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第2部 自由

クッキー作り

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 それから、クレアはアーサーに許可を得た上で、自分の余暇時間を利用して厨房へと赴いて薔薇のクッキーを焼くことにした。
 アーサーはクレアが料理をしたいと申し出をした時はしばし考えていたが、クレアの生き生きとした顔を見たからなのか許可を出したのだった。

 クレアはお菓子作りは初めてなので、ほぼ料理人に指示を出してもらいながら丁寧に行っていく。
 オーブンで焼き上がったクッキーは、薔薇の上品な香りがほどよく感じられてとて美味しかった。
 
「とても美味しいです。よかったら二人もいかがですか?」

 日頃クレアは皇妃教育の講師らからリリーやアンナ、他の侍女らに対しての言葉遣いを改めるように言われているが、彼女らはクレアにとって特別な存在なのでリリーやアンナに対しては改めなくてもよいようにアーサーに話を通している。

 二人は顔を見合わせたが、小さく頷いた。

「はい。それでは一枚ずついただきます」
「ええ、是非!」

 本来なら使用人が王族であり皇太子の婚約者であるクレアから易々と何かを受け取ることなど許されないことであるのだが、リリーとアンナはこれまでクレアに仕えてきて「こういった時に受け取った方が喜ぶ」というクレアの性格や気質をよく理解をしているので、あえて受け取ることにしたのだ。

 リリーとアンナはクッキーを受け取り上品に食すと表情を綻ばせた。
 思わず目を見開き二人とも完食し口元をハンカチで当ててからクレアに切り出した。

「とても美味しかったです」
「それはよかったです。安心しました」

 クレアは「美味しかった」という言葉の余韻にしばらく浸っていたいと思った。

「この薔薇はとてもよい香りがします!」
「ええ、私もそう思います」

 クレアは感動してくれているアンナに、ふとあることを相談しようと思いつく。

「よろしければ、この薔薇を何か有効に使える手段があれば教えていただきたいのです」
「有効に使える手段ですか?」

 アンナはしばらく口持ちに手を当てた後、真っ直ぐにクレアと視線を合わせた。

「それでは、ポプリは如何でしょうか」
「ポプリですか?」

「はい。ポプリは今皇都中の女性の間で流行っているのですよ」
「まあ、左様でしたか。ただ、それはどうやって作るものなのでしょうか」
「それでしたら、私の母が魔法道具のお店を開いていて、趣味でポプリを作っていますので作り方等は聞いてきますね。手紙でもよいのですが実際に作っているところを見た方がよいと思うので。ただ外出の許可が降りればよいのですが」

 クレアはすぐにサラに視線を合わせると、サラは満面の笑みを浮かべて頷く。

「その点は、おそらく問題はないかと思います」

 クレアは今日の夕食の時に、その件をアーサーに持ちかけようと思ったのだった。
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