人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉

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第2部 自由

ポプリ作り

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「それで、今日はポプリの作り方を教わりに来たんだったね」
「うん。お母さん、昔からポプリを手作りしてたから」

 アンナが目を輝かせると、アンナの母親のマリは笑顔を浮かべた。

「まあ、人に教えられるほどの大したものじゃないけど、今日はせっかくアンナの同僚が来てくれたんだ。できる限り道具は用意はしておいたし、好きなように作っておくれ」
「ありがとうございます。是非、こちらを受け取っていただきたいのですが……」

 クレアは、マリに持参した薔薇を贈った。
 その薔薇は、クレアが不思議な力で成長させた例の薔薇である。

「あら、とても綺麗ね。ナディアさん、ありがとう」

 クレアは一瞬自分に向けられている言葉だとは思わず受け答えずにいたが、アンナがチラリと目で合図を送ったのですぐに頷いた。

「い、いえ! 少しでも気に入っていただけたら嬉しいです!」

 マリは、早速花瓶を取り出して贈った薔薇を生けてくれた。

 それからマリは、クレアたちを店の奥へと案内した。
 バッグヤードを通ると、簡易的なテーブルや椅子が置かれた小部屋に入室する。テーブルの上には茶器や本などが置かれているので、どうやらここは休憩室として使っているようだ。

「それじゃあ、まず……」

 乾燥植物、シナモン、精油など、ポプリの材料は予め用意をしてあり、マリは作り方を丁寧に説明していく。

 マリの指導のもと、クレアはラベンダーを選び、問題なくポプリは完成した。
 クレアは初めてポプリを手にしたのだが、手のひらサイズの小袋からよい香りがして心地が良いと思った。

(これで、皆さんに薔薇の香りを少しでも楽しんでもらえるかしら)

 そう思うと、心が躍り出しそうだった。

(そうだわ。多めに作ってお土産にしましょう)

 そうして、ポプリを作り終えたのだった。
 目的も果たしたことであるし、帰り支度を整えていると、マリとアンナの会話が聞こえてきた。

「表通りにとても大きな魔道具の専門店ができてね、ここはご覧の通り毎日閑古鳥が鳴いているの。もう閉めようかと思っているのよ」
「そんな! ここはお母さんにとって、とても大切な場所でしょう⁉︎」
「だからこそ、無理に続けて破産なんてことにはしたくないのよ。アンナ、これまで苦労かけたわね。そういうわけだから、あなたがそろそろ戻れるように口利きをお願いしようと思うの」

 その言葉にクレアはドキリとする。

(アンナさん、実家に戻ってしまうのかしら……。それがアンナさんも望んでいることなら仕方がないけれど……)

 そう思うが、とても残念だという気持ちが湧き上がってくる。

「私はまだ戻らないわ! 周囲の人たちに何のご恩も返せていないもの」
「そうかい。ならそれでよいけど、ここは直に畳むからね」
「そんな……」

 そう言って顔を伏せたアンナを見て、クレアは胸が痛むように感じた。

(何か、私にも力になれないかしら……)

「そうだわ、お母さん。表通りの店にはないような魔道具を作ったらどうかしら?」
「そうは言っても、中々高価な材料が必要なものはね……」

 アンナは、思考を巡らせてしているのかしばらく目を閉じてから、「あ!」と声を出した。

「そうだわ、うちには秘伝のレシピノートがあるじゃない!」

 意気揚々とした表情のアンナに、クレアは胸を撫で下ろした。
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