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第1部 仮初めの婚約者

仕立て屋

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「本日は手間を取らせるが、私の婚約者に相応しい衣装の手配を頼む」
「かしこまりました。我が店の店員の全てが全身全霊をかけまして取り掛からせていただきます」

 言い終わったと同時に、すぐさま店員と思しき二人の女性がクレアを店の奥へと案内してくれた。
 移動する前に、アーサーに対して「それでは行って参ります」と鈍くなっている思考をなんとか回して一言伝えると、アーサーは無表情のまま頷いた。

 今更だが、これから何時間も掛かるであろう仕立て作業に彼に付き合ってもらっても良いのだろうか。
 そんな考えが浮かび、心中に申し訳ない気持ちが立ち込め表情も少し沈むのだった。

「皇太子殿下のお母様の代から贔屓にしていただいている我が店に直接お越しいただけるとは、光栄でございます。それほど王女殿下のことを想っていらっしゃるのですね」

 店員は、これは出過ぎたことを申しましたと付け加えたが、クレアの心は少し軽くなった。
 加えて、気遣わせてしまったのだろうかと思ったが、純粋に店員の言葉が嬉しかったので気がつけば小さく微笑んでいたのだった。

「左様でしたか。お心遣いに感謝いたします」

 そうして、二階の特別室へと案内されると、その部屋は一階と同様、洗礼された調度品が品よく置かれた好感の持てる部屋である。

 それから、この店の筆頭デザイナーにより採寸、クレアの好みの色、刺繍の嗜好などを訊かれ、その場で何点かデザインの案を提示された。
 一時間以上をかけて普段使いのドレスの案を練り、素材や刺繍、装飾の宝石などを決めるとクレアも流石に疲れ、椅子に腰掛けて休憩を取った。

 そして、十分ほどがたちそれが終わると、いよいよ本日の目的である婚約式の際に身につける衣装作製の打ち合わせに入った。

「本日は、婚約式の際に身につけます衣装と普段使いの各シーン別に使用なさる衣装をと予め伺ってましたのでいくつか候補を描かせていただきましたが、如何でしょうか」

 スケッチブックに描かれているのは、これまでクレアが見たこともないような豪華でかつ先鋭的な心惹かれるデザインのラフ画だった。

「素敵です」

 ポツリと本音をこぼすと、先ほど自身をアンリと名乗った筆頭デザイナーは満面の笑みを浮かべた。
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