらを浮かべて装置を起動させた。
グルルンという独特な起動音が三十秒ほど鳴り響いた後、自動的にそれは止まったのだった。
「完成したわ」
「え、もう?」
呆気に取られていたアンナは母親の近くに掛け寄り、その入れ物を受け取って自身の手の甲に一滴それを垂らしてみる。
すると、少し離れているのにも関わらず、クレアにもその香りを認識することができた。
「とてもよい香りですね!」
「はい。まだ効果はわかりませんが、なんだか身体が軽くなったような気がします」
「そうなのですね。香りもするし、ひとまず香水としては完成したようですね」
ただ、まだ「疲労回復」の効果があるかは判断することができないので、今日のところは完成した香水を半分に分け一つは魔法具店に預けて、もう一つはクレアらが持ち帰ることにしたのだった。
(完成していればよいのだけれど……)
このクレアの願いがどうなったかは、後日判明することになるのだった。
クレアは、アンナとアンナの母親が戻ってくるまで先ほどのレシピノートを確認することにした。
やはり「花びらと綺麗な水」という非常にざっくりとした材料しか載っていない。
なんでも、その材料を「魔力混入装置」にかければ数十秒から数分で出来上がるそうだ。
また、補足をすると魔力自体は微量であっても生き物であれば秘められているものなので、毎日装置の上部にある皿のような部品に手を翳せば魔力を蓄積することができるらしい。
「作り方は……」
作り方は至ってシンプルだ。
水の中に花びらを浮かべて、魔力混入装置にかければ完成するらしい。
「何かメモが貼ってあるわ」
レシピノートの隅に正方形のメモが貼り付けてあり、それには「本来なら特別な薬品と精油で作るはずだけれど……」と書いてあった。
おそらく、アンナの母親のマリが貼り付けたものだろう。
「綺麗な水って、どういうものかしら」
クレアはそれを思い浮かべてみることにした。
綺麗な水は、きっととても透明で澄んでいるのだろう。加えて、飲み口はスッキリと爽やかで命の息吹を感じさせてもらえるものである。
(そして、もちろん無臭で、井戸から汲んで飲んでいたお水のように冷たくて美味しくて、けれどそれよりももっと綺麗で……)
瞼を閉じて思い浮かべていると、胸の奥が熱く感じた。
そうと思った途端に、クレア自身から眩い発光が生じる──!
思わず強く目を閉じ、しばらく時間を置いてから瞼を開くと、クレアの手元には水差しが握られていた。
「これは……何かしら……」
先ほどまでは何も握っていなかったはずなのに、一体これはどうしたことか。
クレアの手に握られているのは透明なガラス製の水差しで、それは女性が両腕で抱えられるほどの大きさである。
あまりのことで思考が停止しかけたが、このまま力を抜いたら水差しを落としてしまうと思い、それを握る手に力を込めた。
「これは、まさか……先ほどの光から生まれた……?」
そう言葉にすると、急に不可思議な現象が現実味を帯びたように感じる。
思い返してみると以前にもこのような光が発した後、不思議な現象が起きたのだ。
それは、婚約式で着用する衣装を切り裂かれたことを目の当たりにし、不思議な力で復元したあの時と状況が一致しないだろか。
「クレア様、お待たせをいたしました」
クレアが思考を巡らせていると、アンナとアンナの母親が戻って来た。
手に持つ水差しの説明をどうするかと迷う暇もなく二人が戻って来たので、水差しの対処ができなかったのだった。
「あら、ナディアさん、それはなんだい?」
マリがいち早く気がついた。
クレアはどう答えようかと目を泳がすと、持参したガラス瓶に視線を移した。
(そうだわ……!)
「実は、お水を予め持ってきていたので、これを先ほどの香水の材料に使えないかと思いまして」
「あら、そうなの」
アンナはクレアの方に視線を向けたが、少し不思議そうな表情をしただけで特に疑問には思っていないようだ。
なんとか切り抜けられたと胸を撫で下ろしていると、アンナの母親が「それなら使わせてもらおうかね」と言って腕を差し出したので手渡した。
(よく考えてみると、よく分からないお水を渡すのはあまりよくないかしら……)
だが、クレアが思考を巡らせている間にあっという間に準備が整えられて、魔力混入装置に先ほどの水がセットされていた。
装置は人が抱えられるくらいの大きさで、その中央にキラリと光る石がはめ込まれている。
「花びらは……、そうだわ。先ほどアンナが持ってきてくれた花びらを使おうかしら」
そうして、水面の上に何枚か花びらを浮かべて装置を起動させた。
グルルンという独特な起動音が三十秒ほど鳴り響いた後、自動的にそれは止まったのだった。
「完成したわ」
「え、もう?」
呆気に取られていたアンナは母親の近くに掛け寄り、その入れ物を受け取って自身の手の甲に一滴それを垂らしてみる。
すると、少し離れているのにも関わらず、クレアにもその香りを認識することができた。
「とてもよい香りですね!」
「はい。まだ効果はわかりませんが、なんだか身体が軽くなったような気がします」
「そうなのですね。香りもするし、ひとまず香水としては完成したようですね」
ただ、まだ「疲労回復」の効果があるかは判断することができないので、今日のところは完成した香水を半分に分け一つは魔法具店に預けて、もう一つはクレアらが持ち帰ることにしたのだった。
(完成していればよいのだけれど……)
このクレアの願いがどうなったかは、後日判明することになるのだった。
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