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第1部 仮初めの婚約者
婚約式
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それから、二時間ほど準備をしてから婚約式の開始となった。
出席者は皇帝、皇后、二人の皇子と二人の皇女、そして重臣らである。
帝国はアズーロ教を国教と定めているので、婚約式自体は皇宮の敷地内に建てられている礼拝堂で行われ、その後は皇宮の数ある中庭の一つでガーデンパーティーを行う予定だ。
「神の御前にて、ブラウ帝国第三皇子アーサー=カン・ブラウと、ユーリ王国の王女クレア・フロー=ユーリは今をもって婚約を結んだことを証明いたします」
司祭が祭壇の前で高らかに宣言をした途端、会場内に拍手が沸き起こった。
クレアはベースが白地の銀糸の華やかな衣装を身につけており、その裾に施されている意匠は今も故国にいるはずの母親が好んで身につけていたドレスに施されていたものとほぼ同じもので、思い入れの強い衣装となった。
その衣装を身につけて、大勢の人々の前で拍手を受けている今の状況がとても不思議で現実味がなかった。
更に、クレアの隣には仮初めの関係ではあるが、皇太子であるアーサーが立っている。彼は自分と揃いの白地がベースの衣装を身につけていて、ブロンドは前髪ごと後ろに流していた。
先ほど、衣装が引き裂かれた際も、何故か不思議な力で元に戻った際も、アーサーは常に冷静で、クレアを励まし最善の判断をするよう努めてくれた。
そんな彼のことを思うと、尊敬と羨望の気持ちが湧き上がってきて、同時に胸の鼓動が早く打ち付けてくる。
「クレア」
「はい」
「改めてこれからよろしく」
「……こちらこそ、よろしくお願いします」
クレアがそう言うと、アーサーは静かに微笑んだ。
自分の言葉で微笑む彼の顔を見ているだけで、顔が熱くなり鼓動が更に打ち付け始めてきた。
(この気持ちは……、もしかして……)
巷で聞くところの恋慕というものなのだろうか。まさか、自分が……。
ともかくそれは後で考えようと思っていると、ふと目前から強い視線を感じた。
公爵令嬢のイリスだった。
美しいプラチナブロンドを編み込みハーフアップに髪留めで束ね、ライトグリーンのさわやかなドレスが端正な顔立ちの彼女にとても似合っている。
イリスは、こちらに向けて眉を寄せていた。それは、悲痛や哀れ気というような表現が合っているように感じる。
(そうだわ。アーサー様とイリス様はお互いを想いあっているのだったわ。私がお二人の間に入る余地なんてなかったのだわ)
そして、あの時のアーサーの言葉が呼び起こされた。
『君を愛することはない』
そうだ。そうだったのだ。そもそも自分は彼にこの先愛されることはない存在だったのだ。こんな気持ちを抱く資格もなかった。……だが、この気持ちの置き場は一体どうすれば良いのだろうか……。
そう思っていると、ふと隣に立つアーサーが声を掛けてきた。
「大丈夫か?」
アーサーは心配そうにクレアを覗き込んでいる。クレアの心はチクリと痛んだが、精一杯笑ってみせた。
「はい。少々緊張しているようです。ですが、こうして声を掛けていただいたので大丈夫です」
「そうか。何かあったらすぐに言って欲しい」
「ありがとうございます」
アーサーと会話をしている際にも胸が痛んだが、この気持ちはアーサーとイリスのためにも自分だけのものにしようとそっと思ったのだった。
出席者は皇帝、皇后、二人の皇子と二人の皇女、そして重臣らである。
帝国はアズーロ教を国教と定めているので、婚約式自体は皇宮の敷地内に建てられている礼拝堂で行われ、その後は皇宮の数ある中庭の一つでガーデンパーティーを行う予定だ。
「神の御前にて、ブラウ帝国第三皇子アーサー=カン・ブラウと、ユーリ王国の王女クレア・フロー=ユーリは今をもって婚約を結んだことを証明いたします」
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先ほど、衣装が引き裂かれた際も、何故か不思議な力で元に戻った際も、アーサーは常に冷静で、クレアを励まし最善の判断をするよう努めてくれた。
そんな彼のことを思うと、尊敬と羨望の気持ちが湧き上がってきて、同時に胸の鼓動が早く打ち付けてくる。
「クレア」
「はい」
「改めてこれからよろしく」
「……こちらこそ、よろしくお願いします」
クレアがそう言うと、アーサーは静かに微笑んだ。
自分の言葉で微笑む彼の顔を見ているだけで、顔が熱くなり鼓動が更に打ち付け始めてきた。
(この気持ちは……、もしかして……)
巷で聞くところの恋慕というものなのだろうか。まさか、自分が……。
ともかくそれは後で考えようと思っていると、ふと目前から強い視線を感じた。
公爵令嬢のイリスだった。
美しいプラチナブロンドを編み込みハーフアップに髪留めで束ね、ライトグリーンのさわやかなドレスが端正な顔立ちの彼女にとても似合っている。
イリスは、こちらに向けて眉を寄せていた。それは、悲痛や哀れ気というような表現が合っているように感じる。
(そうだわ。アーサー様とイリス様はお互いを想いあっているのだったわ。私がお二人の間に入る余地なんてなかったのだわ)
そして、あの時のアーサーの言葉が呼び起こされた。
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そうだ。そうだったのだ。そもそも自分は彼にこの先愛されることはない存在だったのだ。こんな気持ちを抱く資格もなかった。……だが、この気持ちの置き場は一体どうすれば良いのだろうか……。
そう思っていると、ふと隣に立つアーサーが声を掛けてきた。
「大丈夫か?」
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「はい。少々緊張しているようです。ですが、こうして声を掛けていただいたので大丈夫です」
「そうか。何かあったらすぐに言って欲しい」
「ありがとうございます」
アーサーと会話をしている際にも胸が痛んだが、この気持ちはアーサーとイリスのためにも自分だけのものにしようとそっと思ったのだった。
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